1994年の「現代化学」9月号に、アンソニー・トゥーという毒物の専門家による記事「神経毒の分子メカニズム 猛毒「サリン」からフグ毒まで」が掲載された。これは、松本で起きた事件で「サリン」などとそれまで聞いたこともない物質で死亡者が出たことから急遽関心が高まって執筆依頼されたものだった。
←あの朝、何も知らずに地下鉄に乗ってた。
この記事は非常にわかりやすく優れた内容であったらしく、日本の警察はこれを見て、トゥ氏に「土壌からサリンの分解物を検出する方法」を問い合わせている。結果として、オウム拠点のそば(上九一色村)から分解物が検出され(1994年末)、これは事件解決に向けての大きな一歩になったのだけれど…
しかしオウム施設の強制捜索には至らず、3月には地下鉄サリン事件が起こることになる。
トゥー氏は、オウム事件解明に貢献したことで旭日中綬章を受賞している。多大な貢献をしたのは確かなんだけれど、これには逆の面もあって、実はその「現代化学」の記事が非常に優れたものであったため、それを読んだ土谷(オウムの化学担当者)がそれまで難しかったVXの製造に成功してしまったのだった。トゥー氏は、悪用されないようにぼかして書いたつもりだったそうだが、それだけのヒントでも十分だった。
まさに、「知は力なり(どちらの陣営にとっても)」…
そういうようなことがいろいろと明らかになったのは、トゥー氏が中川死刑囚と15回にも及ぶ面談をして詳細に聞き取りを行ったからで、この内容は「サリン事件死刑囚 中川智正との対話 」に詳しくまとめられている。
私がこの本を読んで一番強く感じたのは、いろんな偶然というか運命のいたずらで、ちょっとした違いが結果として無茶苦茶大きな違いを生むということと、それから結局のところ麻原が実務上あんまり優れた指導者じゃなかったために辛くも東京が助かった、いや実際に亡くなった人がいるので助かったとはいえないがもっとずっと大きな被害が出てもまったくおかしくない状況だったということだ。
だいたい、オウムは化学兵器を製造・使用する前に元々は生物兵器を使用するつもりで、というか実際にかなりの分量をばらまいたのだが、それがうまくできていなくて誰も死ななかったということがあった。生物兵器の製造を担当していのは遠藤という獣医だが、専門はウイルスで、菌は大腸菌の培養くらいしかしたことがなかったようだ。彼は無毒の炭疽菌を元に遺伝子組み換えで有毒のものを作ろうとしていたがそこまでの技術はなかった。なくて幸いだった。
一方、化学担当の土谷のほうはめちゃくちゃ有能で、文献調査を元に、サリン、マスタードガス、VXなどの化学兵器から、幻覚を起こさせる薬、爆薬とかまでいろいろ「実際に使えるものを」製造している。しかも実験室的に作るだけではなく、大量製造できるプロセスの設計までやっている。大量に作り、実際に使うとなれば、仕入れのしやすさ、製造のしやすさから、製造中の安全、「足のつきにくさ」まで、考えなければいけないことは多岐にわたる。土谷の問題解決能力の高さはほんとに…これが真っ当な形で生かされたらほんとうによかったのに…
サリンの大量製造にもきちんと成功していたが、ただしそこで近くの土壌からサリン分解物が検出されたことが読売新聞にすっぱ抜かれ、警察に踏み込まれることを恐れていったん廃棄したのだ。ただしサリンの一歩手前の中間生成物が大量に捨てられず(処分できず)残っていたので、地下鉄サリンはそこから急遽されることになったが、
・土谷は別件で忙しく、中川・遠藤(化学が専門ではない)が作成を命じられた
・麻原がたいへん急いでいたため、不純物が多い状態のまま使用された
・松本のときと異なり、散布ではなくビニール袋を破る方式
・サリンであることの判明が早く、解毒剤もあった
という条件から、地下鉄という閉鎖空間であり、量もずっと大量のサリンが撒かれたわりには死者数が少なかった。
もし遠藤が有能で有毒の炭疽菌が製造できていたら…
もしトゥー氏の助言がなく土壌からサリンの痕跡が検出できていなかったら…
もし純粋なサリンを大量生成するのを待って散布していたら…
麻原の意図(予言)どおり「ハルマゲドン」クラスの事件となり東京壊滅だったかもしれない。
こういう事件の再発防止って何だろう?
やはり小規模な事件が起こったときに、きちんと糾明して団体を解体しておくしかなかったと思うんだけど。
松本サリンのとき、被害者の近所の人に疑いをかけたり、弁護士一家が殺害されたときもなかなか事件として扱わなかったり、せっかく土壌からサリン分解物が検出されてもオウムに踏み込まなかったり…
残念なターニングポイントがいくつかありましたが。そういうときにどうするか? ということしか考えようがないかな。
…さらにさかのぼっていえば、土谷とか中川みたいに優秀な人が「娑婆(教団の外)」で幸せになれなかったというとこがなんか間違っている(もったいない)気がするのだけど…
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←あの朝、何も知らずに地下鉄に乗ってた。
この記事は非常にわかりやすく優れた内容であったらしく、日本の警察はこれを見て、トゥ氏に「土壌からサリンの分解物を検出する方法」を問い合わせている。結果として、オウム拠点のそば(上九一色村)から分解物が検出され(1994年末)、これは事件解決に向けての大きな一歩になったのだけれど…
しかしオウム施設の強制捜索には至らず、3月には地下鉄サリン事件が起こることになる。
トゥー氏は、オウム事件解明に貢献したことで旭日中綬章を受賞している。多大な貢献をしたのは確かなんだけれど、これには逆の面もあって、実はその「現代化学」の記事が非常に優れたものであったため、それを読んだ土谷(オウムの化学担当者)がそれまで難しかったVXの製造に成功してしまったのだった。トゥー氏は、悪用されないようにぼかして書いたつもりだったそうだが、それだけのヒントでも十分だった。
まさに、「知は力なり(どちらの陣営にとっても)」…
そういうようなことがいろいろと明らかになったのは、トゥー氏が中川死刑囚と15回にも及ぶ面談をして詳細に聞き取りを行ったからで、この内容は「サリン事件死刑囚 中川智正との対話 」に詳しくまとめられている。
私がこの本を読んで一番強く感じたのは、いろんな偶然というか運命のいたずらで、ちょっとした違いが結果として無茶苦茶大きな違いを生むということと、それから結局のところ麻原が実務上あんまり優れた指導者じゃなかったために辛くも東京が助かった、いや実際に亡くなった人がいるので助かったとはいえないがもっとずっと大きな被害が出てもまったくおかしくない状況だったということだ。
だいたい、オウムは化学兵器を製造・使用する前に元々は生物兵器を使用するつもりで、というか実際にかなりの分量をばらまいたのだが、それがうまくできていなくて誰も死ななかったということがあった。生物兵器の製造を担当していのは遠藤という獣医だが、専門はウイルスで、菌は大腸菌の培養くらいしかしたことがなかったようだ。彼は無毒の炭疽菌を元に遺伝子組み換えで有毒のものを作ろうとしていたがそこまでの技術はなかった。なくて幸いだった。
一方、化学担当の土谷のほうはめちゃくちゃ有能で、文献調査を元に、サリン、マスタードガス、VXなどの化学兵器から、幻覚を起こさせる薬、爆薬とかまでいろいろ「実際に使えるものを」製造している。しかも実験室的に作るだけではなく、大量製造できるプロセスの設計までやっている。大量に作り、実際に使うとなれば、仕入れのしやすさ、製造のしやすさから、製造中の安全、「足のつきにくさ」まで、考えなければいけないことは多岐にわたる。土谷の問題解決能力の高さはほんとに…これが真っ当な形で生かされたらほんとうによかったのに…
サリンの大量製造にもきちんと成功していたが、ただしそこで近くの土壌からサリン分解物が検出されたことが読売新聞にすっぱ抜かれ、警察に踏み込まれることを恐れていったん廃棄したのだ。ただしサリンの一歩手前の中間生成物が大量に捨てられず(処分できず)残っていたので、地下鉄サリンはそこから急遽されることになったが、
・土谷は別件で忙しく、中川・遠藤(化学が専門ではない)が作成を命じられた
・麻原がたいへん急いでいたため、不純物が多い状態のまま使用された
・松本のときと異なり、散布ではなくビニール袋を破る方式
・サリンであることの判明が早く、解毒剤もあった
という条件から、地下鉄という閉鎖空間であり、量もずっと大量のサリンが撒かれたわりには死者数が少なかった。
もし遠藤が有能で有毒の炭疽菌が製造できていたら…
もしトゥー氏の助言がなく土壌からサリンの痕跡が検出できていなかったら…
もし純粋なサリンを大量生成するのを待って散布していたら…
麻原の意図(予言)どおり「ハルマゲドン」クラスの事件となり東京壊滅だったかもしれない。
こういう事件の再発防止って何だろう?
やはり小規模な事件が起こったときに、きちんと糾明して団体を解体しておくしかなかったと思うんだけど。
松本サリンのとき、被害者の近所の人に疑いをかけたり、弁護士一家が殺害されたときもなかなか事件として扱わなかったり、せっかく土壌からサリン分解物が検出されてもオウムに踏み込まなかったり…
残念なターニングポイントがいくつかありましたが。そういうときにどうするか? ということしか考えようがないかな。
…さらにさかのぼっていえば、土谷とか中川みたいに優秀な人が「娑婆(教団の外)」で幸せになれなかったというとこがなんか間違っている(もったいない)気がするのだけど…
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