『京都青春セレナーデ』
(第一話)
昨夜の春の嵐が嘘のように、爽快に晴れ渡った4月の京都の朝。
千年の昔から飽きもせず、三条大橋の下を流れ続ける鴨川の水面には、春の陽光がスパンコールの輝きをまき散らしていた。雨のなごりを含んで息を吹き返したような木の欄干からは、ほのかに蒸気が立ち昇っているのが見えた。
三条大橋を渡ると、映画館の上のロードショウの巨大なパネルや、店の前のジュースやタバコの自動販売機、レコード店やパチンコ店のポスターなどが、行き交うタクシーや観光バスの騒音とともに、古都の朝に原色の活気をみなぎらせていた。
全国津々浦々から集まった女の子や学生やオバサン連中が、ファッション雑誌やガイドブック片手に、マジカル・ヒストリー・ツアーを敢行する平安の都。日本一の観光都市であり、かつ、学生の街であり、古い街と新しい街、歴史のいにしえと現代の風俗が、何の違和感もなく同居する京都。
1973年4月、青雲の志を胸に、九州の田舎町から勇躍京都へやってきた上田修二にとって、その日が記念すべき大学生活の第一日目、入学式の日であった。
修二は高校を卒業するまで九州から一歩も外へ出たことはなかったが、都会に対する憧れは人一倍強く、大学は絶対に大都会、東京の大学に行こうと考えていた。
しかし親や親戚連中の根気強いなだめすかしに負けて、親戚が住んでいる大阪に近い、京都の大学で妥協したのだった。
3月の半ばに、下宿を捜しに初めて京都に来た時、比較する対象を、九州の田舎町の商店街くらいしか持ち合わせていなかった修二にとって、新京極の雑踏や四条河原町の喧騒は、まさにカルチャーショックだった。
土産物屋や雑貨ショップが軒を連ねるアーケードの下は人波にあふれ、ビルが立ち並ぶ四条通りにはタクシーやバスが列をなし、四条河原町の角には、高島屋デパートメントストアが威風堂々とそびえたっていた。テレビや雑誌でしか見たことがなかった、マクドナルドやケンタッキーが他の店と同じように、当たり前のように並んでいるのにはびっくりしたものだ。
これから4年間、この街で大学生活のモラトリアムを過ごせるのかと思うと、修二は舞い上がりそうな胸のときめきを覚えた。
(第一話)
昨夜の春の嵐が嘘のように、爽快に晴れ渡った4月の京都の朝。
千年の昔から飽きもせず、三条大橋の下を流れ続ける鴨川の水面には、春の陽光がスパンコールの輝きをまき散らしていた。雨のなごりを含んで息を吹き返したような木の欄干からは、ほのかに蒸気が立ち昇っているのが見えた。
三条大橋を渡ると、映画館の上のロードショウの巨大なパネルや、店の前のジュースやタバコの自動販売機、レコード店やパチンコ店のポスターなどが、行き交うタクシーや観光バスの騒音とともに、古都の朝に原色の活気をみなぎらせていた。
全国津々浦々から集まった女の子や学生やオバサン連中が、ファッション雑誌やガイドブック片手に、マジカル・ヒストリー・ツアーを敢行する平安の都。日本一の観光都市であり、かつ、学生の街であり、古い街と新しい街、歴史のいにしえと現代の風俗が、何の違和感もなく同居する京都。
1973年4月、青雲の志を胸に、九州の田舎町から勇躍京都へやってきた上田修二にとって、その日が記念すべき大学生活の第一日目、入学式の日であった。
修二は高校を卒業するまで九州から一歩も外へ出たことはなかったが、都会に対する憧れは人一倍強く、大学は絶対に大都会、東京の大学に行こうと考えていた。
しかし親や親戚連中の根気強いなだめすかしに負けて、親戚が住んでいる大阪に近い、京都の大学で妥協したのだった。
3月の半ばに、下宿を捜しに初めて京都に来た時、比較する対象を、九州の田舎町の商店街くらいしか持ち合わせていなかった修二にとって、新京極の雑踏や四条河原町の喧騒は、まさにカルチャーショックだった。
土産物屋や雑貨ショップが軒を連ねるアーケードの下は人波にあふれ、ビルが立ち並ぶ四条通りにはタクシーやバスが列をなし、四条河原町の角には、高島屋デパートメントストアが威風堂々とそびえたっていた。テレビや雑誌でしか見たことがなかった、マクドナルドやケンタッキーが他の店と同じように、当たり前のように並んでいるのにはびっくりしたものだ。
これから4年間、この街で大学生活のモラトリアムを過ごせるのかと思うと、修二は舞い上がりそうな胸のときめきを覚えた。