先日、ゴルフのラウンド中にバンカーの土手から後ろ向きにもんどりうって転がり落ちた安倍首相のことを書いたばかりだが、またもや前代未聞の珍事が起きた。
その珍事は大相撲九州場所、今日の取り組みの結びの一番、横綱・白鵬対関脇・嘉風戦で起こった。テレビ中継中の出来事だからご覧になられた方も多いことだろう。
今場所、昨日10日目が終わった時点で全勝は白鵬ただ1人、2敗で北勝富士と隠岐の海が追う展開、北勝富士と隠岐の海は今日も勝って星を伸ばし共に9勝2敗とした。
結びの一番、優勝争いの一番手を走る横綱・白鵬が土俵に上がる。対戦相手は、ベテランの域に達しながらも依然として、けれん味のない相撲を取り続けている関脇の嘉風だ。
昨今、すぐに引いたり、はたいたりする相撲が多い中、嘉風の相撲は観ていて気持ちがいい。好感の持てるお相撲さんだ。
さて、両者制限時間いっぱいとなり、立行司・式守伊之助の軍配が返り、両者立ち上がった。
白鵬は例によって左から嘉風の頬を張って出る。
白鵬の張り手は強烈で、それだけで脳震盪を起こし土俵に転がる力士もいる程だ。一発で倒れないまでも、張り手を食らい一瞬ひるむ相手をしりめに有利な態勢を築く、白鵬の常とう手段だ。
しかし、嘉風は張り手を食ってひるむようなそんな柔な関取ではない。
横綱より一瞬早く立ち上がった嘉風はもろ差しに成功する。勝利を確信する作戦が見事に当たった。後の勝利者インタビューで嘉風はそのように語っている。
もろ差しからの一気の寄り身で、土俵際で突き落としをみせる白鵬に体を預け、寄り倒しに仕留めた。
当然、行事の軍配は東・嘉風に上がり、審判からの物言いがつくことなく勝負はついた。見事な金星である。
勝負がついた後、両者は再び土俵に上がり、互いに一礼し、敗者は土俵を去り、勝者は、そんきょして勝ち名乗りを受ける。これが勝負に決着をつけた後の力士の当たり前の所作である。
ところがである。白鵬が土俵に上がろうとしないのだ。どうやら、行事に向かって「待った」したと訴えているようだ。その間にビデオテープが流されたが、明らかに両者とも両手をついて立ち上がり、確かに白鵬の張り手はもろに嘉風の頬を捉えている。疑う余地のないきれいな立ち合いだ。
それでも白鵬はしばらくの間、土俵に上がるのを拒み続け、その後、しぶしぶ上がった土俵上でも嘉風が勝ち名乗りを受けているさまを、立ったまま後ろから恨めしそうに眺めていた。
駄々っ子のようにごねる横綱、それに対し、手をこまねき速やかな処置をとれない行事と審判員、この前代未聞の光景を目の当たりのして、子供の頃から見てきた大相撲が全く変質してしまっているような気がして、なんだか寂しい気分になってしまった。