カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

骨董品に関する物語・ガラスの香水瓶箱

2019-01-15 19:59:44 | 突発お題

 夜の母は常に不思議な香りを纏っていて、口さがない他の婦人達からは魔女のように呼ばれていた。そんな母の持つ香水瓶入れには何本かの香水瓶が入っていて、不思議なことにどれも母の香りとは違っていた。母が亡くなって、独自に編み出した調香レシピも失われ、母は魔女のままだ。
コメント

骨董品に関する物語・真珠貝の十字架

2019-01-15 19:58:46 | 突発お題

 神を信じない考古学者が生涯を信仰に捧げたキリスト教の僧侶に、十字架の起源は東方からローマにもたらされたもので本来キリスト教とは関わりのない物であったと断言すると、僧侶は穏やかに微笑みながら、この世界の全ては神の創りしものであり、十字架も神のものですと答えた。
コメント

骨董品に関する物語・二枚貝の小物入れ

2019-01-15 19:57:26 | 突発お題

 二枚貝の合わせは人間の指紋と同じように一枚一枚違い、故に元々の貝以外で完全に組み合う一対は存在しない。東洋の島国ではそれを利用して一対の歌を二枚貝に書き込んで玩具とすると聞いた職人は、その一対がこれからも離れぬようにと蝶番で止め、実に優雅な小物入れを造り出した。
コメント

第二十景・それは彼女の涙

2019-01-15 19:43:43 | 桜百景
たかあきは、夜の忘れ物と桜の根に関わるお話を語ってください。

 桜の木の下で待ち合わせた相手が来なかった日、彼女は夜までそこに立ち尽くしたまま一人で涙を流していた。流れ落ちた涙は地面から桜の根に吸い上げられ、桜は甘くて苦い彼女の感情を一滴残らず味わい尽くし、やがて次の春に花として咲かせた。だから、その年の桜はいつもより少し哀しく見えたのだ。
コメント