「(ここでは、日本的霊性なるものは、鎌倉時代で初めて覚醒したということを説いてみたいのである。)
結論をさきに出すとこうである。古代の日本人には、本当に言う宗教はなかった。彼らは極めて素朴な自然児であった。平安時代を経て鎌倉時代に入って、初めてその精神に宗教的衝動を起こした、即ち日本的霊性の目覚めがほの見えた。この衝動の結果として、一方には伊勢神道なるものが起こり、他方には浄土系統の仏教が唱えられるようになった。日本人はこのとき初めて宗教に目覚めみずからの霊性に気づいた。だいたいこういうことを解きたいのだが、この小篇では大綱に止まるはやむを得ぬ。」
(鈴木大拙著『日本的霊性』1972年10月16日第1刷岩波文庫、29-30頁より)