物心ついた時から慣れ親しんでいた診察室の消毒液の匂い。
リノリウムの床のひんやりとした感触。
藍色の薬瓶や銀色の容器。
田舎の縁日のアセチレンランプのカーバイトが燃える匂い。
祭の後に燃え残りを拾って、水溜りに落とした時のプクプクと泡立つ匂い。
紙火薬鉄砲や2B弾、カンシャク玉や花火とは違う、微かな寂寥感にも似たチープな匂い。
夏休みにいつも祖母と行ってた祖母の生まれ育った田舎町。
バス停からお寺まで続く、田んぼの中の一本道。
青い稲の葉緑素の蒸れた匂い。
一面の田んぼのあちこちで、陽光を反射させる鳥除けの銀紙の短冊。
残りの夏休みの日数を指折り数えていた夏の終わり。
駄菓子屋の天井から吊るされていた、ハエ取り紙の粘っこい油臭。
遠くから聴こえるトランジスタラジオの歌謡曲。
しおれたアサガオ。
耳鳴りのような蝉時雨。
炭鉱のトンネルから地下へ潜っていく灰色のトロッコの列。
そのトロッコに整然と乗っていた鉱夫は、僕から見たらロボットのようだった。
祖母はいつも、鉱夫はさながら戦地へ赴く兵士のようだと言った。
10年以上も前に終わった戦争という言葉が、祖母や両親や近所の大人たちの口から、何の違和感もなく発せられていたあの頃。
田舎の海辺の町はよく停電になった。
雷雨の夜などは停電の暗闇の中、轟く雷鳴と稲光に頭を抱えてベソをかいていたものだ。
祖母は手馴れた様子で仏壇の蝋燭に火を灯して、卓袱台の上に置いていた。
リノリウムの床のひんやりとした感触。
藍色の薬瓶や銀色の容器。
田舎の縁日のアセチレンランプのカーバイトが燃える匂い。
祭の後に燃え残りを拾って、水溜りに落とした時のプクプクと泡立つ匂い。
紙火薬鉄砲や2B弾、カンシャク玉や花火とは違う、微かな寂寥感にも似たチープな匂い。
夏休みにいつも祖母と行ってた祖母の生まれ育った田舎町。
バス停からお寺まで続く、田んぼの中の一本道。
青い稲の葉緑素の蒸れた匂い。
一面の田んぼのあちこちで、陽光を反射させる鳥除けの銀紙の短冊。
残りの夏休みの日数を指折り数えていた夏の終わり。
駄菓子屋の天井から吊るされていた、ハエ取り紙の粘っこい油臭。
遠くから聴こえるトランジスタラジオの歌謡曲。
しおれたアサガオ。
耳鳴りのような蝉時雨。
炭鉱のトンネルから地下へ潜っていく灰色のトロッコの列。
そのトロッコに整然と乗っていた鉱夫は、僕から見たらロボットのようだった。
祖母はいつも、鉱夫はさながら戦地へ赴く兵士のようだと言った。
10年以上も前に終わった戦争という言葉が、祖母や両親や近所の大人たちの口から、何の違和感もなく発せられていたあの頃。
田舎の海辺の町はよく停電になった。
雷雨の夜などは停電の暗闇の中、轟く雷鳴と稲光に頭を抱えてベソをかいていたものだ。
祖母は手馴れた様子で仏壇の蝋燭に火を灯して、卓袱台の上に置いていた。