第6章 欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
コロナショック下の2020年春、アメリカは62兆円儲けた。というように、需要の多さに対する供給の少なさ(相対的希少性)があれば資本は儲けられる。その歴史的原初は、共有地に対する囲い込み(運動)とか、資本の本源的蓄積とか。これらによって私有財産(の増大)が公的富を減らす事を通じて(人工的)希少性を作り出し、資本は成長してきた。
今や、食とエネルギーに次ぐ第3位の産業が広告業界であるが、ブランド化と広告はこの相対的希少性を作り出すのを狙いとするものだ。このような人工的希少性に対する思想こそ脱成長コミュニズムである。これが第3章で述べている4つの未来選択肢のうちの最後の第4番目、Xなのである。
脱成長コミュニズムの旗手、ワーカーズコープが今世界に広がっているが、生産手段を公富、共有財産にする動きである。スペインで7万人の組合員を擁するモンドラゴン協同組合、米クリーブランドのエバーグリーン協同組合、ニューヨーク州のバッファロー協同組合。これらは、住宅、エネルギー、食糧、清掃などに関わりつつ、脱成長コミュニズムを広げている。協同組合が社会全体を変えていく基盤になっていくのである。
第7章 脱成長コミュニズムが世界を救う
人類の未来選択肢のうち、気候ファシズム、気候毛沢東主義に対する脱成長コミュニズムこそ、世界を救うものだ。今の商品化世界では、困った人々は国家に頼るしかないが、コロナ下のような強い危機には今の国家は機能できない。
そんなことから、ピケティも企業の労働者所有を言い出して、社会主義者になったという。これに対してスティグリッツらリベラル左派は空想主義と言える。資本主義の下では民主主義など求めても得られないからである。肝腎なことは労働と生産の変革であって、従来の脱成長は消費の次元のそれでしかなかった。資本が見放して荒廃著しい破綻都市デトロイトで都市農業が始まったことに、人類の将来が示されている。
第8章 気候正義という「梃子」
気候正義の「南」の運動から学び、これと連帯する脱成長コミュニズム運動が、世界の大都市で起こっている。典型は、スペインのバルセロナ。リーマンショックの大被害国スペインの25%失業率のなかから地産地消型経済を主張するバルセロナ・イン・コモンという政党が生まれて、2015年に市長選で勝利した。資本主義の利潤競走と過剰消費に対抗する労働者協同組合の伝統がもともと強い都市だったが、生協、共済組合、有機農業運動などとも結びついた運動をバルセロナ市が活用しているのである。
このバルセロナの脱成長コミュニズム運動は「南」の諸都市と連帯する運動体にもなっていて、アフリカ、中南米、アジアにまで広がる77の提携拠点都市が存在している。これらの拠点では、水道事業の民営化に対する公営化運動(水をコモン、社会的共有財産にし直す運動)が特に重視されている。水を囲い込んで儲けの対象に換えた人工的希少性を認めず、共有の富として再生していくのである。
こういう、生産の場の変革と結びついた革新自治体ネットワーク精神をミュニシパリズムと呼ぶが、この連帯の輪が食糧主権と気候正義とを柱にしつつ、世界的に広がっている。メキシコ・チアパス州の先住民サパティスタの運動など中南米を中心とした国際農民組織・ヴィア・カンペシーナの運動は、食糧主権を掲げて世界2億人の農業従事者に関わりつつ、新自由主義にノーを突きつけて来た。食料を輸出しながら飢餓率26%などと言われる南アの食糧主権運動も有名だ。この運動の一つの主張「(我々は)息ができない!」は、アメリカのブラック・ライブズ・マターの象徴「(私は)息ができない」から取ったものである。
このような脱成長コミュニズム運動に対して、制度変革だけを求める運動は政治主義というものであって、これは容易にソ連のような国家資本主義、気候毛沢東主義に陥っていくものだ。生産の場の変革、その社会的所有によってこそ、脱成長コミュニズムが実現可能となる。
(終わりです)