バッハは晩年、白内障で目があまり見えなくなってきていたのですが、そこへ現れたジョン・テイラーという自称カリスマ眼科医が手術をし…完全失明のうえ合併症で結局バッハは亡くなっています。なんてことしてくれたん!!
←作曲家がカツラかぶってた時代の話
白内障というのはご存知のとおり、目のレンズが濁ってくる病気ですから、理屈からいえばそのレンズを除けば光が通るようになりますね。もっとも、現代ではレンズを除去した上で代替レンズを入れますが、それを入れないということはすごくぼやーーとしか見えないとは思いますが。
発想としては単純な手術であるためか、この手術の起源はなんと紀元前にさかのぼるんです。ダジャレじゃないよ。
インドにススルタという医師がいて(お釈迦さま誕生のしばらく前くらいらしい)、この人は手術を実行するほか、手術の方法についての本も残しています。すごい。成功率が知りたいけど。
バッハのころといえばはるかに時が経って18世紀ですが、ここまでススルタ以降の画期的な進歩というのはあまりなかったようです。細菌で化膿するとかいうことを示したコッホさんが出てくるのは19世紀ですし、麻酔もありませんしね。
でもそれどころではなくかなり怪しい人だったみたいで「眼球からクモや昆虫を取り出すパフォーマンスや、公開手術をコンサートホールで行うなどで人気を集めるも、多くの患者を失明させたため国外追放になった人物」(「歴史に残るヤブ医者」より)
…うわ、やばそー
ススルタがやっていた手術というのは(たぶんテイラーも同じ)、レンズを切り落とす(目の中へ)というもので、これはそのレンズから化膿したりするのであまり成績がよくならなかったようです。後に、レンズを目の中に落とさないで取り出す手術が出てきて、比べてみたらそのほうがよさそうだというので主流がそっちに移っていったのですけど…
その結論が出たのは19世紀半ばです(「白内障手術の歴史」)。
だから別に、ジョン・テイラーさんがそれを知らないのは当然なんですが、でもね。コッホが登場する2000年以上前でも、インドのススルタさんはちゃんと本の中で、医師が環境を整備して、患者を清潔にし、燻蒸して部屋をきれいにしなければいかんということを書いています。「細菌」という概念がなくても、経験的に、そういうことが手術の合併症を防ぐということを学んでいたのでしょう。
そういうあたりがいい加減なのがおそらくヤブがヤブたるゆえんで、テイラーはバッハの手術もヘンデルの手術も失敗しているのですけど、バッハは失明しただけじゃなくて合併症が元で結局亡くなってしまったので、ほんと許せん!!
手術後、テイラーは記者会見で「手術は大成功でした!バッハの視力は完全に回復した!」と豪語していたそうです(「バッハの失明の原因は医療ミス?」)が、実際はほぼ失明で、しかもものすごい眼痛を訴えていました。
ヘンデルのほうは、実は白内障ではなく「突発性かつ片側性であり、視覚神経や網膜動脈の血栓症が疑われる」ので手術適応ですらなかったという話もあります(「バッハとヘンデル、晩年同じ眼科医の手術を受けてともに失明」)。そうだとしたらほんとやられ損ですわ。
「すぐわかる! 4コマ西洋音楽史(2)」には関連年表というのがついていて、これが優れものなんです(*)。それぞれの作曲家が、いつ生まれていつ死んだというのがビーッと太線で示されていて、ページの下のほうにはいろんな出来事が載っています。バッハとヘンデルは同じ年に生まれて、ヘンデルのほうが長生きですけど、バッハのほうも1685-1750ですから別に当時として早死にということはないですね。
バッハもヘンデルも、肖像画にあるようにあのでっぷりした体形で、今でいう生活習慣病的なものが目には悪かったかもしれないのですが(白内障も糖尿病で悪化する)、そもそもこの時代には感染症に強いってのが早死にしないための重要ポイントですから、でっぷりは歓迎、むしろ富の象徴のようなものでしょうか。
前に記事(「ハイドン先生、手術から逃げた。)にしたジョン・ハンターは1728生まれ、時代は重なってますけどバッハが亡くなるころにはまだ有名じゃないですから、「彼ならもうちょっとマシな手術をしたのでは?」と言っても詮無いことですが。
まぁ、人の体にメスを入れるならば、ススルタやハンターのように、ちゃんと「何もしないよりもほんとうに利益がある手術をできるのか?」を実証的に考える姿勢を持ってほしいですね。
(*) モーツァルトが生まれたのはバッハが亡くなり、まだヘンデルは生きていたころ。そしてモーツァルトとマリーアントワネットはほぼ同時代です。なんてことが一目でわかります。
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「はじめての中学受験 第一志望合格のためにやってよかった5つのこと~アンダンテのだんだんと中受日記完結編」ダイヤモンド社 ←またろうがイラストを描いた本(^^)
「発達障害グレーゾーン まったり息子の成長日記」ダイヤモンド社
(今回もイラストはまたろう)
←作曲家がカツラかぶってた時代の話
白内障というのはご存知のとおり、目のレンズが濁ってくる病気ですから、理屈からいえばそのレンズを除けば光が通るようになりますね。もっとも、現代ではレンズを除去した上で代替レンズを入れますが、それを入れないということはすごくぼやーーとしか見えないとは思いますが。
発想としては単純な手術であるためか、この手術の起源はなんと紀元前にさかのぼるんです。ダジャレじゃないよ。
インドにススルタという医師がいて(お釈迦さま誕生のしばらく前くらいらしい)、この人は手術を実行するほか、手術の方法についての本も残しています。すごい。成功率が知りたいけど。
バッハのころといえばはるかに時が経って18世紀ですが、ここまでススルタ以降の画期的な進歩というのはあまりなかったようです。細菌で化膿するとかいうことを示したコッホさんが出てくるのは19世紀ですし、麻酔もありませんしね。
でもそれどころではなくかなり怪しい人だったみたいで「眼球からクモや昆虫を取り出すパフォーマンスや、公開手術をコンサートホールで行うなどで人気を集めるも、多くの患者を失明させたため国外追放になった人物」(「歴史に残るヤブ医者」より)
…うわ、やばそー
ススルタがやっていた手術というのは(たぶんテイラーも同じ)、レンズを切り落とす(目の中へ)というもので、これはそのレンズから化膿したりするのであまり成績がよくならなかったようです。後に、レンズを目の中に落とさないで取り出す手術が出てきて、比べてみたらそのほうがよさそうだというので主流がそっちに移っていったのですけど…
その結論が出たのは19世紀半ばです(「白内障手術の歴史」)。
だから別に、ジョン・テイラーさんがそれを知らないのは当然なんですが、でもね。コッホが登場する2000年以上前でも、インドのススルタさんはちゃんと本の中で、医師が環境を整備して、患者を清潔にし、燻蒸して部屋をきれいにしなければいかんということを書いています。「細菌」という概念がなくても、経験的に、そういうことが手術の合併症を防ぐということを学んでいたのでしょう。
そういうあたりがいい加減なのがおそらくヤブがヤブたるゆえんで、テイラーはバッハの手術もヘンデルの手術も失敗しているのですけど、バッハは失明しただけじゃなくて合併症が元で結局亡くなってしまったので、ほんと許せん!!
手術後、テイラーは記者会見で「手術は大成功でした!バッハの視力は完全に回復した!」と豪語していたそうです(「バッハの失明の原因は医療ミス?」)が、実際はほぼ失明で、しかもものすごい眼痛を訴えていました。
ヘンデルのほうは、実は白内障ではなく「突発性かつ片側性であり、視覚神経や網膜動脈の血栓症が疑われる」ので手術適応ですらなかったという話もあります(「バッハとヘンデル、晩年同じ眼科医の手術を受けてともに失明」)。そうだとしたらほんとやられ損ですわ。
「すぐわかる! 4コマ西洋音楽史(2)」には関連年表というのがついていて、これが優れものなんです(*)。それぞれの作曲家が、いつ生まれていつ死んだというのがビーッと太線で示されていて、ページの下のほうにはいろんな出来事が載っています。バッハとヘンデルは同じ年に生まれて、ヘンデルのほうが長生きですけど、バッハのほうも1685-1750ですから別に当時として早死にということはないですね。
バッハもヘンデルも、肖像画にあるようにあのでっぷりした体形で、今でいう生活習慣病的なものが目には悪かったかもしれないのですが(白内障も糖尿病で悪化する)、そもそもこの時代には感染症に強いってのが早死にしないための重要ポイントですから、でっぷりは歓迎、むしろ富の象徴のようなものでしょうか。
前に記事(「ハイドン先生、手術から逃げた。)にしたジョン・ハンターは1728生まれ、時代は重なってますけどバッハが亡くなるころにはまだ有名じゃないですから、「彼ならもうちょっとマシな手術をしたのでは?」と言っても詮無いことですが。
まぁ、人の体にメスを入れるならば、ススルタやハンターのように、ちゃんと「何もしないよりもほんとうに利益がある手術をできるのか?」を実証的に考える姿勢を持ってほしいですね。
(*) モーツァルトが生まれたのはバッハが亡くなり、まだヘンデルは生きていたころ。そしてモーツァルトとマリーアントワネットはほぼ同時代です。なんてことが一目でわかります。
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「はじめての中学受験 第一志望合格のためにやってよかった5つのこと~アンダンテのだんだんと中受日記完結編」ダイヤモンド社 ←またろうがイラストを描いた本(^^)
「発達障害グレーゾーン まったり息子の成長日記」ダイヤモンド社
(今回もイラストはまたろう)
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