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『大江健三郎全小説3』完読

2024-01-19 | 大江健三郎


『大江健三郎全小説3』


2018年7月10日 第一刷発行
株式会社講談社

今回の読書会は、幸福な若いギリアク人からです。
最近は三時間近く語っていることが多い。
あっという間のこの読書会 勉強になります。
 
 
--------抜粋
 
 
1961年の雑誌発表以来、一度も書籍化されることのなかった「政治少年死す」を含む1964年までの初期短編群その3
性、政治、青年の苦悩を真正面から赤裸々に描く。


【収録作品】
セヴンティーン/ 政治少年死す──セヴンティーン第二部/ 幸福な若いギリアク人/ 不満足/ ヴィリリテ/ 善き人間/ 叫び声/ スパルタ教育/ 性的人間/ 大人向き/ 敬老週間/ アトミック・エイジの守護神/ ブラジル風のポルトガル語/ 犬の世界

──初期作品群その3
 
 
著者について

大江健三郎
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞、94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。
 
 
--------
 
 
 
・幸福な若いギリアク人

まずこの「ギリアク人」が本当に存在する民族なのか?

特に調べることなく読み進む。
アメリカ・インディアンのように皮膚が黒く硬いのでインディアンとよばれている二十歳の製材工が主人公
今やインディアンは差別?禁止用語?

ニヴフ - Wikipedia

樺太から終戦後に母親と二人引き揚げてきた青年
ある時「おまえは、ギリアク人だ」と言わたのをきっかけに、自分の出生について興味を持つ。
自分のアイデンティティー

この作品が発表された1961年
大江さんは北海道の礼文島をを訪れている。
その時の経験を基に描いたのかな。

(ラストの・犬の世界に通ずる)



・不満足

鳥(バード)、菊比古が登場
そう『個人的な体験』(2年後)の主人公と同じ名前
特にこの菊比古って名付けは大江さんらしい(苦笑)


P149
---

―—鳥(バート)、おれは怖かったんだよ!

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菊比古が何に怖がっていたのか、怖かったのかが気になる・・
前後を読み直してもはっきり分からず。
再読するかもしれない。



・ヴィリリテ

同性愛を扱った短編

もう何が来ても驚かない。同性愛やら何やら(説明は省略)
ある程度の展開には馴れたとしてもやはり辟易してしまう。。

一体何がまともなんだろうか?

ぼんやりしていてオチがあるようでない。



・善き人間

上記同様 同性愛物語が続く。。

この題名から「誰が善き人間?」と話題にのぼったけど、

---


「誰が悪いやつらだ?」
「みんな本当に悪い人間ですよ。大学教授も、学生も、教師の奥さんも。おたがいに、ひどいことをしていますよ、そして今日はもう忘れているんです」
「しかし、みんな、おたがいに苦しんでいたよ、あの女だってウィスキーで酔うまえは苦しんでいたろう?結局ああいう連中のほうが他の健全な人間よりとくに悪いということはないんだよ」と老人はいった。



「みんな善い人間だよ、そしてたいていの善い人間にできることは、昨日みたいなことをひきおこすか犬の主人になるかすることくらいだよ、おまえさんみたいに、沢山の犬をあつかって、その犬どもの王になることくらいだよ」


---

かならず犬が出てくる。
善い人間 題名は善き人間



・叫び声 こちらも代表作


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一章  友人たち
 
ひとつの恐怖の時代を生きたフランスの哲学者の回想によれば、人間みなが遅すぎる救助をまちこがれている恐怖の時代には、誰かひとり遥かな救いをもとめて叫び声をあげる時、それを聞く者はみな、その叫びが自分自身の声でなかったかと、わが耳を疑うということだ。

戦争も、洪水も、ペストも大地震も大火も、人間をみまっていない時、そのような安堵の時にも、確たる理由なく恐怖を感じながら生きる人間が、この地上のところどころにいる。かれらは沈黙して孤立しているが、やはり恐怖の時代においてとおなじく、ひとつの恐怖の叫び声をきくとその叫びを自分の声だったかと疑う。そしてそのような叫び声は恐怖に敏感なものの耳にはほとんどつねに聞えつづけているのである。


---

この冒頭の一文が主要

現代を生きる孤独な青春達の夢と挫折を鋭く追求

僕を巡る登場人物、アメリカ人のダリウス・セルベゾフと二人の友人呉鷹男と虎

僕はフランス文学を専攻する大学生で、梅毒への恐怖に悩
ダリウス・セルベゾフはスラヴ系アメリカ人で同性愛者
呉鷹男は朝鮮人を父親に持つ18歳の在日朝鮮人の少年
虎はアフリカ人の父と日本人の母を持つハーフでアル中

色濃い仲間とパトロンが夢に向かって同居生活をしている。
何とも説明だけでも濃い。



この物語をきっかけに知ったおぞましい事件
小松川事件 - Wikipedia




・スパルタ教育

なぜに「スパルタ教育」!!??
中身から読み取れなかった題名でした。

この作品は現実の大江さんの状況を描いた作品
宗教団体からの脅迫となっているが、現実はもっと厳しいものだった。。

ただ救いがある物語でありよかった。



・性的人間 出た!!!大問題作である(^▽^;)

主人公はJ
前半と後半に分かれた、それも全く世界観が違う物語である。
もうヤケクソなのか?これ以上のタブーのネタが尽きたのか!?

どうしようもない物語です。
題名からもそう思いますよね?

それもわたくし朝の通勤時に後半を読みました。wow



・大人向き

記載するには微妙?・・こちらはホモセクシュアルの物語です。

東大法学部のエリート学生が陥った兄のトラウマからの新たなる世界
新宿二丁目
青髭の取った行動が矛盾だらけである。そこはスッキリしない。
そもそもスッキリを求めてはいけない(笑)

最後は大人な対応で「大人向き」かしら。



・敬老週間

永いあいだ閉じこもっていた余命いくばくない老人に対して、
アルバイトに雇われた学生3人が20年後の理想の世界を話して聞かせる物語
描かれている世界が1960年代だから、20年後って言うのが1980年代
そこの乖離が今読むとおもしろい。

ユーモア溢れた短編です。good!



・アトミック・エイジの守護神

主人公は大江さん本人を思わせる作家
その目の前に現れた怪しげな経歴を持つ胃癌の中年男
原爆孤児を10人集めて救済し、現在はアラブ式健康法道場を開いている。
と書くとかなり胡散臭い人物ではあるが・・憎めない。
不思議と惹き込まれた。

難は何ヵ所か汚描写

保険金300万(1960年当時)今だと×3ぐらい?
こうゆう数字に時代を感じる。



・ブラジル風のポルトガル語

題名がインパクト!!(笑)


冒頭
---


ジープに乗ったぼくと森林監視員とは、香りたてる深い森を暗渠のようにつらぬく道を疾走し、カーブでは落葉をかぶった赭土をえぐりとっては弾きとばした。落葉は黒く赭土は朱く、数しれないイモリを轢いて疾走するみたいだった。やがれ、われわれは不意に、視界のひらける高台に出た。われわれは夏の終わりの真昼の光に輝く深い森に囲繞された紡錘形の窪地を見わたした。


---

もちろん舞台は四国の山の中
もう定番中の定番ですな。

消えた村人達の行方を捜す森林監視員

オ・セニョール・コンプレエンデ?
ナウン・セニョール・ナウン・コンプレエンド!

いいえ、小生は理解しません!

この掛け合いがツボ

めずらしく平和な誰も死なない物語



・犬の世界

大江さんのテーマの一つとして兄と弟の物語
生き別れした弟との再会ではあるが夫婦で「にせ弟」と呼んでいた。
本当の弟か?それとも他人なのか?そこまあまり重要ではない。

最初の短編、幸福な若いギリアク人に通じる共通点
ここではオロッコ人の祈祷師に会い、そこで弟の生霊をよびだしてもらう予定だった。
しかし突然現れた弟を優先して家路に着く。

このにせ弟は歌を歌えなかった。
ラスト
---


人が歌う歌によって、かれを判断してはならない、というモラルにぼくは賛成だ。しかし二時間の練習のあと、なお《夏は来ぬ》を歌うことができない若者に、ぼくが再び出会うことがあれば、それによってぼくはかれがどういう人間であるかを判断せざるをえないだろうと思うのである。


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納得の一文である。

「残酷な暴力にみちた世界」

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