‘06/09/25の朝刊記事から
中国にとっての「自由」
「彼はまだ釈放されていない。それだけは確かだ。
これ以上は微妙な問題なので、申し訳ないがコメントできない」
中国当局に身柄を拘束された米ニューヨーク・タイムズ北京支局の中国人スタッフ・趙岩氏(44)について、同支局に問い合わせたところ、こんな答えが返ってきた。
中国に駐在している外国の報道機関や外交官は、電話を盗聴されていることが多い。
それを意識してか、先方の米国人記者は言葉のやり取りに慎重だった。
趙氏は2004年9月17日、国家機密漏えい罪と詐欺罪の容疑で突然拘束された。本人は「身に覚えがなく事実無根」と、容疑を否認したが、今も収監されている。
思い当たる節がある。
ニューヨーク・タイムズ紙は中国の人権問題や民主化、言論の自由について批判的な記事をよく書く。
そのたびに、同紙のインターネットサイトが中国国内で遮断されるなどの嫌がらせを中国当局から受けていた。
どうやら2年前の9月7日に「江沢民前国家主席が、共産党中央軍事委員会主席を辞任することを考えている」と報じたことが、当局の逆鱗に触れたらしい。
当時、江沢民氏の後に胡錦濤国家主席(総書記)が、党中央軍事委員会主席に就任するのは時間の問題と見られていた。
その報道はいわゆる観測記事だった。
だが、中国当局は趙氏が「重大な国家機密」を外国人記者に漏らしたと断定し、強硬措置に出たもようだ。
同紙への抑圧に対し、米政府もだまっていなかった。
「言論・報道の自由を侵害するのか」と、趙氏の釈放を働きかけた。
すると、北京市第二中級人民法院(地裁)は先月末、国家機密漏えい罪については「証拠不十分」で不起訴処分とし、別件の詐欺罪で懲役3年を言い渡した。
同紙は「専制体制であっても、だれかがある程度の恥を知っているらしい。趙氏は機密漏えい罪を免れたが、不当な拘束は真実を報道しようとするものへの警告だ」と、皮肉たっぷりに中国側を批判した。
それにしても、最近の中国の言論・報道統制は目に余る。
趙氏だけでなく、8月末にはシンガポールの英字紙「ストレーツ・タイムズ」の香港駐在記者程翔氏(56)がスパイ罪で懲役5年に。
山東省では「当局は強制中絶で人口抑制を行っている」と告発した全盲の人権活動家陳光誠氏(34)が懲役4年3月の判決を受けた。
陳氏は米紙「タイム」5月号で「世界を作る百人」の一人に選ばれたほど著名だ。
さらに、中国政府は今月、国内に情報を配信する外国通信社に対し、国営新華社通信の許可を義務付ける管理規則を公布し、欧米や日本のメディアをあぜんとさせた。
報道統制の強化が中国のイメージダウンとなるのは必至だが、来年秋の第17回共産党大会に向け、政治的安定と団結を誇示しなければならないという事情がある。
華僑向け通信社・中国新聞社によると、貧富の格差拡大や腐敗のまん延、公権力の横暴、土地の強制立ち退きで民衆が憤り、昨年だけで8万7千件の暴動が起きた。
だが、こうした都合の悪い事実は国内では報道されない。
報道機関は「党の喉」と考えられている。
中国の憲法は言論の自由を保障しているが、西欧の概念とは異なり、党の指導あっての「自由」なのである。
中国にとっての「自由」
「彼はまだ釈放されていない。それだけは確かだ。
これ以上は微妙な問題なので、申し訳ないがコメントできない」
中国当局に身柄を拘束された米ニューヨーク・タイムズ北京支局の中国人スタッフ・趙岩氏(44)について、同支局に問い合わせたところ、こんな答えが返ってきた。
中国に駐在している外国の報道機関や外交官は、電話を盗聴されていることが多い。
それを意識してか、先方の米国人記者は言葉のやり取りに慎重だった。
趙氏は2004年9月17日、国家機密漏えい罪と詐欺罪の容疑で突然拘束された。本人は「身に覚えがなく事実無根」と、容疑を否認したが、今も収監されている。
思い当たる節がある。
ニューヨーク・タイムズ紙は中国の人権問題や民主化、言論の自由について批判的な記事をよく書く。
そのたびに、同紙のインターネットサイトが中国国内で遮断されるなどの嫌がらせを中国当局から受けていた。
どうやら2年前の9月7日に「江沢民前国家主席が、共産党中央軍事委員会主席を辞任することを考えている」と報じたことが、当局の逆鱗に触れたらしい。
当時、江沢民氏の後に胡錦濤国家主席(総書記)が、党中央軍事委員会主席に就任するのは時間の問題と見られていた。
その報道はいわゆる観測記事だった。
だが、中国当局は趙氏が「重大な国家機密」を外国人記者に漏らしたと断定し、強硬措置に出たもようだ。
同紙への抑圧に対し、米政府もだまっていなかった。
「言論・報道の自由を侵害するのか」と、趙氏の釈放を働きかけた。
すると、北京市第二中級人民法院(地裁)は先月末、国家機密漏えい罪については「証拠不十分」で不起訴処分とし、別件の詐欺罪で懲役3年を言い渡した。
同紙は「専制体制であっても、だれかがある程度の恥を知っているらしい。趙氏は機密漏えい罪を免れたが、不当な拘束は真実を報道しようとするものへの警告だ」と、皮肉たっぷりに中国側を批判した。
それにしても、最近の中国の言論・報道統制は目に余る。
趙氏だけでなく、8月末にはシンガポールの英字紙「ストレーツ・タイムズ」の香港駐在記者程翔氏(56)がスパイ罪で懲役5年に。
山東省では「当局は強制中絶で人口抑制を行っている」と告発した全盲の人権活動家陳光誠氏(34)が懲役4年3月の判決を受けた。
陳氏は米紙「タイム」5月号で「世界を作る百人」の一人に選ばれたほど著名だ。
さらに、中国政府は今月、国内に情報を配信する外国通信社に対し、国営新華社通信の許可を義務付ける管理規則を公布し、欧米や日本のメディアをあぜんとさせた。
報道統制の強化が中国のイメージダウンとなるのは必至だが、来年秋の第17回共産党大会に向け、政治的安定と団結を誇示しなければならないという事情がある。
華僑向け通信社・中国新聞社によると、貧富の格差拡大や腐敗のまん延、公権力の横暴、土地の強制立ち退きで民衆が憤り、昨年だけで8万7千件の暴動が起きた。
だが、こうした都合の悪い事実は国内では報道されない。
報道機関は「党の喉」と考えられている。
中国の憲法は言論の自由を保障しているが、西欧の概念とは異なり、党の指導あっての「自由」なのである。