夏休み!ということで、ひとり文庫フェア絶賛開催中でした。
文庫本はやっぱり軽い!通勤のお供はハードカバーより
文庫本のほうが100倍ぐらい楽チンです。(・・・今更?)
そして、「戦争」を振り返る読書もほんの少し頑張りました。
104.ミーナの行進/小川洋子
■ストーリ
美しくてか弱くて本を愛したミーナ。あなたとの思い出は損なわれることが
ない。懐かしい時代に育まれた、二人の少女と家族の物語。
■感想 ☆☆☆☆
穏やかで懐かしい「あの頃」を丹念に描いた物語。穏やかではあるけれど
物語全体を覆うのは喪失への不安。家族全員が揃った写真を折に触れ
眺めては呟く主人公の姿が印象的。
「全員揃っている。大丈夫。誰も欠けてない。」
写真の中にしか存在しない「誰も欠けていない」家族。全員の笑顔と心が
恒久的にひとつの家庭におさまることも、みんなが永遠に幸せに一緒に
過ごすことも、どちらも難しい。けれど、その不安を穏やかな文章で
描いてみせたこの物語は、なんだかとても愛しかった。
105.クレヨン王国七つの森/福永令三
■ストーリ
晶太郎・雄三郎・まりよら自然観察クラブの7人は、それぞれ宿題の
をかかえて、伊豆の天城で夏期合宿をした。先生から出された宿題は
「苦手な曜日の苦手な原因を克服し、好きな曜日に変えること」。
合宿の「きもだめしオリエンテーリング」で7つの森に踏み込んだ彼らは
そこでクレヨン王国の住人と出会い・・・。
■感想 ☆☆☆☆*
人間とすべての生き物の共存を主張する「クレヨン王国」シリーズ
初期の作品です。クレヨン王国を全面に押し出してはおらず、人間の
住む世界のすぐ隣にあるクレヨン王国の住民との束の間のふれあいを
暖かく描いています。
人間もクレヨン王国の住民もみな抱えるものは同じ。苦手なものが
あったり、コンプレックスを抱えていたり、人との関係に悩んでいたり。
そっと寄り添いあって、お互いが抱える問題を共有し、新たな一歩を
踏み出す彼らの姿は、私たちにできる「ちょっとの一歩」が明日に
とって大きな力を持っているのではないかと思わせてくれます。
106.スプートニクの恋人/村上春樹
■ストーリ
22歳の春、すみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ
突き進む竜巻のような激しい恋だった。恋に落ちた相手はすみれより17歳
年上で結婚していた。更につけ加えるなら、女性だった。
■感想 ☆☆☆
人が人を想う気持ちのやるせなさと、どんなに誰かを想って、その誰かに
受け入れられたとしても消えることのない孤独があること。人は死ぬまで
ひとりで、誰かと寄り添って生きたとしても「ひとりで生きていく」こと
そこに変わりはないのだということ。読み終えたときに、そういった思いに
駆られた。ハッピーエンド。それなのに、やるせない気持ちに襲われた。
作品より。
「どうしてみんなこれほどまで孤独にならなくてはならないのだろう。
僕はそう思った。どうしてそんなに孤独になる必要があるのだ。
これだけ多くの人々がこの世界に生きていて、それぞれに他者の中に
何かを求めあっていて、なのになぜ我々は孤絶しなくてはならないのだ。
何のために?この惑星は人々の寂寥を滋養として回転を続けているのか。」
107.図書館戦争/有川浩
108.図書館内乱/有川浩
109.図書館機器/有川浩
110.図書館革命/有川浩
■ストーリ
時は西暦2019年。公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる
「メディア良化法」(実質上の検閲の合法化)が施行された日本。
強権的かつ超法規的にメディア良化法を運用する「メディア良化委員会」
とその実行組織「良化特務機関」の言論弾圧に唯一対抗できる存在が
図書館だった。かくして図書館は表現の自由を守るために武装し、
「図書隊」を組織し、良化特務機関との永きに渡る抗争に突入することに
なる。
■感想 ☆☆☆☆☆
ひっじょーに面白かったです!
上記のあらすじだけ読むと、非常に堅苦しく、つらい戦いが待ち受けている
話のように見えますが、このストーリーを縦糸に、主人公たちの恋愛模様が
ふんだんに描かれていて、堅苦しさは微塵たりともありません。
どちらかというと、横糸のほうが目立つ場面が多く、息も絶え絶えに
きゃーきゃー言いながら読み終えました。ラブコメバンザイ!
しかし、この架空の世界。あながち「ありえない」とは言い切れない。
そんな恐ろしさも読みながら感じました。
111.グダグダの種/阿川佐和子
■感想 ☆☆☆
疲れたときの阿川さん。私にとっての清涼剤です。
いつも朗らかで元気な阿川さんは私にとって憧れのセンパイです。
112.陰日向に咲く/劇団ひとり
■ストーリ
陽の当たらないところで実直に生きている「人生の落ちこぼれ」たち6人。
彼らが社会復帰するまでの道のりを描いた連作短編集。
■感想 ☆☆☆
お笑い芸人、劇団ひとりさんのベストセラー作品。
なにせ読書は図書館便り。ベストセラー作品とは縁遠いため、ようやく
ようやく手に取りました。「ベストセラー」とか「作者の名前」とか
いろんなものが邪魔をしてフラットな状態では読めませんでしたが、
それでも面白いな、と感じました。ひとりひとりに優しい視線が配られ、
彼らの小さな「一歩」が丁寧に描かれています。
113.レヴォリューションNo.3/金城一紀
■ストーリ
君たち、世界を変えてみたくないか?
オチコボレ高校に通う「僕」たちは、三年生を迎えた今年、とある作戦に
頭を悩ませていた。厳重な監視のうえ強面のヤツらまでもががっちり
ガードするお嬢様女子高の文化祭への突入が、その課題だ。
ゾンビーズシリーズ第1弾。
■感想 ☆☆☆☆
躍動感あふれる主人公たちの活躍が心地よい。
彼らは馬鹿なこと、意味のないことに、精一杯の力を傾ける。生きている
ことを心から楽しむ。生きていることを実感するために。
そんな彼らの姿に胸を熱くしながら、読み進めた。
114.でいごの花の下に/池永陽
■ストーリ
プロのカメラマンだった男は姿を消した。死をほのめかすメモと、
使いきりカメラを残して。フリーライターの燿子は、恋人の故郷である
沖縄へ向かう。どこまでも青い空と海、太陽と風に包まれて愛した男を追い、
その過去を知った彼女は・・・。戦後60年、沖縄の傷が癒えることはない。
■感想 ☆☆☆
沖縄戦の残酷さ、沖縄戦が沖縄の人たちに与えた物理的、精神的苦痛を
改めて思いました。九州在住の私にとって、沖縄は「九州・沖縄」という
身近な存在ですが、きっと、沖縄の人たちにとって「沖縄は沖縄」であり
九州も本州も、「沖縄以外」なんだろうな、と思いました。
そう思われても仕方がないと思いました。戦後60年。けれど、沖縄の
人たちは戦後も色々なものを背負わされている。そういったことにも向き
合っている作品でした。
本文より
「人は人を殺すのです。いえ、殺せるのです。条件さえ重なれば。
私はそれは運だと思います。たまたま殺人を犯さない人間がいたとしたら
それは運です。殺さないのではなく、殺さなければいけない状況に
陥らなかっただけだと思います。」
115.戦争童話集/野坂昭如
■ストーリ
焼跡にはじまる青春の喪失と解放の記憶。戦後を放浪しつづける著者が、
戦争の悲惨な極限に生まれた非現実の愛とその終わりを「8月15日」に
集約して描く鎮魂の童話集。
■感想 ☆☆☆☆
平易な文章で描かれた童話集ですが、子供向けではありません。
読み進めながら、何度も途中で挫折しそうになりました。日本の戦争が
終わりを迎えた8月15日。けれど、8月15日も、その翌日も
その翌々日も、日本にはまだまだ悲しみが渦巻いていたんだな、と
今更ながらに思いました。戦争が終わりを迎えたのは8月15日。
けれど、戦争が本当に終わったのはいつなんだろう。
116.お艶殺し/谷崎潤一郎
■ストーリ
駿河屋の一人娘お艶と奉公人新助は雪の夜駈落ちした。幸せを求めた
道行きだったはずのふたり。しかし、気ままな新生活を愉しむ女と
破滅への意識の中で悪を重ねてゆく男。
「殺人とはこれほど楽な仕事か」。
■感想 ☆☆☆
読み終えた後、大きな大きな孤独に包まれる一冊。お艶が求めたものは
一体、なんだったのだろう。なにがどうなったら、新助はお艶と幸せに
暮らせたのだろう。ふたりが踏み誤った一歩がよく分からなくて、
だからこそ、私は自分の人生のあやふやさに気付かされて、大きな孤独と
不安とそら恐ろしさに襲われた。
併催されている「金色の死」では、文学とは何か、芸術とは何かが
探求されており、こちらからも生きていくこと、芸術と真摯に向き合うこと
の計り知れない孤独を実感する。三島作品を思い出させる作品。
117.町長選挙/奥田英朗
■ストーリ
離島に赴任した精神科医の伊良部。そこは、島を二分して争われる町長
選挙の真っ最中だった。いつもは暴走してばかりのトンデモ精神科医、
伊良部もその騒動に巻き込まれてしまい・・・。
■感想 ☆☆*
傍若無人の伊良部は健在。
「物事、人が死ななきゃ、成功なのだ。」と言い放つ伊良部はとても
迷惑な人間だけれど、その言葉には確かに、と思わされるものもある。
人間関係に疲れている人、ストレスで意が痛い人には、ぜひ伊良部先生
に会ってほしい。伊良部先生の真似は到底できないけれど、伊良部先生を
ほんの少し見習って、肩の力を思いっきり抜いてほしい。
118.海の底/有川浩
■ストーリ
横須賀に巨大甲殻類来襲。食われる市民を救助するため機動隊が横須賀を
駆ける。孤立した潜水艦『きりしお』に逃げ込んだ少年少女の運命は?!
警察は、自衛隊は、機動隊は。
海の底から来た『奴ら』から、横須賀を守れるのか。プロ集団たちの物語。
■感想 ☆☆☆☆
面白い!でも、気持ち悪い!
とにかく描写がグロテスクで、何度も何度も「無理無理無理!!!」と
顔を背けそうになりながら、前半は流し読みをしました。
けれど、中盤以降は、それぞれの場所で、自分たちの組織の名誉をかけて
そして、組織の本当の存在意義を思って、損得勘定や組織間の駆け引き
なしに動くプロたちの活躍ぶりに興奮。とにかくかっこいい方々が
たくさんたくさん出てきます。
119.ひとり夢見る/赤川次郎
■ストーリ
女子高生・浅倉ひとみの母、しのぶは元女優。これまで女手ひとつで、
ひとみを育ててくれた。だが、母にパトロンがいると聞かされたひとみは
ショックを受け、夜の町に飛び出してしまう。泣き疲れて、眠りに落ちた
ひとみがふと目を覚ますと、そこは18年前の映画撮影所だった。
母と共演することになったひとみは、父親が誰なのか探るが・・・。
■感想 ☆☆*
疲れたときの赤川作品。ステレオタイプの悪い人しか出てこないため、
安心して物語を楽しめます。母と娘の絆が爽やかに描かれていました。
120.幸福な家族/武者小路実篤
■ストーリ
馬鈴薯や玉葱や南瓜に美を見いだして、あくことなく野菜の絵を描く
老いたドイツ語教師・佐田とその妻、聡明で個性的な息子、娘と
その恋人たちが、人類の意志としての幸福を愛し、幸福を極めようとする
どこまでも素朴な善意を基調として構成された小説。
■感想 ☆☆☆
物語の多くは主人公たちの会話で構成されている。ユーモアの感覚は
時代によって異なるため、きっと当時は「ユーモアあふれる当意即妙」
の会話だったと思われる彼らの会話も、今読むと、ユーモアとはほど
遠い。けれど、その会話の端々から、彼らの明るさ、思いやりが伝わって
きて、希望に満ちた明日を信じることができる。
どこか作り事めいたうそ臭さを感じてしまうかもしれないけれど、
このゆったりとしたテンポで繰り広げられる家族間の会話は
今の時代に必要な穏やかさなのではないかと思った。
文庫本はやっぱり軽い!通勤のお供はハードカバーより
文庫本のほうが100倍ぐらい楽チンです。(・・・今更?)
そして、「戦争」を振り返る読書もほんの少し頑張りました。
104.ミーナの行進/小川洋子
■ストーリ
美しくてか弱くて本を愛したミーナ。あなたとの思い出は損なわれることが
ない。懐かしい時代に育まれた、二人の少女と家族の物語。
■感想 ☆☆☆☆
穏やかで懐かしい「あの頃」を丹念に描いた物語。穏やかではあるけれど
物語全体を覆うのは喪失への不安。家族全員が揃った写真を折に触れ
眺めては呟く主人公の姿が印象的。
「全員揃っている。大丈夫。誰も欠けてない。」
写真の中にしか存在しない「誰も欠けていない」家族。全員の笑顔と心が
恒久的にひとつの家庭におさまることも、みんなが永遠に幸せに一緒に
過ごすことも、どちらも難しい。けれど、その不安を穏やかな文章で
描いてみせたこの物語は、なんだかとても愛しかった。
105.クレヨン王国七つの森/福永令三
■ストーリ
晶太郎・雄三郎・まりよら自然観察クラブの7人は、それぞれ宿題の
をかかえて、伊豆の天城で夏期合宿をした。先生から出された宿題は
「苦手な曜日の苦手な原因を克服し、好きな曜日に変えること」。
合宿の「きもだめしオリエンテーリング」で7つの森に踏み込んだ彼らは
そこでクレヨン王国の住人と出会い・・・。
■感想 ☆☆☆☆*
人間とすべての生き物の共存を主張する「クレヨン王国」シリーズ
初期の作品です。クレヨン王国を全面に押し出してはおらず、人間の
住む世界のすぐ隣にあるクレヨン王国の住民との束の間のふれあいを
暖かく描いています。
人間もクレヨン王国の住民もみな抱えるものは同じ。苦手なものが
あったり、コンプレックスを抱えていたり、人との関係に悩んでいたり。
そっと寄り添いあって、お互いが抱える問題を共有し、新たな一歩を
踏み出す彼らの姿は、私たちにできる「ちょっとの一歩」が明日に
とって大きな力を持っているのではないかと思わせてくれます。
106.スプートニクの恋人/村上春樹
■ストーリ
22歳の春、すみれは生まれて初めて恋に落ちた。広大な平原をまっすぐ
突き進む竜巻のような激しい恋だった。恋に落ちた相手はすみれより17歳
年上で結婚していた。更につけ加えるなら、女性だった。
■感想 ☆☆☆
人が人を想う気持ちのやるせなさと、どんなに誰かを想って、その誰かに
受け入れられたとしても消えることのない孤独があること。人は死ぬまで
ひとりで、誰かと寄り添って生きたとしても「ひとりで生きていく」こと
そこに変わりはないのだということ。読み終えたときに、そういった思いに
駆られた。ハッピーエンド。それなのに、やるせない気持ちに襲われた。
作品より。
「どうしてみんなこれほどまで孤独にならなくてはならないのだろう。
僕はそう思った。どうしてそんなに孤独になる必要があるのだ。
これだけ多くの人々がこの世界に生きていて、それぞれに他者の中に
何かを求めあっていて、なのになぜ我々は孤絶しなくてはならないのだ。
何のために?この惑星は人々の寂寥を滋養として回転を続けているのか。」
107.図書館戦争/有川浩
108.図書館内乱/有川浩
109.図書館機器/有川浩
110.図書館革命/有川浩
■ストーリ
時は西暦2019年。公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる
「メディア良化法」(実質上の検閲の合法化)が施行された日本。
強権的かつ超法規的にメディア良化法を運用する「メディア良化委員会」
とその実行組織「良化特務機関」の言論弾圧に唯一対抗できる存在が
図書館だった。かくして図書館は表現の自由を守るために武装し、
「図書隊」を組織し、良化特務機関との永きに渡る抗争に突入することに
なる。
■感想 ☆☆☆☆☆
ひっじょーに面白かったです!
上記のあらすじだけ読むと、非常に堅苦しく、つらい戦いが待ち受けている
話のように見えますが、このストーリーを縦糸に、主人公たちの恋愛模様が
ふんだんに描かれていて、堅苦しさは微塵たりともありません。
どちらかというと、横糸のほうが目立つ場面が多く、息も絶え絶えに
きゃーきゃー言いながら読み終えました。ラブコメバンザイ!
しかし、この架空の世界。あながち「ありえない」とは言い切れない。
そんな恐ろしさも読みながら感じました。
111.グダグダの種/阿川佐和子
■感想 ☆☆☆
疲れたときの阿川さん。私にとっての清涼剤です。
いつも朗らかで元気な阿川さんは私にとって憧れのセンパイです。
112.陰日向に咲く/劇団ひとり
■ストーリ
陽の当たらないところで実直に生きている「人生の落ちこぼれ」たち6人。
彼らが社会復帰するまでの道のりを描いた連作短編集。
■感想 ☆☆☆
お笑い芸人、劇団ひとりさんのベストセラー作品。
なにせ読書は図書館便り。ベストセラー作品とは縁遠いため、ようやく
ようやく手に取りました。「ベストセラー」とか「作者の名前」とか
いろんなものが邪魔をしてフラットな状態では読めませんでしたが、
それでも面白いな、と感じました。ひとりひとりに優しい視線が配られ、
彼らの小さな「一歩」が丁寧に描かれています。
113.レヴォリューションNo.3/金城一紀
■ストーリ
君たち、世界を変えてみたくないか?
オチコボレ高校に通う「僕」たちは、三年生を迎えた今年、とある作戦に
頭を悩ませていた。厳重な監視のうえ強面のヤツらまでもががっちり
ガードするお嬢様女子高の文化祭への突入が、その課題だ。
ゾンビーズシリーズ第1弾。
■感想 ☆☆☆☆
躍動感あふれる主人公たちの活躍が心地よい。
彼らは馬鹿なこと、意味のないことに、精一杯の力を傾ける。生きている
ことを心から楽しむ。生きていることを実感するために。
そんな彼らの姿に胸を熱くしながら、読み進めた。
114.でいごの花の下に/池永陽
■ストーリ
プロのカメラマンだった男は姿を消した。死をほのめかすメモと、
使いきりカメラを残して。フリーライターの燿子は、恋人の故郷である
沖縄へ向かう。どこまでも青い空と海、太陽と風に包まれて愛した男を追い、
その過去を知った彼女は・・・。戦後60年、沖縄の傷が癒えることはない。
■感想 ☆☆☆
沖縄戦の残酷さ、沖縄戦が沖縄の人たちに与えた物理的、精神的苦痛を
改めて思いました。九州在住の私にとって、沖縄は「九州・沖縄」という
身近な存在ですが、きっと、沖縄の人たちにとって「沖縄は沖縄」であり
九州も本州も、「沖縄以外」なんだろうな、と思いました。
そう思われても仕方がないと思いました。戦後60年。けれど、沖縄の
人たちは戦後も色々なものを背負わされている。そういったことにも向き
合っている作品でした。
本文より
「人は人を殺すのです。いえ、殺せるのです。条件さえ重なれば。
私はそれは運だと思います。たまたま殺人を犯さない人間がいたとしたら
それは運です。殺さないのではなく、殺さなければいけない状況に
陥らなかっただけだと思います。」
115.戦争童話集/野坂昭如
■ストーリ
焼跡にはじまる青春の喪失と解放の記憶。戦後を放浪しつづける著者が、
戦争の悲惨な極限に生まれた非現実の愛とその終わりを「8月15日」に
集約して描く鎮魂の童話集。
■感想 ☆☆☆☆
平易な文章で描かれた童話集ですが、子供向けではありません。
読み進めながら、何度も途中で挫折しそうになりました。日本の戦争が
終わりを迎えた8月15日。けれど、8月15日も、その翌日も
その翌々日も、日本にはまだまだ悲しみが渦巻いていたんだな、と
今更ながらに思いました。戦争が終わりを迎えたのは8月15日。
けれど、戦争が本当に終わったのはいつなんだろう。
116.お艶殺し/谷崎潤一郎
■ストーリ
駿河屋の一人娘お艶と奉公人新助は雪の夜駈落ちした。幸せを求めた
道行きだったはずのふたり。しかし、気ままな新生活を愉しむ女と
破滅への意識の中で悪を重ねてゆく男。
「殺人とはこれほど楽な仕事か」。
■感想 ☆☆☆
読み終えた後、大きな大きな孤独に包まれる一冊。お艶が求めたものは
一体、なんだったのだろう。なにがどうなったら、新助はお艶と幸せに
暮らせたのだろう。ふたりが踏み誤った一歩がよく分からなくて、
だからこそ、私は自分の人生のあやふやさに気付かされて、大きな孤独と
不安とそら恐ろしさに襲われた。
併催されている「金色の死」では、文学とは何か、芸術とは何かが
探求されており、こちらからも生きていくこと、芸術と真摯に向き合うこと
の計り知れない孤独を実感する。三島作品を思い出させる作品。
117.町長選挙/奥田英朗
■ストーリ
離島に赴任した精神科医の伊良部。そこは、島を二分して争われる町長
選挙の真っ最中だった。いつもは暴走してばかりのトンデモ精神科医、
伊良部もその騒動に巻き込まれてしまい・・・。
■感想 ☆☆*
傍若無人の伊良部は健在。
「物事、人が死ななきゃ、成功なのだ。」と言い放つ伊良部はとても
迷惑な人間だけれど、その言葉には確かに、と思わされるものもある。
人間関係に疲れている人、ストレスで意が痛い人には、ぜひ伊良部先生
に会ってほしい。伊良部先生の真似は到底できないけれど、伊良部先生を
ほんの少し見習って、肩の力を思いっきり抜いてほしい。
118.海の底/有川浩
■ストーリ
横須賀に巨大甲殻類来襲。食われる市民を救助するため機動隊が横須賀を
駆ける。孤立した潜水艦『きりしお』に逃げ込んだ少年少女の運命は?!
警察は、自衛隊は、機動隊は。
海の底から来た『奴ら』から、横須賀を守れるのか。プロ集団たちの物語。
■感想 ☆☆☆☆
面白い!でも、気持ち悪い!
とにかく描写がグロテスクで、何度も何度も「無理無理無理!!!」と
顔を背けそうになりながら、前半は流し読みをしました。
けれど、中盤以降は、それぞれの場所で、自分たちの組織の名誉をかけて
そして、組織の本当の存在意義を思って、損得勘定や組織間の駆け引き
なしに動くプロたちの活躍ぶりに興奮。とにかくかっこいい方々が
たくさんたくさん出てきます。
119.ひとり夢見る/赤川次郎
■ストーリ
女子高生・浅倉ひとみの母、しのぶは元女優。これまで女手ひとつで、
ひとみを育ててくれた。だが、母にパトロンがいると聞かされたひとみは
ショックを受け、夜の町に飛び出してしまう。泣き疲れて、眠りに落ちた
ひとみがふと目を覚ますと、そこは18年前の映画撮影所だった。
母と共演することになったひとみは、父親が誰なのか探るが・・・。
■感想 ☆☆*
疲れたときの赤川作品。ステレオタイプの悪い人しか出てこないため、
安心して物語を楽しめます。母と娘の絆が爽やかに描かれていました。
120.幸福な家族/武者小路実篤
■ストーリ
馬鈴薯や玉葱や南瓜に美を見いだして、あくことなく野菜の絵を描く
老いたドイツ語教師・佐田とその妻、聡明で個性的な息子、娘と
その恋人たちが、人類の意志としての幸福を愛し、幸福を極めようとする
どこまでも素朴な善意を基調として構成された小説。
■感想 ☆☆☆
物語の多くは主人公たちの会話で構成されている。ユーモアの感覚は
時代によって異なるため、きっと当時は「ユーモアあふれる当意即妙」
の会話だったと思われる彼らの会話も、今読むと、ユーモアとはほど
遠い。けれど、その会話の端々から、彼らの明るさ、思いやりが伝わって
きて、希望に満ちた明日を信じることができる。
どこか作り事めいたうそ臭さを感じてしまうかもしれないけれど、
このゆったりとしたテンポで繰り広げられる家族間の会話は
今の時代に必要な穏やかさなのではないかと思った。