本日、隠れた日本文学の名作に贈られる、第1回神田川賞と植木賞の受賞作、および最終候補作が発表されました。
神田川賞は青春文学、植木賞はサラリーマン文学のそれぞれ登竜門として、本年新たに設けられました。
多数の候補作の中から、それぞれ受賞作1編と最終候補作3編が選ばれました。
今回、神田川賞は新進気鋭のたそがれジョージ氏が受賞作、最終候補作を独占されました。
これは1964年4月4日付のビルボード・トップ10の第5位までを独占した、かのビートルズ以来の快挙です。
ちなみに植木賞も受賞作、最終候補作のうち3編までを、たそがれジョージ氏が独占しました。
これは日本文学界の新たなる巨星の誕生といえるかもしれません。
では、下記に両賞の受賞作、および最終候補作を、選考委員長の村下夏樹氏の選評とともに列記いたします。
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第1回神田川賞
受賞作「1973・追憶の京都」たそがれジョージ
<選評・村下夏樹>
文句なしの受賞作。
1973年3月から11月の京都の街を舞台の青春ストーリー。
当時の京都の店々や流行歌を随所に散りばめ、イベントや社会情勢も克明に描かれ、懐かしい昭和の情景が甦ってきます。
少年から青年に変わりゆく主人公の大学生活を背景に、淡い恋心が切なくも美しい筆致で描かれています。
まるで青春時代にタイムスリップしたような感覚になり、自身のあの時代のことが懐かしく思い起こされます。
あの時代を京都で過ごした方には、実名で登場する喫茶店やパブなど、感涙物のストーリーです。
大した事件が起こるわけでもなく、淡々と進行する物語を、興味深く読ませる著者の筆力にただただ頭が下がります。
最終候補作(次点)「京都青春セレナーデ」たそがれジョージ
<選評・村下夏樹>
受賞作と同じ舞台なのに、また違った味わいの青春物語です。
九州から出てきた主人公の九州弁もご愛嬌。
初めてのひとり暮らしの大学生活を、脇役の友達とともに面白おかしく描いています。
バンド活動や合宿、アルバイトやデートに明け暮れる大学生活を克明に活写し、ノスタルジックな気分を満喫させる快作です。
最終候補作「さらば夏の日1970」たそがれジョージ
<選評・村下夏樹>
1970年、主人公の高校1年の夏休みの、いわばひと夏の経験的な物語。
九州の辺境の町を舞台に、都会に憧れる主人公の成長物語としても読めます。
都会の大学から来たロック同好会やアングラ劇団が、当時の雰囲気を色濃く醸し出します。
高度成長期の平和な田舎の夏休みが、甘酸っぱいノスタルジーとともに甦る佳作です。
最終候補作「恋のバカンス」たそがれジョージ
<選評・村下夏樹>
一風変わった味わいの短編です。
小学生の主人公が祖母と一緒に墓参りに行った話です。
夏のギラギラした太陽の下、埃っぽい田舎道を歩く主人公のちょっとした心の動きを、巧みな筆致で描く珠玉の短編です。
その昔ザ・ピーナッツが歌った「恋のバカンス」から、思わぬ方向に展開するインスピレーションに脱帽です。
第1回植木賞
受賞作「役職定年・浅き夢の終わり」たそがれジョージ
<選評・村下夏樹>
サラリーマンにとっては他人事であってほしい、出世や昇進の行き止まり、そんな役職定年を迎えた主人公の小波乱を描く傑作。
役職が外れたあとの会社での立場、熟年離婚、金銭事情など、ともすれば暗くなりがちなライフスタイルを軽妙なタッチで描く著者の筆力はさすがです。
サラリーマン諸兄には自身の将来を見るようで、身につまされるかもしれませんが、こんな生き方もある、というひとつの啓示とも受け取れるはずです。特に役職定年間近の管理職諸氏には必読のストーリーです。
最終候補作(次点)「希望退職」たそがれジョージ
<選評・村下夏樹>
サラリーマンにはいろんな生き方がある。
定年退職がすごろくの上りなら、希望退職はある意味ドロップアウトかもしれない。
この小説は希望退職した主人公と、しなかった主人公を、SFでいうところの並行世界的な視点で描いた画期的なストーリーです。
その着想は著者ならではのものでしょう。
最後のオチも、ひねりがきいて思わず、オッという読者の声が聴こえそうです。
最終候補作「テレアポの憂鬱」たそがれジョージ
<選評・村下夏樹>
テレフォン・アポイントメント、略してテレアポ。要は電話セールスだ。
受けるほうも迷惑千万だが、かけるほうにも相当なストレスが溜まる業務だ。
そんな部署に配属された3人の落ちこぼれ社員の奮闘記。
3人それぞれの視点が交互に展開する、新感覚のサラリーマン小説。
波乱万丈のストーリー展開が、見事に描かれています。
最終候補作「定年退職なんて怖くない」あこがれジョージ
<選評・村下夏樹>
たそがれジョージ氏以外で唯一候補になった、あこがれジョージ氏の力作。
小説というより定年退職予備軍のための参考書か。
昔は第二の人生とも言われた定年退職後の生活も、今や生活苦の老後のイメージだ。
そんなイメージを覆す、目からウロコの怪作。
これさえあれば明るい老後となるか。