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“ISOを活かす―49. 内部監査では品質目標の達成度をチェックして、業績向上につなげる”


今回は 内部監査の指摘事項の内容についてです。

【組織の問題点】
内部監査を年2回実施している会社がありました。不適合指摘の内容を見ると“○○の手順が文書化されていなかった”、“○○の実施記録がなかった”、“承認印がなかった”というものでした。このような監査では、会社の業績向上に役立つものではない、と社長は不満です。
業績向上に資する内部監査にするには どのようにするべきか、という課題です。

【磯野及泉のコメント】
この事例に対し、著者・岩波氏の指摘は 品質目標をテコにした 内部監査のやり方で 改善を重ねるという方策を提案しています。

ところで、初心に立ち返って ISO9001が その適用組織に課している要求事項の基本は何でしょう。ISO9001 7.2.1項には次の要求事項があります。



つまり、ISO9001の要求事項以外に 顧客の明示的あるいは暗黙の要求事項、法令規制要求事項、組織自身が必要とする要求事項の遵守・実行を 事実上 求めています。

この要求事項は しばしば ISO9001の関係者の視界から外れているように思います。審査会社による審査(第三者監査)では、ここに着目した審査は ほとんど行われないというのが 実態ではないでしょうか。それが、影響してか 内部監査でも 審査会社と同じ視線で監査するのが 一般的になっているかも知れません。これが、“ISO9001は会社経営に 役に立つのか” という経営者のISO9001に対する不信感につながっている一因ではないかと思われます。
審査会社の審査員には 被審査組織の “顧客の声” や“組織自身の切実な目標” など 限られた審査工数の中で 本当に理解できる訳が無く、それが7.2.1項に 沿った審査が実施されない理由です。これは当然のことと言えます。したがって、審査会社による審査(第三者監査)では、7.2.1項以外のISO9001の要求事項に沿って審査される結果となります。

組織の “組織の顧客の声” や“組織自身の切実な目標”に関わる要求事項の実施状況については、自らの監査(第一者監査)である内部監査で 確認するのが ISO9001でのマネジメントのやり方と言えます。“組織自身の切実な目標”は 組織の設定した品質目標に 表現されています。
そういう ことから 著者・岩波氏の “品質目標に対する達成度と、未達の場合には適切な改善策がとられているかどうかを、内部監査でチェックすることによって、内部監査をパフォーマンスの改善に利用することができます。内部監査では、品質目標の達成度をチェックしましょう。” という指摘になります。
すなわち組織固有の要求事項に“パフォーマンスの改善”の要求があるのです。

ここで 著者・岩波氏の言う 「推奨事項」とは 何を指しているのでしょう。組織固有の要求事項への不適合を こう呼ぶようにしようというのでしょうか。私は組織固有の要求事項への不適合も 毅然として「不適合」指摘とするべきではないかと思います。しかし、組織固有のやり方である実際的な解決策が 十分に展開されていない場合に 監査者が経験に基づき その具体策を示すための「推奨事項」(ヒント)は意味があると思います。
こういうやりかたが内部監査(第一者監査)に 期待される姿であり、審査機関の審査(第三者監査)との違いではないかと思うのです。

ところで、A社の内部監査における、不適合指摘の “○○の手順が文書化されていなかった”、“○○の実施記録がなかった”、“承認印がなかった” 等々といったことは、何でもない問題のようですが、実はその個々の不適合の背景に 何か大きな不適合が 隠されているような気がします。個々の問題に まじめに“なぜなぜ解析”をしてみてはどうでしょう。A社社長は、これら監査結果に “会社の業績向上に役立つものではない”、と不満を持つ前に、背後の大きな不適合を解明するようにマネジメントシステム管理責任者に指示するべきではないか、と思います。
ここにはA社の企業カルチャーに関わる問題が 潜んでいる可能性もあるような気もします。経営者自身の問題が潜んでいないでしょうか。従業員による“真の声”が 隠されていないでしょうか。もし そうであれば経営者の反省のための貴重な材料となります。こういった点にも 経営者のリーダー・シップは 発揮されるべきだと思います。
不適合指摘からの“気付き”の姿勢は 内部監査こそ 大いに必要だと思います。当の経営者自身が “ISO9001は ウザイものだ”、と潜在意識で思っていれば、こういった“気付き”は 生まれず、有効なISO9001マネジメントシステムの構築は 遠ざかるように思うのです。やるべき改善は、沢山あるはずです。その意識と仕組みを作ることがISO9001の目的です。

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コメント
 
 
 
グリーンスチール (元鉄鋼商事関係)
2024-11-20 14:34:29
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、トレードオフ関係の全体最適化に関わる様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
 
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