僕が小学一年生の夏休みのある日。
僕は母親とふたりで、素麺を食べながら、テレビで『ロッテ歌のアルバム』を観ていた。
そこへ近所の電話のある家の人が、血相を変えて、母親に何事かを伝言しに駆けつけてきた。漏れ聞くところによると、どうも母親のクラスの生徒が、隣村の海で遊泳中に行方不明になったらしい。
当時、母親は、僕と同じ小学校で四年生の担任をしていた。
母親は取るものも取りあえず、ついて行くと駄々をこねる僕を連れて、路線バスで現場の海へ急行した。バスの座席に座る母親の顔が、いつになく蒼ざめていて、僕は子供心にも、何かただ事ではない感じがした。
隣村の海岸に着くと、人だかりがしていて、漁師や消防団員と思しき男たちが、海の中を捜索している最中らしかった。
昼下がりの太陽が照りつける海は、真っ青な空と白い入道雲の下、眩いばかりにキラキラと輝いていた。
母親はまわりの人たちから状況を聞いて回っていた。
僕はあまりの暑さに、アイスキャンデーを食べたかったが、それを言い出せる雰囲気ではないことが、何となく感じられて、退屈を噛み殺しながら海を見ていた。
海中から上がってきたひとりの男が、大声で何か叫んだ。まわりの男たちが一斉にそこへ集まって行った。
数分後、男に抱きかかえられた男の子が、砂浜へと運ばれてきた。
子供は首や手足がダラリと垂れ下がり、まるで壊れた人形のようだった。
男の子の母親らしき女の人が半狂乱で名前を呼んでいた。
砂浜に仰向けに寝かされた男の子の胸を、待機していたらしい、白衣の医者が懸命に押し続けていた。
僕はそこへ残る母親と別れて、近所のおばさんに連れられて家に戻った。
その男の子が亡くなったということを知ったのは、翌々日の全校登校日の朝礼でのことだ。僕には何の感慨も動揺もなかった。
その子は海から生まれて、海に帰って行ったのだ、と思うことにした。
隣村の海は遊泳禁止になった。
僕は明日からも海で泳げるかどうかが心配だった。幸い、僕たちの村の海岸での遊泳は禁止されなかった。
僕は何事もなかったかのように、夏休みが終わるまで毎日泳ぎ続けた。
僕は母親とふたりで、素麺を食べながら、テレビで『ロッテ歌のアルバム』を観ていた。
そこへ近所の電話のある家の人が、血相を変えて、母親に何事かを伝言しに駆けつけてきた。漏れ聞くところによると、どうも母親のクラスの生徒が、隣村の海で遊泳中に行方不明になったらしい。
当時、母親は、僕と同じ小学校で四年生の担任をしていた。
母親は取るものも取りあえず、ついて行くと駄々をこねる僕を連れて、路線バスで現場の海へ急行した。バスの座席に座る母親の顔が、いつになく蒼ざめていて、僕は子供心にも、何かただ事ではない感じがした。
隣村の海岸に着くと、人だかりがしていて、漁師や消防団員と思しき男たちが、海の中を捜索している最中らしかった。
昼下がりの太陽が照りつける海は、真っ青な空と白い入道雲の下、眩いばかりにキラキラと輝いていた。
母親はまわりの人たちから状況を聞いて回っていた。
僕はあまりの暑さに、アイスキャンデーを食べたかったが、それを言い出せる雰囲気ではないことが、何となく感じられて、退屈を噛み殺しながら海を見ていた。
海中から上がってきたひとりの男が、大声で何か叫んだ。まわりの男たちが一斉にそこへ集まって行った。
数分後、男に抱きかかえられた男の子が、砂浜へと運ばれてきた。
子供は首や手足がダラリと垂れ下がり、まるで壊れた人形のようだった。
男の子の母親らしき女の人が半狂乱で名前を呼んでいた。
砂浜に仰向けに寝かされた男の子の胸を、待機していたらしい、白衣の医者が懸命に押し続けていた。
僕はそこへ残る母親と別れて、近所のおばさんに連れられて家に戻った。
その男の子が亡くなったということを知ったのは、翌々日の全校登校日の朝礼でのことだ。僕には何の感慨も動揺もなかった。
その子は海から生まれて、海に帰って行ったのだ、と思うことにした。
隣村の海は遊泳禁止になった。
僕は明日からも海で泳げるかどうかが心配だった。幸い、僕たちの村の海岸での遊泳は禁止されなかった。
僕は何事もなかったかのように、夏休みが終わるまで毎日泳ぎ続けた。
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