The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
21世紀文明研究セミナー“南海トラフ地震対策”を聴講
数年前から毎年受講している(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構主催の“21世紀文明研究セミナー”の“防災”分野の今年度最終講“南海トラフ地震対策”を聴講したので、その概要を紹介したい。講師は鈴木進吾*氏であった。
*鈴木進吾 氏
-(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構人と防災未来センター・リサーチフェロー(現)
-(現)国立研究開発法人 防災科学技術研究所レジリエント防災・減災研究推進センター 主幹研究員
-(元)京都大学防災研究所助教(河田研)
-専門分野:津波防災工学
阪神沿岸に居住し、活動域としている者にとって、南海トラフ地震による津波被害をどのように回避するかは当面の中心的防災テーマであろう。ここでセミナー主催者の(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構は、震災以後に兵庫県が中心になって設置された機関であり、自治体も住民も防災意識は高い方だと言えるが、ほとんどの人は当面は地震より、南海トラフ地震による津波を懸念しているのではないか。阪神地域に想定される津波高さについては約4mと計算されているのに対し、私自身の居住域は国土地理院のホームページによれば標高6.2m(レーザ5m)とあり、さらに自治体のハザードマップを見ても、何らのマーキングもないので、基本認識としては大いに心配することはないだろうが、南海トラフ地震による津波は震災発生から1時間程度は余裕があり、警報が出れば念のため避難するべきだろうと思っている。
東北の津波被害を視察した折には、山田町の場合非常に閉塞した山田湾沿岸域であっても最も津波被害の大きかったのは、湾口に正対する織笠川の河口だったということを知った。これによれば紀伊水道湾口で太平洋に正対する神戸市沿岸域は大阪よりも被害が大きくなる可能性は強いと個人的には懸念している。
一般的には、標高の低い地域があるにもかかわらず、人口が多く、大きな河口も多い大阪府下沿岸域が警戒されている印象(多くの人が集まる梅田でも浸水するとの予測で、地下街や地下鉄では警戒されている。)のようだ。しかし、私は山田町のことを知ってから兵庫県下の神戸市も高懸念域ではないかと思うようになり、特に標高の低い地域の多い尼崎や西宮の沿岸地域は心配ではないかと思っている。しかし、山田町の湾岸と大阪湾では規模が異なり、波の反射や干渉を考慮したコンピュータ・シミュレーションによる算出結果によって大阪の被害予測があるのだろう。このように大阪警戒は尊重されるべきだろうが、想定外があってはならないのは事実だ。そのためか、西宮での住民の避難訓練の実施についての噂はよく耳にする。現に、このセミナーの講師・鈴木氏も西宮の避難訓練に参加した経験を話していた。
以上のような理由によって、南海トラフ地震による津波対策には注意が必要な訳で、ここから講演の概要を紹介する。
さて南海トラフ地震だが、過去ほぼ百年の間隔で起きている。
近世以降では1707年10月28日(宝永4年)に最大級の地震があり、この地震にはその前1677年に延宝三陸津波があったと言う現状に近い状態のようだ。ちなみに、この地震の49日後には富士山の宝永大噴火があったという。
1854年12月24日(嘉永7年) 安政南海地震、死者3千人。紀伊・土佐などで津波により大きな被害(串本で最大波高 11m)。この場合もこの32時間前に安政東海地震(東南海地震含む)が発生。
1946年(昭和21年)12月21日 昭和南海地震 。被害は中部以西の日本各地にわたり、死者1,330名。津波が静岡県より九州にいたる海岸に来襲し、高知・三重・徳島沿岸で4-6mに達した。この地震の2年前、1944年(昭和19年)12月7日には昭和東南海地震が発生。1948年福井地震。
この南海トラフ地震はプレート境界型地震だ。太平洋プレートやフィリピン海プレートの海を形成するプレートは重く、ユーラシアプレートや北米プレートは軽く陸地を形成する。これらのプレートが日本で接して境界を形成して、海プレートが陸プレートの下に潜り込んでいる。プレート表面には山谷があり接触面ではしばらく固着しているが、移動し潜り込む力による歪が限界に達すると大陸型プレートが海中で跳ね上がり、津波を発生することになる。
この跳ね上がりの場所や程度は固着の状況が不明なので予測困難だが、海プレートの移動速度はほぼ一定なので、過去の発生間隔やばらつきを考慮すれば、時期の予測はある程度の確かさで予測できると考えられている。確率のピークは南海地震は2026~2030年、東南海地震は2031~2035年にあり、発生確率は、前者は12%超え、後者は12%足らずとなっている。
次の南海トラフ巨大地震に対する新想定では、“東日本大震災の教訓を受けて2段階の津波を設定”となっている。“レベル1の津波”は過去数百年起きていた過去最大~3位レベルで、各地域での様々な対策を検討することとし、“レベル2の津波”は、“それぞれの地域にとって「起こりうる最大の」津波”を想定し、“避難を考える”こととなっているとのこと。
具体的には先ず地震については、その震源域を基本ケースをベースにそれぞれ東、西、陸側に10~20㎞ずらした想定でさらにマグニチュードも7.6,8.0,8.4とそれぞれ想定して、全てをシミュレーションし、各地での被害最大を検討しその場合の避難想定をどうするかを対策することになっている由である。
この場合各地で防潮扉については、堤防が75%沈降し扉自身も全て機能しない場合とこれらがある程度機能している場合の両方の想定を府県で行うことになっているとのこと。
このための各地での検討に資する“あなたのまちの津波を知るウェブアプリケーション”の構築を目指しているとのことである。(後に既に整備されているかをウェブ上で調べてみたが、未だのようだった。)
地震計と津波計が一体となった観測装置を光海底ケーブルで観測網を南海、東南海、東北地方沖の海底に設置し、リアルタイムに24時間連続で観測データを取得し、直後の津波を直接的に予測し、迅速・高精度な情報伝達により被害の軽減や避難行動などの防災対策に寄与することが期待できる。海域の地震像の解明のためにも海底における観測データは有効とされているとの紹介があった。
津波避難訓練にスマホを使ってリアルな模擬演習ができる“個別避難訓練アプリ・逃げトレ”も開発されているのと紹介もあった。このアプリケーションの改善点として、強い地震の後の道路等の損壊や施設破壊をどの程度想定できて対応できるかが課題であるということだった。
被害想定各地での時系列行動計画(タイムライン計画)をしっかり立てることによって、実際に生じた危機に際して誰がどのように動いているか、連絡が取れなくても統制のとれた行動ができることを目指すことが重要であるとのことだった。このためにも想定外が生じないようなもれのないタイムライン計画を訓練によって練り上げることが肝要なのだろう。
できれば、私の居住する神戸市内沿岸も“あなたのまちの津波を知るウェブアプリケーション”の対象地域になれば、私も想定してみたい。それにより、避難行動を計画しておきたいと思っている。
*鈴木進吾 氏
-(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構人と防災未来センター・リサーチフェロー(現)
-(現)国立研究開発法人 防災科学技術研究所レジリエント防災・減災研究推進センター 主幹研究員
-(元)京都大学防災研究所助教(河田研)
-専門分野:津波防災工学
阪神沿岸に居住し、活動域としている者にとって、南海トラフ地震による津波被害をどのように回避するかは当面の中心的防災テーマであろう。ここでセミナー主催者の(公財)ひょうご震災記念21世紀研究機構は、震災以後に兵庫県が中心になって設置された機関であり、自治体も住民も防災意識は高い方だと言えるが、ほとんどの人は当面は地震より、南海トラフ地震による津波を懸念しているのではないか。阪神地域に想定される津波高さについては約4mと計算されているのに対し、私自身の居住域は国土地理院のホームページによれば標高6.2m(レーザ5m)とあり、さらに自治体のハザードマップを見ても、何らのマーキングもないので、基本認識としては大いに心配することはないだろうが、南海トラフ地震による津波は震災発生から1時間程度は余裕があり、警報が出れば念のため避難するべきだろうと思っている。
東北の津波被害を視察した折には、山田町の場合非常に閉塞した山田湾沿岸域であっても最も津波被害の大きかったのは、湾口に正対する織笠川の河口だったということを知った。これによれば紀伊水道湾口で太平洋に正対する神戸市沿岸域は大阪よりも被害が大きくなる可能性は強いと個人的には懸念している。
一般的には、標高の低い地域があるにもかかわらず、人口が多く、大きな河口も多い大阪府下沿岸域が警戒されている印象(多くの人が集まる梅田でも浸水するとの予測で、地下街や地下鉄では警戒されている。)のようだ。しかし、私は山田町のことを知ってから兵庫県下の神戸市も高懸念域ではないかと思うようになり、特に標高の低い地域の多い尼崎や西宮の沿岸地域は心配ではないかと思っている。しかし、山田町の湾岸と大阪湾では規模が異なり、波の反射や干渉を考慮したコンピュータ・シミュレーションによる算出結果によって大阪の被害予測があるのだろう。このように大阪警戒は尊重されるべきだろうが、想定外があってはならないのは事実だ。そのためか、西宮での住民の避難訓練の実施についての噂はよく耳にする。現に、このセミナーの講師・鈴木氏も西宮の避難訓練に参加した経験を話していた。
以上のような理由によって、南海トラフ地震による津波対策には注意が必要な訳で、ここから講演の概要を紹介する。
さて南海トラフ地震だが、過去ほぼ百年の間隔で起きている。
近世以降では1707年10月28日(宝永4年)に最大級の地震があり、この地震にはその前1677年に延宝三陸津波があったと言う現状に近い状態のようだ。ちなみに、この地震の49日後には富士山の宝永大噴火があったという。
1854年12月24日(嘉永7年) 安政南海地震、死者3千人。紀伊・土佐などで津波により大きな被害(串本で最大波高 11m)。この場合もこの32時間前に安政東海地震(東南海地震含む)が発生。
1946年(昭和21年)12月21日 昭和南海地震 。被害は中部以西の日本各地にわたり、死者1,330名。津波が静岡県より九州にいたる海岸に来襲し、高知・三重・徳島沿岸で4-6mに達した。この地震の2年前、1944年(昭和19年)12月7日には昭和東南海地震が発生。1948年福井地震。
この南海トラフ地震はプレート境界型地震だ。太平洋プレートやフィリピン海プレートの海を形成するプレートは重く、ユーラシアプレートや北米プレートは軽く陸地を形成する。これらのプレートが日本で接して境界を形成して、海プレートが陸プレートの下に潜り込んでいる。プレート表面には山谷があり接触面ではしばらく固着しているが、移動し潜り込む力による歪が限界に達すると大陸型プレートが海中で跳ね上がり、津波を発生することになる。
この跳ね上がりの場所や程度は固着の状況が不明なので予測困難だが、海プレートの移動速度はほぼ一定なので、過去の発生間隔やばらつきを考慮すれば、時期の予測はある程度の確かさで予測できると考えられている。確率のピークは南海地震は2026~2030年、東南海地震は2031~2035年にあり、発生確率は、前者は12%超え、後者は12%足らずとなっている。
次の南海トラフ巨大地震に対する新想定では、“東日本大震災の教訓を受けて2段階の津波を設定”となっている。“レベル1の津波”は過去数百年起きていた過去最大~3位レベルで、各地域での様々な対策を検討することとし、“レベル2の津波”は、“それぞれの地域にとって「起こりうる最大の」津波”を想定し、“避難を考える”こととなっているとのこと。
具体的には先ず地震については、その震源域を基本ケースをベースにそれぞれ東、西、陸側に10~20㎞ずらした想定でさらにマグニチュードも7.6,8.0,8.4とそれぞれ想定して、全てをシミュレーションし、各地での被害最大を検討しその場合の避難想定をどうするかを対策することになっている由である。
この場合各地で防潮扉については、堤防が75%沈降し扉自身も全て機能しない場合とこれらがある程度機能している場合の両方の想定を府県で行うことになっているとのこと。
このための各地での検討に資する“あなたのまちの津波を知るウェブアプリケーション”の構築を目指しているとのことである。(後に既に整備されているかをウェブ上で調べてみたが、未だのようだった。)
地震計と津波計が一体となった観測装置を光海底ケーブルで観測網を南海、東南海、東北地方沖の海底に設置し、リアルタイムに24時間連続で観測データを取得し、直後の津波を直接的に予測し、迅速・高精度な情報伝達により被害の軽減や避難行動などの防災対策に寄与することが期待できる。海域の地震像の解明のためにも海底における観測データは有効とされているとの紹介があった。
津波避難訓練にスマホを使ってリアルな模擬演習ができる“個別避難訓練アプリ・逃げトレ”も開発されているのと紹介もあった。このアプリケーションの改善点として、強い地震の後の道路等の損壊や施設破壊をどの程度想定できて対応できるかが課題であるということだった。
被害想定各地での時系列行動計画(タイムライン計画)をしっかり立てることによって、実際に生じた危機に際して誰がどのように動いているか、連絡が取れなくても統制のとれた行動ができることを目指すことが重要であるとのことだった。このためにも想定外が生じないようなもれのないタイムライン計画を訓練によって練り上げることが肝要なのだろう。
できれば、私の居住する神戸市内沿岸も“あなたのまちの津波を知るウェブアプリケーション”の対象地域になれば、私も想定してみたい。それにより、避難行動を計画しておきたいと思っている。
コメント ( 0 ) | Trackback ( )
« 今年の株式市... | 21世紀文明研... » |
コメント |
コメントはありません。 |
コメントを投稿する |