2021年1月26日の朝日新聞の記事欄「私のイチオシ コレクション」に印刷博物館(東京都文京区)の学芸員・中西保仁氏が「日本の活版印刷」という記事を提供していた。
それを読んで私は同じ博物館学芸員資格を有する者として、非常に残念に思うとともに中西氏に学芸員としての責任の重大さを自覚してほしいと感じた。それはなぜか?それは活版印刷技術がもたらされた事についての説明文が、事実に基づいた丁寧なものとなっておらず、読者に誤った認識を伝えるものとなっているからである。また、この説明文が「聞き手」の高木彩情氏の編集によるものであれば、編集者の不見識によるものであるか、故意にこのようにしたかのいずれかという事になるが。いずれにしても記者失格というべきであろう。
その説明文は、「日本に活版印刷技術がもたらされたのは16世紀末。欧州から天正遣欧少年使節団を通じて、アジアから朝鮮出兵した豊臣秀吉を通じて、違う文化圏の技術が偶然同時期に伝わりました」という説明分の中の「朝鮮出兵」という表現と、それによって「伝わりました」とする表現である。
定説では、豊臣秀吉は「朝鮮を侵略した」のであり、その際に「多くの活字と本、それに印刷の技術者を略奪して連れて帰ってきた」事を説明すべきであろう。このような点も丁寧に説明するのが博物館学芸員の仕事であると思いますがいかがでしょうか。中西氏自身が記事のような説明をしたとすれば、彼自身、学芸員として勉強不足であるし、学芸員としての責任感の乏しさが感じられ、学芸員としては失格でしょう。また、「聞き手」の高木氏が、中西氏の説明をそのまま自身で確認せず記事にしたのであれば「記者失格」でしょう。まして高木氏の編集によるものであれば、大手メディアとしてこれはフェイクの発信であり、「犯罪」的行為と言っても良いでしょう。読者は記事を批判的に読む習慣を持たなければいけません。そのためには、ウソを見抜く広い知識を持つ必要がありますし、そのための努力を惜しんではいけないでしょう。
ちなみに、金属活字による印刷技術は、13世紀の朝鮮半島の高麗国(918~1392)で発明されている。最も古い金属活字での刊本とされているのは、1974年にフランス国立図書館で発見された『直指心体要節』で1377年に刊行されたものである。現在、世界最古の金属活字印刷本として、ユネスコ世界記憶遺産に登録されている。李氏朝鮮国時代になると、第3代国王太宗(1400~18)の代の1403年に金属活字鋳造所が造られ、次の世宗(1418~50)の代には書籍出版が盛行し、訓民正音(朝鮮文字、ハングル)も制定された。
(2021年2月1日投稿)