京都の音楽をかじった大学生で、十字屋を知らない学生は、それこそモグリだ。
二階建て店舗の1階のフロアに林立する、アコースティックギター(当時は単にフォークギターと呼んでいた)やエレキギターが、ギター小僧の胸を高鳴らせたものだ。
その中でも、湿度対策を施したガラスケースの中で、燦然と輝くマーチンのD-45はマニア垂涎の至高のアコギだった。
値札には金額は表示されてなく、応相談の文字が貧乏学生を暗に拒絶していた。
プロや限られた常連しか試奏させてもらえなかったようで、半ば素人の私には高嶺の花だった。
ショーケースの前で、就職したら金を貯めて、いつかは買ってやるぞと心に誓っていたものだ。
時は流れて、サラリーマンになった私は、長期の分割払いだと買えないことはない身分になった。
しかしその頃は私のギター熱もだいぶ冷めており、趣味としてのギターに100万円以上も出すほど馬鹿ではなかった。
自分のギターの腕前とD-45の値段はあまりにもかけ離れていた。
無理して買ったところで宝の持ち腐れ、猫に小判、豚に真珠だ。
そんなギターを、わかる人間の前で下手に弾いたところで、鼻で笑われるのがオチだ。
安物と弾き比べても、たぶん違いがわからない私には、せいぜい10万円以下のギターがお似合いだ。
そんなわけで、今はネットで安く買った中古のフェンダーのロン・エモリ―・シグネチャーモデルを愛用している。
ショートスケールのパーラータイプのコンパクトなアコギで、古いブルースナンバーをシコシコ弾くのに最適だ。
ビートルズのジョージ、ストーンズのキース。どちらも伝説のバンドのリードギタリストだ。そのふたりに共通するのがヘタウマ。キースに至っては、歳をとってその素人顔負けのヘタさに磨きがかかってきた。しかしそのサウンドには、他のギタリストには出せないオリジナルな味わいがある。それがビートルズやストーンズを、伝説にならしめた要因のひとつだと言っても過言ではないだろう。 そんな味わいの小説を、Amazon Kindle Storeに30数冊アップしています。★★ 拙著電子書籍ラインナップ・ここから買えます。
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