2022年『フェルメールと17世紀オランダ絵画展』-「窓辺で手紙を読む女」
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/fe5a0b549f0b132e856788e9ccf0ce6f
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修復前(キューピッドはぬりつぶされていた)の「窓辺で手紙を読む女」にもとづいて書かれた文献ですが、参考までに引用しておきたいと思います。
(山岸健著『絵画を見るということ』1997年7月30日発行、NHKブックスより)
「窓辺の生活情景-
「開かれた窓辺で手紙を読む若い女」と題された絵がある。幕開けのようにカーテンが右の方に引かれており、この絵をごらんくださいといわんばかりの絵だ。このカーテンによって画面に奥行きが生じており、空間の表情に深さが生まれている。はるかかなたへと大地が延び広がっているような17世紀オランダの風景画と比較するならば、この絵は部屋の片隅が描かれている室内画であり視野は狭い。スペースは限定されているが、画面の3分の1を占めているカーテンによって距離感が表現されていることに注目したい。
カーテンのすそにあたるところだが、この絵の下の方に見える美しい色柄の布地をごらんいただきたい。窓辺に近いところに波打つような布地のうねりが見られる。傾いた果物鉢とさまざまな果物が描かれている。そこにベッドがあるのだろうか。果物鉢から果物が布地にこぼれ落ちている。波打つ状態の布地と傾いた果物鉢と、こぼれ落ちたいくつかの果物は、この絵に生じた波乱である。静寂が漂っているこの絵のささやかな動揺だ。
窓の直線的ラインにたいして、若い女性の顔面、身体、肩から腕、手へとつづいていくカーヴを描くラインはのびやかで美しく、こうした直線と曲線の対照はまことに興味ぶかい。カーヴしたラインの先端に手紙が見える。頭髪、顔面から、手先の垂れさがった手紙の先端までつづいているラインに、フェルメールの空間と形態の柔軟な感覚と技法が生きている。
格子状態の窓ガラスに女性の顔面と胸のあたりが映っている。窓ガラスが鏡となっている。窓からやさしい光が室内に射しこんでいる。赤いカーテンが垂れ下がっており、窓に引っかかった状態になっている。開かれた窓のガラス越しに影のようにカーテンと壁が見える。
窓にははっきりとした窓枠があり、開けられた窓が額縁のようにも見える。息がつまりそうな室内ではない。視界を広げる窓はいわば家の目である。こうした部屋の開口部によって、この部屋には外気や風がかよう。窓の外にはいったいどのような風景が広がっているのか。どのような通りが目に入ってくるのだろう。窓はいつも私たちの想像力をかきたてる。
部屋の片隅に、背もたれの上部に彫りものの飾りがついた椅子が置かれている。窓が閉じられているときには、この椅子に腰かけて読書を楽しんだり、手仕事をすることができるはずだ。窓辺は光のあるくつろぎの空間であり、人の居場所となるのである。
光を浴びながら、若い女が姿を見せている。フェルメールは横向きを選んでいる。ルネサンスの肖像画によく見られる向きだ。手もとも明るい。彼女は光に向かっている。
女性のまなざそと手がまことに印象的だ。見ることとと読むことが描かれている。フェルメールは行為を描いている。手紙を読むという行為は、ひそかに、プライベートにおこなわれることであり、本来は人に見られてよいシーンではない。
この若い女性はどのような人物なのだろう。生まれはどこなのか。どのような人びとのなかで、どのような暮らしを営んできたのか。人と人との関係や結びつき、集団への所属のしかた、社会的地位、アイデンティティ(存在証明・自己同一性)が気にかかる。この手紙にも彼女のアイデンティティを理解するための鍵のひとつが見出される。彼女のヘアー・スタイルと衣装には時代の風俗とローカル・カラーがうかがわれる。」
2008年8月‐12月『フェルメール展』_光の天才画家とデルフトの巨匠たち
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/efc0a93d13fbc7ecf00fde39bd8d58ab
「フェルメール(1632‐75)は身辺を描いた画家だ。人びとの暮らし、日常生活と人生の一 場面が主題化されている。彼の生活の場であったオランダ・デルフトの絵には、デルフトの日常生活、居住空間の様相、風景などが描かれている。彼はさまざまな窓辺や壁を描き、また、楽器を描いて、生活空間を明るみに出した画家であり、人物を描くときには、手もとや身辺に注目し、また、視線を描いた画家でもある。」
3月25日(金)の上野公園、
東京都美術館、金曜日は夜8時まで開館していたのでゆっくりと観覧できました。
夜7時頃外に出ると夜桜を楽しもうとする人たちで賑わっていました。
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上野動物園の正面入り口、
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/fe5a0b549f0b132e856788e9ccf0ce6f
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修復前(キューピッドはぬりつぶされていた)の「窓辺で手紙を読む女」にもとづいて書かれた文献ですが、参考までに引用しておきたいと思います。
(山岸健著『絵画を見るということ』1997年7月30日発行、NHKブックスより)
「窓辺の生活情景-
「開かれた窓辺で手紙を読む若い女」と題された絵がある。幕開けのようにカーテンが右の方に引かれており、この絵をごらんくださいといわんばかりの絵だ。このカーテンによって画面に奥行きが生じており、空間の表情に深さが生まれている。はるかかなたへと大地が延び広がっているような17世紀オランダの風景画と比較するならば、この絵は部屋の片隅が描かれている室内画であり視野は狭い。スペースは限定されているが、画面の3分の1を占めているカーテンによって距離感が表現されていることに注目したい。
カーテンのすそにあたるところだが、この絵の下の方に見える美しい色柄の布地をごらんいただきたい。窓辺に近いところに波打つような布地のうねりが見られる。傾いた果物鉢とさまざまな果物が描かれている。そこにベッドがあるのだろうか。果物鉢から果物が布地にこぼれ落ちている。波打つ状態の布地と傾いた果物鉢と、こぼれ落ちたいくつかの果物は、この絵に生じた波乱である。静寂が漂っているこの絵のささやかな動揺だ。
窓の直線的ラインにたいして、若い女性の顔面、身体、肩から腕、手へとつづいていくカーヴを描くラインはのびやかで美しく、こうした直線と曲線の対照はまことに興味ぶかい。カーヴしたラインの先端に手紙が見える。頭髪、顔面から、手先の垂れさがった手紙の先端までつづいているラインに、フェルメールの空間と形態の柔軟な感覚と技法が生きている。
格子状態の窓ガラスに女性の顔面と胸のあたりが映っている。窓ガラスが鏡となっている。窓からやさしい光が室内に射しこんでいる。赤いカーテンが垂れ下がっており、窓に引っかかった状態になっている。開かれた窓のガラス越しに影のようにカーテンと壁が見える。
窓にははっきりとした窓枠があり、開けられた窓が額縁のようにも見える。息がつまりそうな室内ではない。視界を広げる窓はいわば家の目である。こうした部屋の開口部によって、この部屋には外気や風がかよう。窓の外にはいったいどのような風景が広がっているのか。どのような通りが目に入ってくるのだろう。窓はいつも私たちの想像力をかきたてる。
部屋の片隅に、背もたれの上部に彫りものの飾りがついた椅子が置かれている。窓が閉じられているときには、この椅子に腰かけて読書を楽しんだり、手仕事をすることができるはずだ。窓辺は光のあるくつろぎの空間であり、人の居場所となるのである。
光を浴びながら、若い女が姿を見せている。フェルメールは横向きを選んでいる。ルネサンスの肖像画によく見られる向きだ。手もとも明るい。彼女は光に向かっている。
女性のまなざそと手がまことに印象的だ。見ることとと読むことが描かれている。フェルメールは行為を描いている。手紙を読むという行為は、ひそかに、プライベートにおこなわれることであり、本来は人に見られてよいシーンではない。
この若い女性はどのような人物なのだろう。生まれはどこなのか。どのような人びとのなかで、どのような暮らしを営んできたのか。人と人との関係や結びつき、集団への所属のしかた、社会的地位、アイデンティティ(存在証明・自己同一性)が気にかかる。この手紙にも彼女のアイデンティティを理解するための鍵のひとつが見出される。彼女のヘアー・スタイルと衣装には時代の風俗とローカル・カラーがうかがわれる。」
2008年8月‐12月『フェルメール展』_光の天才画家とデルフトの巨匠たち
https://blog.goo.ne.jp/ahanben1339/e/efc0a93d13fbc7ecf00fde39bd8d58ab
「フェルメール(1632‐75)は身辺を描いた画家だ。人びとの暮らし、日常生活と人生の一 場面が主題化されている。彼の生活の場であったオランダ・デルフトの絵には、デルフトの日常生活、居住空間の様相、風景などが描かれている。彼はさまざまな窓辺や壁を描き、また、楽器を描いて、生活空間を明るみに出した画家であり、人物を描くときには、手もとや身辺に注目し、また、視線を描いた画家でもある。」
3月25日(金)の上野公園、
東京都美術館、金曜日は夜8時まで開館していたのでゆっくりと観覧できました。
夜7時頃外に出ると夜桜を楽しもうとする人たちで賑わっていました。
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上野動物園の正面入り口、
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