英語のことわざに、
Don't burn the bridges.
というものがある。
直訳すると、「(渡って来た)橋を焼くな」。
過去の人間関係を良い状態にしたまま、次に進む、とでもいうのだろうか。
橋は人との繋がりということだろう。
今回の夫の転職。
前のボスが家族で本土に無期限のロードトリップに出かけてしまい、とれるはずの大型契約が流れ、人が辞めていき、仕事はあるものの、建築申請が下りるまでは始められず。
それで結局、夫は次の仕事を探すことにした。
最初にみつけた会社に応募したら、数日後に面接、3分の面接のあと、翌日から仕事、サラリーも前のところと同じ額から、というとんとん拍子に進んだ。
仕事を始めて三日目、夫は初めて新しいボスに会った。
実はそのボスと、前の会社のボスとは15年来の友人で、前の会社のボスが夫のことをとても高く評価していたという。
たまたま見つけた会社に応募した。
これは偶然だったんだろうか。
数ある会社の中から、たまたま前ボスと長年の友人が経営する会社を選ぶなんて。
世間は狭い。狭い島の、まして同業であればなおさらで、どこかで誰かと繋がっていても不思議はないけれど。
新しいボスに初めて会った、という話をしたとき、夫が
「Don't burn the bridges」
と言ったのだ。
喧嘩別れをしたり、気まずい終わり方をした人と、どこでまた縁がつながるかわからない。
もしも前のボスとの関係が良くなかったら、また違った結果になったかもしれない。
母が、
「仕返しなんてのは、何の得にもならないよ。どんな相手にも、後足で砂をかけるようなことをしたらいけない」
と言っていた。
良い人になろうとして、あれもこれも背負い込んでイライラしていた私に、
「あんたは自分で思うほどいい人じゃないんだから無理しなさんな」
と言っておきながら、仕返しなどするな、と言うのだ。
私はそれほどいい人じゃないんだから、仕返しぐらいしたっていいじゃん、と憎まれ口をたたいたけれど、しかし母が言いたいことはわかる。
山奥に潜む仙人でなければ、人は人とかかわらずには生きていけない。
過去に、気まずい別れ方をしてしまった人たちの幸せを願い、今歩いている橋を焼かずに生きていこうと思う。