懐かしのB面専科

シングルレコードの
B面の曲に
詳しいヤツがいた

ヒットしたA面は
みんな知っていたけど

B面はノーマーク

いつも得意そうに
歌ってくれた

そいつの悩みは

ビートルズのシングルは
どちらがB面か
ということだった

懐かしのケンタッキー

油でギトギトに
なりながら

マクドにすれば
よかったと
後悔した

デートで行った
京都で1軒だけだった
河原町三条店

鶏のカラ揚げを
フライドチキンと
言い換えて

全国制覇は
立派です

懐かしのアストロ球団

コマから飛び出す
登場人物

風雲急を告げるような
ド迫力の背景

常識破りの
魔球や打法

破天荒な
試合展開

スポ根漫画とは
異なる爽快感

アストロ戦士たちと
生年月日が
同じなのが

自慢でした

懐かしのピースマーク

どことなく
哲学的な
平和の象徴

ピースマーク

商業ベースの
平和の象徴

スマイルマーク

いまでも
ケータイを向けられると
やってしまう

井上順の
オチャラケな
平和の象徴

ピースサイン

懐かしのジュークボックス

近未来の
ステレオロボット
みたいなのに

どこかしら
レトロ感があった

パブで
他の客と

密かに
選曲のセンスを
競い合った

ワンコイン
アナログ
音楽配信玉手箱

懐かしの「わびすけ」

喫茶店というのでもなく
甘味処でもない

カフェとか
ミルクホールみたいな
近代古色の風もなく

気軽にお茶は
ちょっと
気詰まりだった

大学西門前の

町屋造りの
奇妙なお店

懐かしの

京都では
王将と競っていた

店の作りも
料理の値段も
似たようなものだった

王将の全国チェーン展開に
ついていけなくて

関西C級グルメに
定着してしまったけれど

熱烈隠れファンが
多い
の餃子

懐かしのサリンジャー

英文科でなくても
みんな読んでいた

「ライ麦畑でつかまえて」

難解でもなく
感動的でも
なかったけれど

淡々とした
語りの中に

仄かな
刺激のパルスが
脈打っていた

懐かしの無法松

昭和枯すすきのような
若夫婦がやっていた

下宿の近くの
居酒屋

その名も無法松

置いていた酒も
北九州の銘酒「無法松」

明太子と塩辛だけで
鯨飲していた

九州出身の
バンカラな同級生が

ママに抱いた

淡い恋心

懐かしの「ゴッドファーザー」

単なる
暴力団抗争も

コッポラが
撮ると

芸術になって

深作の
仁義なき戦いが

空回りに
見えてしまった

主題歌は
暴走族のテーマに
なってしまったけど

懐かしの「傷だらけの天使」

みんな真似てた

オープニングの
ハチャメチャな
朝食シーン

新聞紙のエプロン

トマトまるかじり

コンビーフまるごと

牛乳ガブ飲み

でも牛乳瓶のフタを
口で開けられない

可哀相な
奴もいた

懐かしの伏見屋

分厚くて
でっかいハマチの造り

てんこ盛りの野菜天

お椀から
殻がはみ出す
ハマグリの赤だし

すべての酒肴が
巨大だった

酔客の声高を
一喝する

怖い姉さんが
仕切っていた

三条京阪東の
小さな居酒屋

懐かしの手作りベッド

夜中に
近所の酒屋や
飲み屋の横の

空のビールケースを
コツコツ拝借して
下宿へ運び

畳の上に並べて
古いカーテンで
カバーリング

その上に布団を置いて

簡易ベッドに
していたヤツがいた

懐かしのティーバッグ

インスタント・コーヒーと
ともに

試験勉強や
徹マンの時の

必需品だった

ワンパックで
三杯は取っていた

出がらしを
天日に干して
煮出したら

さすがに
マズくて
飲めなかった

懐かしの牛乳

毎朝
駅の売店で
ヒーロー飲みしていた
瓶の牛乳

銭湯で
飲んでた
フルーツ牛乳

三角パックに
なってから

なんとなく
飲まなくなった

お手軽
完全栄養食品