ひとは誰でも耳の奥に一対の巻貝を飼っていて、故郷を懐かしむように絶えず大古の海の音を奏で続けている。その音色は本当に微かで耳を塞がなければ聴こえないけれど、きっと我々は誰もが、いずれはその海に還るのだ。
そんな事を子供だった私に話して聞かせてくれた、良く言えばロマンチスト、悪く言えば地に足の付かない夢想家だった父は、ある日「真実の愛」とやらを追いかける為に私たち家族を捨てて家を出て行った。父が言う「太古の海」とやらが地球で最初の生命を生み出した、所謂「原初の海」を意味するのだとしたら、それは煮えたぎる硫化水素だったらしいのだが。
そんな事を子供だった私に話して聞かせてくれた、良く言えばロマンチスト、悪く言えば地に足の付かない夢想家だった父は、ある日「真実の愛」とやらを追いかける為に私たち家族を捨てて家を出て行った。父が言う「太古の海」とやらが地球で最初の生命を生み出した、所謂「原初の海」を意味するのだとしたら、それは煮えたぎる硫化水素だったらしいのだが。