2017年8月29日6時2分。総務相消防庁がJアラート(全国瞬時警報システム)で伝達した。内容は「ミサイル発射。ミサイル発射。北朝鮮からミサイルが発射された模様です。頑丈な建物や地下に避難してください。対象地域:北海道 青森県 岩手県 宮城県 秋田県 山形県 福島県 茨城県 栃木県 群馬県 新潟県 長野県」。6時14分には同庁は「さきほど上空通過の模様」と伝達した。
まず指摘しておきたいのは、伝達内容が「ずさんに過ぎる」という点である。政府機関からの伝達でありながら極めて軽率で無責任、曖昧で不親切、無意味で役に立たないもので混乱だけを生み出す内容であったという点である。
このJアラートによって、対象地域ではどのような事が起こったか。
JR東日本は午前6時2分から、東北、上越、北陸、秋田、山形の各新幹線全線で運転を見合わせ(30分頃までには全て運転再開)、在来線も一部運転を見合わせた。
JR北海道は北海道新幹線と道内の在来線全てで約20分間、運転を見合わせた。
青森県六ケ所村の六ケ所高校はスクールバス運行の都合で午前6時過ぎに休校を決定。校長は「六ケ所村には日本原燃の施設があり、近くには米軍三沢基地がある。最悪の事を考えて休校にした」という。
青森県七戸教育委員会は、「大事をとって」、町内の小中学校全6校の登校時間を1時間繰り下げ、生徒に自宅待機するよう指示したという。
北海道教育委員会は、公立の小中高、特別支援学校の計14校が登校時間を遅らせた。
茨城県土浦市の土浦日本大学高校や長野県佐久市の佐久長聖中学・高校などでは休校とした。
文科省の調査によると、休校した学校は、公立で4校、私立で5校だという。
また、西日本でも対応した地域があったが、それは、
徳島県は、知事が9勝ち1日の件総合防災訓練に「危険な落下物への対応」を盛り込むよう検討を指示した。
島根県は、知事が報道陣に「国からの情報をもとに県民に速やかな情報伝達をしたい」と述べた。
大阪府関西空港では、関西エアポートが構内に放送で、ミサイル発射を知らせ、「建物の中に避難してください」と呼びかけた。
富山地方鉄道は、富山市内の路面電車などの運行を停止(8分後運転再開)した。
香川県の高松琴平電気鉄道は上下8本の運行を見合わせた(10分後運転再開)。
またメディアでは、NHKは通常の番組を中止して、午前10時20分までミサイル報道を続けた。民放も午前中はミサイルだけの内容となった。
以上のような対応が各地で見られたという事であるが、このような対応は一言でいえば、「ばか騒ぎ」「常軌を逸した行動」と言うべきである。ただ単に生活を混乱させ騒がせただけになったという事ではないだろうか。
政府の予断と偏見による不確かで曖昧な内容の「Jアラート」がその元凶であるが、またそれに一部の自治体学校鉄道などの公的機関が疑問を持たず単純にすぐさま条件反射的に反応する状況は、軽率で危険で無責任という以外の何物でもない。こんなバカげた事をしている国民は日本人くらいしかいないであろう。
しかし、このようなバカげた事をさせる安倍政権にはもっと別の効果を狙っている事を知っておく必要がある。それは、国民に今回と同じような形でJアラートの体験を重ねさせる事によって、国民が北朝鮮という国に対して、「何をしでかすか分からない理解不能な恐ろしい国である」という印象を持つようにしているのであり、つまり印象操作をしているのであり、それをさらに反感や憎しみに育て、日本社会にあまねく広める事であり、それを背景にして、北朝鮮に対する流言飛語には疑問を抱く事なく即座に信じ、北朝鮮を敵視敵対するのみの国民を作ろうとしている事である。それも、傲慢で偽善者で差別主義者であるトランプ政権と結託し、トランプ政権の手先の役割を担って米国以上に日本を当事者化し北朝鮮に対して自ら積極的に挑発的な言動(これこそが戦争を挑発する言動)を行っていながら、国民に北朝鮮を危険視するように印象操作をしているのである。
最近の日米の動きをみると、
2017年9月5日、米ホワイトハウスのサンダース報道官は「北朝鮮の対話に焦点を当てて多くの時間を費やす時ではない。米政府の優先事項は朝鮮半島の非核化と米国民を守る事だ」と述べ、同日、米海軍太平洋艦隊のスウィフト司令官は「韓国海軍、海上自衛隊と緊密に作戦を統合し、弾道ミサイル防衛(BMD)と対潜水艦戦闘(ASW)の圧倒的な能力を提供する」と述べ、日米韓3か国の協力を呼びかけた。
2017年9月7日、韓国文在寅大統領との会談で安倍首相は「北朝鮮による相次ぐ挑発行動はこれまでにない深刻かつ重大な脅威だ。これまでとは異次元の圧力を課す必要がある」と強調し、日韓米の防衛協力を強化し抑止力向上の重要性を指摘した。また、小野寺防衛相は6日、韓国の宋永武国防相と協議し日米韓3か国の連携強化で一致し、「目に見える圧力」の具体化に向け、日米は共同訓練の規模拡大の検討を始めた。また、河野外相は5日の衆院外務委閉会中審査で、「北朝鮮が明確に非核化の意思を示して具体的な行動を取れば、対話の用意がある。今、国際社会として強調して圧力をかける必要がある」と述べた。また、菅官房長官は同5日、中国とロシアが北朝鮮の核・ミサイル開発の停止と同時に米韓にも軍事演習の停止を求めている事について「北朝鮮の核・ミサイルの脅威に備えるための米韓合同軍事演習を、安保理決議や国際法に違反した核実験や弾道ミサイル発射と同列に論じる事は全く適当ではない」と述べた。
しかし、安倍政権が今このように北朝鮮問題に必死になって脅威を煽っている最大の理由は、日本国民のすべてが知っているように、安倍自民党政権が国内政治(森友学園問題、加計学園問題、陸上自衛隊南スーダン日報問題など)において窮地に立っているため、国会議論の内容を強行に変え国民の関心を反らし、うやむやにしてしまおうとしているという事である。
またそれによって、安倍自民党政権が進める北朝鮮に対する攻撃的威嚇的な経済的軍事的圧力強化や自衛隊の武器増強への国民の支持を確実にしようとしているのである。
またそれを踏み台にして第9条など「憲法改悪」に対しても国民の賛同を取り付け、天皇制大日本帝国の国家体制への回帰を達成しようとしているのである。
安倍自民党政権のすべての政策の理念の歴史的原点は、明治維新、天皇制大日本帝国にあるのである。そして、その政治政策はすべて正当なものであるとし、侵略戦争も植民地政策も正当であるとし、韓国併合による植民地支配が南北分断の基となった責任も無視否定しているのである。さらに、朝鮮戦争においては沖縄県を中心として日本が米軍の兵站基地としての役割を与えられ、その特需によって経済発展し戦後復興をした事実もなかったかのように扱われている。そして、先の理念にそぐわない敗戦後に生み出された内容(日本国憲法)もすべて否定抹消削除されるべきものとしているのである。
トランプ政権も、日本敗戦後の米国政府が朝鮮半島民族の南北分断を目論見、朝鮮戦争では北朝鮮に存在した地上の建物すべてを破壊する攻撃を行った事実や、その朝鮮戦争の結果、南北が固定する事になった事実を無視し、その後も分断状態を維持する事が米国政府の利益にかなうため、あえて南北統一をさせず、常時の緊張状態を意図的に維持し、それによって東アジアの国々を自己の勢力下にコントロールしているのである。