過剰なコロナ対策により公共交通機関の崩壊が前倒し。高齢化と少子化による生産人口の減少、人的リソースをどう確保していくのか。路線バスに限らず社会全体につきつけられた問題。医療・介護がこれ以上人材を吸い上げていたら社会のインフラが維持できなくなっていく日も遠くないのでしょう。
2023年11月4日読売テレビニュース、
都市圏でも路線バス相次ぎ廃止「過疎地の話かと…」残業規制強化の2024年問題などで運転手争奪戦に | 読売テレビニュース (nordot.app)
「地域の足を担う各地の路線バスに危機が訪れています。大阪府南部の「金剛バス」が12月20日に事業を廃止するのに加え、「阪急バス」の4路線が11月5日に、「京阪バス」の7路線が12月に廃止になるなど、都市圏でも相次いでバス路線の廃止が発表され、市民からは「利用客が少ない過疎地域の話かと思っていたが…」と驚きの声が上がっています。背景にあるのは運転手不足で、残業規制が強化される“2024年問題”などにより、人手不足はより一層深刻な問題になりそうです。
■京阪神の駅と住宅街を結ぶ路線が続々と廃止に
「利用者に不便をかけるが、乗務員不足が危機的な状況で廃止せざるを得ない」京都や大阪などを走る京阪電車の沿線で路線バスを運行する「京阪バス」の担当者は、路線の廃止の理由についてこう説明します。
京阪バスは、12月16日に大阪府守口市・門真市周辺の7路線を廃止するほか、京都駅から交野市を経由してなんば・USJを結ぶ急行便の運転区間を縮小します。さらに来年春には、寝屋川市や京都府京田辺市などの9路線を廃止する予定だということです。
路線バスをめぐっては10月、富田林市・河南町・太子町・千早赤阪村の4市町の駅や住宅街を結ぶ「金剛バス」がバス事業の廃止を発表したほか、「阪急バス」でも大阪府と兵庫県の4路線が11月5日で運行をとりやめるなど、市民の貴重な足が次々となくなっています。
■コロナ禍で運転手が激減 需要急回復で“争奪戦”
国土交通省の統計では、2021年度のバス運転手は約11万6000人で、コロナ前の2019年度から1万5000人以上減少しています。
日本バス協会によりますと、長年の乗客減少による経営難で各地のバス事業者は赤字経営が慢性化し、運転手の賃金が低く抑えられていた中、コロナによる打撃で運転の担い手が一気に減ったといいます。
新型コロナが5類に緩和され外国人観光客が急回復し、観光バスや貸し切りバスをはじめとしたバスの需要が高まる一方、大型二種免許が必要となるバス運転手の数は減り続け、業界内では運転手の“争奪戦”が起きているのです。
さらに追いうちをかけるように、来年4月からはバスなどの自動車運転業務の従事者について、時間外労働の上限が「1か月45時間、年間で360時間」に規制される、いわゆる“2024年問題”が事業者に重くのしかかります。
法改正により、運転手の拘束時間や休息期間についても規制がかかり、1人あたりの労働時間が短縮されるため運転手不足はさらに深刻になり、日本バス協会の試算では全国のバス事業者が現在の路線を維持するためには、来年には2万1000人、2030年には3万6000人が不足するということです。
■「自動運転」に活路も…都市部での実現には様々なハードル
金剛バスの廃止を受け大阪府では、地域の足の“救世主”として2025年大阪・関西万博の会場内で使う予定の自動運転バスを使い、万博閉幕後に路線バスとして事業廃止エリアの一部で運行することを検討しています。
府は今後、国や関係者と協議を進める方針で、将来的には運転手の操作が不要な「レベル4」での運行を目指すとしていますが、実現には多くのハードルがあります。
万博での自動運転バスは一般車両などが入り込まない会場内での運行を想定しているのに対し、公道で「レベル4」の自動運転バスを現在運行しているのは福井県永平寺町の「ZENドライブ」のみ。
10月29日には道路脇の自転車に接触する事故があり、原因究明のために当面の間は運航を休止しているのが実情です。山間部ではなく一定の交通量がある大阪府内の公道で自動運転を実現するには、様々な課題を整理する必要があります。
少子高齢化が進む日本において、「人手不足」はどの業界にも共通する“待ったなし”の問題。地域の交通インフラをどう維持していくのか、難しい課題が突きつけられています。」
2023年11月4日FRIDAY、
路線切り捨てや減便、事業廃止…「路線バス廃止問題」当事者に聞いた「現場で今起こっていること」(FRIDAY) - Yahoo!ニュース
「深刻な人手不足による、路線バスの廃止が全国で問題になっている。バス路線の切り捨てや減便にとどまらず、事業者の中には廃業するところも出てきた。現場で何が起きているのだろうか。
◆高齢化、2024年問題、インバウンド…複雑に絡み合う問題
大阪府南部の富田林市で「金剛バス」を運行してきた金剛自動車は今年9月11日、12月20日でバス事業を廃止すると発表した。乗務員の人手不足、売り上げの減少などを理由に挙げる。
金剛バスは市内で15路線を運行してきたが、これが12月21日以降、運営されなくなる。地元の市議会関係者によると、地元の運営協議会がこの問題を議論しており、近鉄バスと南海バス、そして自治体のコミュニティバスが当面、金剛バスの運営路線を網羅しようということになっているという。ただし、こうも話す。
「便数は大幅に減り、夜の最終便も前倒しで早くなるようです。昼間は高齢者の足になっていましたが、減便で高齢者には不便になります。最終便の時間が早くなると、大阪市内の勤め先から帰ってくる人は大変になります」
さらに、この市議会関係者が指摘するのは、金剛バスの路線網が近鉄バスと南海バスの路線に二分されてしまう問題があるという点だ。それぞれの路線の間を乗り継ぐためにコミュニティバスを活用するにも、採算の問題などがあり、乗り継ぎの利便性を確保するのは難しいという。
「金剛バスの路線網を表面上はカバーすることになっても、以前のような便数を十分に確保することや、二分される路線網の乗り継ぎの問題などがあります。
それぞれの路線の間を乗り継ぐためのコミュニティバスも、建前として議論をしたことで自治体が『できることはやりました』となるが、みなさんが乗らないので乗客が十分に確保できずに協力を得られませんでした、となってしまうのではないでしょうか」(市議会関係者)
と、利便性が置き去りにされるのではないかと懸念している。
一方、地元市役所の交通政策担当者は、
「12月21日からの足の確保を最優先にやってきました。9月11日のバス事業廃止の発表から3ヵ月ほどしかなく、減便や乗り継ぎの利便性の問題などもありますが、そこまで対応する余裕がありません。緊急事態ですから」
と話す。
金剛バスが運行してきた15路線のうち、主要5路線については、便数も一定程度、確保するという。そうした緊急の対応に追われ、自治体側も手一杯の状況になっているようだ。
金剛バスを運行してきた金剛自動車の総務担当者は、事業廃止の背景に深刻な運転手の人手不足があると、次のように説明する。
「収益面もありますが、収益問題だけなら工夫して補助金を活用するなど、なんとか収益に結びつける経営もあったと思います。しかし、来年4月からは運転手の時間外労働の規制も出てきて、いまの2倍くらい運転手を雇わないと運営できません」
金剛バスの運転手は現状17人で、近鉄バスからの派遣3人を含めて合計20人で運行している。一方、’24年4月以降は、ドライバーの年間時間外労働が上限960時間に制限される。金剛バスの運転手17人を2倍くらいに増やさないと、来年4月以降の運営ができないという。
金剛自動車の総務担当者はこうも話す。
「数年前くらいにはバスの運転手が30人ほどいました。コロナになって、応募をかけてもこなくなり、応募して採用しても、すぐ辞められてしまうような状況になりました」
路線バスの運転手が集まらない背景には、地方で高齢化が進んでいるほか、地元からは若い人が都会へと出ていき、あえて他から働きにくる人もいないという事情がある。
さらに、コロナ後の外国人旅行者の訪日、つまりインバウンド復活で観光バスの運転手需要が高まり、運転手は給料など待遇のいい観光バスに流れていることもある。
「全員ではありませんが、辞めていく運転手には、観光バスのような条件のいいほうに移る人もいると聞いています」(金剛自動車の総務担当者)
高知市、岡山市、そして東京でも…バス運転手不足の原因は、いじめ、低賃金、重労働…
深刻なバス運転手の事情について、バス愛好家の任意団体「日本バス友の会」の城谷邦男顧問(初代事務局長)は、次のように話す。
「土佐電バスはいま、路線をどんどん廃止しています。運行本数を減らし、路線の切り捨てや減便で運転手不足を補おうとしています」
とさでん交通(高知県高知市)が運営する土佐電バスは、多くの利用が見込める区間を中心とした路線網へと、採算性向上に向けた抜本的な路線再編を進めてきている。
両備グループ(岡山県岡山市)の小嶋光信代表など公共交通でリーダー的な役割を果たす8名が今年8月に提言をまとめている。
それによると、バス利用者がコロナ前の1、2割減少するというのが共通認識となっているとし、人手不足で今後の経営維持が見通せないなどとしている。そのうえで、運賃制度の見直しのほか、乗り合いバスに外国人労働者の乗務を許可する時期にきたなどとも主張する。
城谷さんは、バス運転手の人手不足が地方だけでなく、東京でも深刻と指摘する。
「東京のバスでもかなり減便しています。たとえば、1時間に20本だったのを15本にするとか。東京でもかなり深刻な状況で、地方にいくとさらに厳しい」(城谷さん、以下同様)
バス運転手の人手不足が深刻になっている背景について、城谷さんはさらに、仲間うちでのいじめや職場環境があるとも指摘する。バス運転手の職場は「非常に狭い世界」であり、先輩などからのいじめもあるという。さらに、路線バス運転手の賃金が安く、早朝から深夜までの労働環境が過酷だという。
「運転業務を続けられず、辞めていく人が多いという印象があります」
このままでは、特に地方で車を運転しない高齢者などが、移動の足を奪われ、生活を続けることが難しくなる。そこで最近、政府が検討し始めているのが、個人ドライバーの車に乗り合いを認めるライドシェアだ。
「免許を持ち、たとえば無事故歴3年などの条件を満たした人などをライドシェアのドライバーとして活用するのがいいのではないか。何人か協力してくれる人をあらかじめ登録しておき、相乗りしたい人が出てきたときに同乗させてもらうよう依頼して、知らない人も乗せるのが、やりやすいのではないか」
深刻なバス運転手の人手不足により、バス路線廃止や減便など、路線バス運営の深刻な状況が各地で続いている。地方の足を補うのに、ライドシェア導入が救世主になる日が来るのだろうか。
取材・文:浅井秀樹」