あるBOX(改)

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書籍紹介「HEAVY LOAD FREE」 ブリティッシュ・ブルース・ロックの雄 フリーの軌跡

2013年09月21日 | CD・書籍紹介(FREE)
「HEAVY LOAD FREE」
(ブリティッシュ・ブルース・ロックの雄 フリーの軌跡)

以前、訳者の方に直接連絡して購入した物だ。



実に濃密で重厚な労作だ。
70年代の「忘れじのブルースロック・グループ=フリー」の伝記本。

David Clayton氏と、Todd K. Smith氏との共著

フリーは洋楽コンサートに飢えた1971年の日本ファンの前で伝説的な
演奏を披露し、根強い人気のあるロックバンドに関わらず、和訳の伝記本が
無かった。
そして、ボックスセットCDの国内盤も発売されなかった。

とんでもない事である。

それを憂いた(?)日本人のフリー・ファン=葛葉氏が自ら翻訳し、
自主出版されたのが、この「HEAVY LOAD FREE」
“ブリティッシュ・ブルース・ロックの雄 フリーの軌跡”である。



とにかく私にとって、FREEというバンドは「特別な」存在だ。
決して別格の存在ではない。
The Whoやジミヘン、Stonesのように、ロック史の中で重要な
役割を果たしたワケでは無いし、
クリムゾンのようにアルバム1枚で同業他者に大きな衝撃を与え、
ロックの可能性を広げたワケでも無い。

それでも、
憂いを帯びながら時に激情的にシャウトするソウルフルなヴォーカル、
抑えを利かせながらもライヴでは吼えるように鳴り響くギター、
ウネりながらフレット上のあらゆる場所を走るベース、
1打1打に魂を込めるように叩くドラマー・・・。

FMラジオで「ファイアー・アンド・ウオーター」のライヴ・ヴァージョンを
聴いて雷に撃たれたような衝撃を覚え、かれこれ30年以上は過ぎるだろうか。

今でも全く懐かしいとは思わないバンドだ。
なぜなら今でも、しょっちゅう聴いている楽曲たちだからだ。

唯一無二のバンドだ。
私にとっては最も重要で愛着のあるロックバンドなのだ。



そのフリーの足跡を辿った「HEAVY LOAD FREE」
“ブリティッシュ・ブルース・ロックの雄 フリーの軌跡”

まずは、メンバーの生い立ちから始まる。
英国では有名な俳優・デビッド・コゾフを父に持つポール・コゾフ(g)は、
早くからロンドンの楽器店で働き、楽器店界隈の「顔」になるなど如才の
無さが目立つ。
※この辺は、ストーンズにおけるブライアン・ジョーンズに
 通じるモノを感じるなぁ。その後、そういうキャラが身を
 持ち崩していく悲惨さは尚更寂しいものがある・・・。

北部生まれのポール・ロジャース(Vo)は、ロックバンドで身を立てる事を
決意し、仲間のミッキー・ムディー(後にホワイトスネイクのギター)らと
ワゴン車で移動していたものの、途中で車が悲鳴を上げて立ち往生。
金なし仕事なしだったバンドも限界をきたし、一行は分裂。

ムーディーらは地元に戻るが「何がなんでも歌で身を立てる」という
ロジャースはロンドンを目指した。

※ロジャースの「鉄の意志」は一貫しており、どんなにバンドが
 苦境でも、決してロックで身を立てる事を諦めない。
 そのガッツとスピリッツは強烈なモノがある。
 ファンからの印象としては、ニコニコしたナイスガイなのだが
 癇癪持ちの面もあり、自分の歌を充分に録れないスタジオマンには
 情け容赦ない怒号を浴びせたそうな・・・。
 


そして、アンディ・フレーザー(b)。
ハイブリッドな血を持つ若き天才は、16歳にしてプロのミュージシャン。
待ち合わせにタクシーで現われ、領収書を切ったのを見て、コゾフでさえ
度肝を抜かれたそうな。
金銭感覚にも秀で、マネージメントも如才ないフレーザーは「自分がバンドを
仕切る」と早々に宣言し、みなを驚かせたとか。

※もっとも、いよいよ交渉がヤバイとなったら
 北の男ロジャースが出てきて睨みを利かせ解決した
 ・・・なんて話です。用心棒かよ、ロジャースさんは。

そして、サイモン・カーク(dr)。
やはりミュージシャンになりたい一心でロンドンへ出てきて活動開始。
コゾフのバンドのオーデションを受け、「オレより上手いヤツが居たから
無理だろうな」なんて思ってたら、コゾフに呼び出され
「俺はオマエと組むぜ」と言われて感激した・・・なんて初々しい話も
ありました。

きっと腕だけじゃなくて人柄も買われたんだろうなぁ。
※まぁ、バドカンで大成功した来日公演では天狗になってた
 ・・・なんて話もありますが。



フリー結成、アルバムの制作・・・と話は進み、
ガイ・ステーブンスやアイランドレーベル社長クリス・ブラックウェルも登場。
当初「彼らは若く、荒々し過ぎる」と契約を渋ったアイランドの一部役員も、
結局は首を縦に振り、フリーというバンド名も若者の我が通った。

※でもある意味、クリス・ブラックウェルが言った
 「フリーってのは、ありふれた感じがする」というのも
 今となっては的外れでは無いよな。だってネットで
 「FREE」を検索したら無料ソフトの紹介が延々と出てきて、
 英国ロックバンドの情報になんて辿り着けやしない・・・。

そして、ガイ・スティーブンスの「ムードメーカー」ぶり。
・・・というか、それしか仕事してないかのような印象。
※エンジニヤのアンディ・ジョーンズなど不満タラタラ・・・。



1stアルバム「トンズ・オブ・ソブス」のジャケットの意味
・・・・などなど、印象的な記述も多い。

※ジャケットに関しては完成度の高いセカンドアルバムのデザインを
 ヒプノシスのストーム・ソーガソンが絶賛しているのは感慨深いねぇ。

また、いつも腹を空かせてたメンバーは、小柄なフレーザーをホテルの
厨房に潜り込ませ冷蔵庫から食料を調達した・・・とか
ロンドンに出てきたばかりのカークが、エンズレー・ダンバーの余りの
上手さにショックを受け「もうドラム止めよう」と悩んだ・・・とか

ベースとヴォーカルのソングライター組にギタリストの演奏チャンスを
狭められ、嫌気がさしたコゾフが、ブライアン・ジョーンズの後釜
オーディションを受けていた・・・とか

いままで聞いた事なかったエピソードも満載だ。
※しかし、コゾフがストーンズのオーディションに受かってたら
 どうなってただろうねぇ。ジョーンズの後にジョーンズが
 入ってくるようなモンだったかもね。



特にライヴにおける若きバンドのエネルギーは凄まじく、時に
The Whoさえも押さえ込んでしまう程だった・・・なんて記述もあります。

※さすがにThe Whoはホントに史上最強のライヴ・バンドだから
 著者の身びいきかも知れないとは思いますが・・・。
 観客動員数を塗り替えたなんて「数」の話されると
 ある程度は本当だったのかな・・・なんて気もします。

特にロジャースのヴォーカルは、完全に後のロックミュージシャンにショックを
与えてしまった模様。
ルー・グラム、サバイバーのヴォーカル、レイナード・スキナードのメンバー・・・。

※そういやレコードコレクターズのレイナード特集では
 レイナードが一部フリー丸出しの曲をやってるとして、
 「これだけのキャリアを誇るバンドとしては恥ずかしい」なんて
 書かれてたけど。「フリーを真似て、なぜ恥なんだ!?」と
 逆に不愉快になった事がありましたわ・・・。



ただ、後半は
好きなバンドの崩壊、人間関係のもつれ・・・が、これでもかと続き、
読んでいて辛い。

「HeartBreaker」発売後に解散、以後のメンバーの活動を短く紹介し、
ポール・コゾフの逝去を知らせて事実上のエンディングとなる。

同時期・同ジャンルの話題も多く
スプーキー・トゥースやスティーヴ・ウィンウッド、グラハム・ボンド、
アメイジング・ブロンデルなど興味深い固有名詞も続々登場。

60年代後半から70年代前半の英国ロック史をも覗き見る事が可能だ。

人名一覧を含め、326ページ!判型もデカイ!
残念な事に出版不況もあって自主出版となったが
※昔ならシンコーミュージックあたりが出版してくれたかも知れないけどなぁ
 ロベルト・デュランの伝記が和訳されたんだからよう・・・。

訳者の葛葉哲哉氏は、なんとバッド・カンパニー以降のキャリアを追った書籍の
出版を計画されているとの事!



今回の一冊だって大変な労作で、
(後半のグループ崩壊の項は読んでいて余りにも辛いが)フリーのファンに
とって掛け替えのない一冊である事は変わりないのに。

その上で、まだヘビィな道を歩もうとされているのか。

「HEAVY LOAD FREE」
著者2名に加え、訳者の葛葉氏の労と情熱に最大限の敬意を表したいと思います!!