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随筆紹介  捨てられぬ鍵    文科系

2016年09月16日 18時13分09秒 | 文芸作品
  捨てられぬ鍵   K・Kさんの作品   
 
 空き家になっていた実家を壊す事になった。父は七年前に他界。母は父が旅立ってから認知症になり、老人ホームに世話になっている。住む人のいなくなった家だが、母がいつでも帰れるように残していた。花好きの母は時々外出して家に帰ると、庭を眺めて「落ち着くね」、くつろいでいた。でも、そのうちに「おじいさんを思い出すから行きたくない」、嫌がるようになった。

 家を壊すきっかけは、甥が結婚して子どもが生まれ「アパートでは手狭になった」と相談を受けた時から。皆で話し合い空家になっている実家を壊して新居を建てる事になった。古い家だが両親が兄弟三人を育ててくれた愛着のある家。いざ無くなると思うと思い出も消えてしまいそうで寂しい。でも世代交代で仕方がない。やがて大きな柿の木も消え更地になった。全て無くなるといっそ諦めがつき、これから新生活が始まると思えるようになってきた。

 少ししてバッグの中から実家の鍵が出てきた。もう二度と使う事は無い。捨てようか。でも、手に取って見ているうちに思い出が蘇ってきた。迷った。捨てられない。そっとしまった。母にまだ家を壊した事は話していない。現実と自分だけの世界を行ったり来たりしているから。新居ができたらひ孫に会いに行こう。母は甥を可愛がっていた。たぶん分かってくれるだろう。 
コメント (3)
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