井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

蜜蜂と遠雷

2019-10-09 20:57:51 | 映画
音楽担当が藤倉大、そして当代一流のピアニストが4人も演奏することを知って、即、観に行った。

さすが藤倉大、ちょっと聴いたことのない類いの音楽が背景で流れている。

そこまでは良いとして、まず注目なのはコンクールの課題曲。カデンツァをコンテスタントが作って弾く設定になっている。
逆に言えば、藤倉大が4種のカデンツァを4人のピアニストに弾かせている。

課題曲本編は4回も聴く訳だから、そのうち覚えるだろうと思っていたら、全然覚えられなかった。予告編を一回見た時の方が印象に残ったという妙な体験になってしまった。

そして、映像化に凝った監督は、誰もやったことがない角度からの撮影、ということで、ピアニストのあごの下から撮っていたり、などという視覚的要素に驚いているうちにカデンツァは終わったりして、とにかく音楽を云々できる状況にはなれなかった。

藤倉大の音楽がすごい、という境地には至らなかったが、映画としてはすごいことである。はたまた、こういう音楽を忘れさせる状況が映画音楽としては理想なのか……。

コンクールを扱っているから、コンテスタント同士が異様な緊張感の中でも友人になっていく様子など、とても懐かしさを感じるところもあった。

一方で「これはないでしょう!」というエピソードもいろいろ。
コンクール直前に登場人物がやる諸事、これがないと物語が成立しない、といういろいろだが、このあたりで、私の気持ちは冷えていったのは確か。

しかし、コンクール本選、ピアノ協奏曲3曲の断片、これでまた熱くなってきた。

いわゆるピアノ協奏曲の勝負曲と言って良いバルトークの3番、プロコフィエフの2番と3番。

10年ほど昔「北京バイオリン」という映画を観た時は「ヴァイオリンはいいなあ」と改めて思ったものだが、今度は「協奏曲は何と言ってもピアノにトドメをさすなあ」と思ってしまった。

俳優さん達も、本当に上手に弾かれる。その昔、加藤剛さんの頃は手を絶対に写さなかったのとはエライ違いだ。

そして、極めつけ(と私が思う)のは河村尚子さんのプロコフィエフの3番。

少し前、N響と矢代秋雄のピアノ協奏曲を共演されていたのをFMで聴いたのだが、抜群の上手さに度肝を抜かれた私であった。

以来注目のピアニストだったが、期待に違わぬ名演を映画で聴かせてくれている。

最後あたり、主人公の心理的葛藤を映像だけで表現しようとしていて、それ自体は感じとれたのだが、映像だけ見てハラハラドキドキは正直言ってしなかった。

でも、河村さんの名演で映画が終わるので、そのような不満は雲散霧消して、良い気分で映画館をあとにできて、それはとても良い。

原作者は映画の出来に驚嘆したそうだが、私は、時間があったら原作を読んで、本来の感動を味わいたい、という感を持った。