「各業界有力三四社の幸口評価_杉田望(3)_東京電力
本社 東京都千代田区
資本金 6,704億1,500万円
従業員数 4万3,495人
平均年齢 39.5歳
平均賃金 38万287円
大卒初任給 19万8,100円
1992年10月2日、朝日新聞と毎日新聞の夕刊に、「電力・ ガス、自民党に巨額献金か、経団連の斡旋リストに記載」と報道された。東京電力をはじめとする電力9 社は、企業・ 団体として政治献金を行っていない、と言っていた。それだけに、自民党の機関紙に広告費として実質的に献金を続けていたことは、消費者を欺く行為だった。 電力業界は、第一次石油危機後の1974年、大幅に電気料金を値上げした際、市川房江参議院議員(故人)ら消費者から政治献金廃止を求められた。当時、電力は、銀行や鉄鋼と並んで政治献金の額が多 い業界で、「献金御三家」とか、自動車と電機を加えて「献金五摂家」と呼ばれていた。結局、市川議員らが政治献金分に相当する電気料金の支払いを拒否する「 円不払い運動」を展開し、電力会社は心ならずも政治献金を廃止した。
広告費という形で政治献金を続けるとは、実に巧妙だ「電力の業界団体、電気事業連合会がとりまとめて広告を出し、1983度から1992年度(10月で中止した)までの11年間で、61億5,000万円も広告費を出していた。東京電力の負担分は24%と第一位。
「原発問題」は、電力会社にとって、頭の痛い問題だ。原子力発電所の新設、増設に一生懸命に取り組んでいるが、思うように進まない。このことが、政治とつながり、原発を立地する地元対策の一貫として、自民党との金銭面での結びつきを断ち切れなかった。
1989年1月、東京電力の福島第二原発三号機で、再循環ポンプが破損し、水中軸受けの座金がボ ルトなどが損傷した結果、金属破片約20グラムが炉心に流れ込む、という大きな事故がおこった。だ が、この事故がおこったことを約1カ月間、隠していた。それより3年前の86年4月、旧ソ連・ウクライナのチェルノブイリ原発でおこった重大事故のため、原発に対する不信感が高まっていた時期だけに、福島原発事故は原発不信を増すことになった。
また、原発をあらたに建設するため、建設予定地には多額の金がばらまかれる。電源立地促進対策交付金など三つの法律は「電源三法」と呼ばれ、原発を受け入れる市町村に交付金を交付し、地元の発展に役立ててもらおうという仕組みだ。しかし、91 年一12月、すでに二基の原発が稼働している福島県双葉町は、東京電力、通産省に原発の増設を要請した。こうした要請は全国でも初めてで、交付金の交付期間が終わり、双葉町の財政が悪化し、地方交付税交付金の交付団体に転落したためだ。原発が地域経済に与える効果が一時的であることを示した。
それに、地方自治体には、原発ができても若者の雇用が増えない、との不満もある。最近は、原発立地とともに、電力会社は、工場誘致に力を入れている。核燃料廃棄物の処理施設がある青森県には、まだ新幹線が通っていないため、電力会社が新幹線建設を政府に働きかけている。原発のためなら、「なんでも引き受けます」という姿勢がうかがえる。
日本の電気料金は、外国と比べて高すぎると産業界から批判されている。とくに、鉄鋼や化学、紙パルプといった電力を多く消費し、発展途上国との競争が激しい業種からの不満が大きい。日本の産業用電力料金を為替レート(1ドル=110円程度)によって比べれば、日本を100とすると、米国やフランス、英国などはほぼ60で、日本が非常に高い。これに対し、電力会社は、購買力平価で比べるべきだといい、日本を100とすると、米国などはほぼ110で、日本のほうが安いという。日本の製造業が自家発電設備を増やし、エネルギトコストの節減に努めているのを見ると、やはり日本の電気代は高いといえる。
電気料金は、電気事業法によって、通産大臣の認可制になっている。料金の認可は、①原価主義、② 公正報酬、③需要家間の公平を三原則にしているが、産業界から見れば、「 恵まれすぎている」というわけだ。つまり、コスト意識が薄く、資材調達の査定は甘い。多すぎる従業員の人件費と、経費はすべて料金に転嫁できる仕組みになっている。政府が規制緩和の方針を打ち出し、電力も例外ではないが、いまのところ、自家発電の増加が期待できるだけだ。地域独占の電力会社にとっては、競争相手が増えるわけではなく、供給が不安になる夏場の「手助け」になると見ている。電力会社の独占体質、政府に寄り掛かる体質は、そう簡単に改まりそうもない。」
(内橋克人・奥村宏・佐高信編『就職・就社の構造』岩波書店、1994年3月25日発行、171‐173頁より。)