「真田係長、お電話です」
昼食を済ませて席に戻った真田に、電話の転送ボタンを押しながら中原智子が言った。男性社員はまだ食事から戻っておらず、室内は閑散としていた。
「はい、真田ですが…」
「初めてお電話させていただきます。私、三信興産の通販事業部の柳瀬と申します」
電話の声は、丁寧な言葉の中にも、どことなく威厳のある年長の役職者を思わせた。
「三信の通販事業部と言いますと、あのシーシェルの…」
真田は思わず声をひそめた。
「いやあ、御社ほどではありませんが、同じ業界で細々とやらしていただいてます」
三信興産は中堅の商社で、三年ほど前に、中堅のカタログ通販会社、シーシェルを傘下に収め通販事業に参入していた。
「それで、きょうお電話を差し上げたのは、ぜひ真田さんと折り入ってご相談したいことがありまして、ご都合をお聞きしたいと思いまして…」
「どういったことでしょう?」
「電話ではどうも…恐縮ですが、できたら社外でお会いしたいのですが…」
左遷に等しい人事異動のあとで同業他社からの電話、社外での密会の要請とくれば、答はひとつ。引抜きである。
真田は不承不承を装いながら、柳瀬と会うことを承諾し、日時と場所を伝えた。
昼食を済ませて席に戻った真田に、電話の転送ボタンを押しながら中原智子が言った。男性社員はまだ食事から戻っておらず、室内は閑散としていた。
「はい、真田ですが…」
「初めてお電話させていただきます。私、三信興産の通販事業部の柳瀬と申します」
電話の声は、丁寧な言葉の中にも、どことなく威厳のある年長の役職者を思わせた。
「三信の通販事業部と言いますと、あのシーシェルの…」
真田は思わず声をひそめた。
「いやあ、御社ほどではありませんが、同じ業界で細々とやらしていただいてます」
三信興産は中堅の商社で、三年ほど前に、中堅のカタログ通販会社、シーシェルを傘下に収め通販事業に参入していた。
「それで、きょうお電話を差し上げたのは、ぜひ真田さんと折り入ってご相談したいことがありまして、ご都合をお聞きしたいと思いまして…」
「どういったことでしょう?」
「電話ではどうも…恐縮ですが、できたら社外でお会いしたいのですが…」
左遷に等しい人事異動のあとで同業他社からの電話、社外での密会の要請とくれば、答はひとつ。引抜きである。
真田は不承不承を装いながら、柳瀬と会うことを承諾し、日時と場所を伝えた。