履 歴 稿 紫 影子
北海道似湾編
カケス 7の7
保君は、単にこのカケスを捕えてくれたばかりではなかった。
と言うことは、罠でカケスを捕えた翌朝の学校で、廊下に整列をして、全校生が校長先生を待つ僅かな時間を利用して、「オイ、みんな、俺なぁ、義章さんが欲しいと言うから昨日罠でカケス捕えてやったんだよ、だけどよう、義章さんの家は内地から、今年来たばかりだからよう、餌にする唐黍と言う物が一本も無いんだ。俺の家も皆が良く知っているように畑を作って居ないから駄目だ、だからよ、みんなの家にあったら、一本でも半本でも良いから、明日学校へ来る時に持って来て、義章さんにやってくれないか。」と言ってくれたことであった。
それはその翌朝のことであったが、二本或は三本の唐黍を生徒達が、その登校の途中を自分達の名も告げずに私の家へ置いて行ったので、私が学校から帰った時には、引越に使った莨の空箱二個に溢れる程に集まって居た。
「こんなに沢山の唐黍を持って来てくれたのだが、お母さんには誰が誰やら判らないし、聞いても子供達は只笑ってばかり居て、何も言わなかったのだが、一体この唐黍はどうしたの。」と母が言うので、昨日の朝礼の時の模様を私は説明した。
その時「義章、カケス大切に飼わなきゃいかんで、粗末にしたら、保ちゃんを始め沢山の人に申訳無いからなぁ。」と母に、懇懇と言われて居たカケスを殺してしまったのだから、保君を初め唐黍を持って来てくれた生徒諸君に申訳無いと言う気持が、相当に長い期間の私を憂鬱にした。