明日本番を迎える演奏会には、総勢300名弱の合唱団がオーケストラと共に歌う。町の人口が約3万人だから、ほぼ人口の1%の人が歌う勘定になる。
ホールの座席数は600程度、その舞台に40人程度のオーケストラが乗って、さらに合唱という形なので、とても全員が一緒には乗れないから、合唱を半分に分けて百数十名ずつ歌う、という形をとった。
それでもオーケストラは舞台からはみ出しそうな場所で演奏することになる。その時、一番悲しいのは、弦楽器の音が天井の隙間に吸収されて、客席に届かないこと。
多目的ホールに共通した構造なのだが、舞台上に反響板が組まれ、客席と舞台の間に緞帳(幕、カーテン)を収納する隙間、穴のような場所が天井にある。そこの下で演奏すると、ものの見事に響きがそこに吸われてしまい、客席には痩せた音しか届かなくなる。
ただでさえ少ない弦楽器(第1ヴァイオリン7名etc.)なのに、この音が天井に吸われてはたまらない。
そこで考えた。
緞帳の隙間の下に管楽器を配置し、奥の反響板の下に弦楽器を並べたら、ちょうどよく聞こえる、ということはないだろうか。
現在一般的になっている「高音を下手、低音を上手」の配置は指揮者のストコフスキーが考えたと言われている。その昔、ベルリオーズも、楽器の配置は様々なことを試みるべきだと書いている。なのに現状は、ストコフスキー型配置を世界中で墨守している。21世紀は、別の考え方があって良いはずだろう・・・。
という次第で、試しに管楽器を客席側、その奥に弦楽器という配置をして、音を出させてもらった。
結果はと言うと、管楽器の音が非常に明瞭になった。ただ弦楽器が反響板の下だからと言ってよく聞こえるということにはならなかった。
良いような悪いような・・・やはり比較しないと善し悪しは判断できないので、また通常の配置に戻って同じ曲を演奏してもらった。
その結果、管楽器の音がやや不鮮明になった。だからと言って弦楽器がよく聞こえるということはあまりなかった。音量のある奏者は、どこで演奏してもよく通るし、そうでない人はどこで演奏してもあまり聞こえない、という平凡な結論にいたった。
であれば、何も奇をてらうことはない。いつも通りやるまでのことだが、最後に一応訊いてみた。
「せっかくだから、新しい配置でやってみたいと思う人、手を挙げて・・・」
これが皆無!
オーケストラ人生、まだ始まったばかり、全員5年以内の経験しかない学生オーケストラの集団なのに、この保守性は何だ?
もっとも、普段は保守的ではないようで、その日もヒッチハイクで会場にかけつけたという者がいた。時々ヒッチハイクはするのかと訊けば、生まれて始めてだという。それは実に革新的な行為だ。
ストコフスキー自身も、様々な配置を試みた記録が残っている。なのに、なぜかこの1パターンが世界中で愛好されている。
オーケストラを何十年もやってくると、そろそろ別の配置も考えたい、そう思う方、いらっしゃいませんか?