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“ISOを活かす―5. 特殊工程の活用によって、生産性向上とコストダウンを図る”



一般には なじみのない“特殊工程”という言葉が 事例5のテーマとなっています。
この“特殊工程”とは “結果として得られる製品の適合が、容易に又は経済的に検証できないプロセス(工程)”であることが多い(ISO9000:2000 用語の解説,3.4.1 参考3.)とされています。つまり“特殊工程”は “その製品の検査ができない工程”のことを言います。
ISO9001:1994年版の規定要求事項の中にあった言葉で、2000年版では その言葉自体は 規格から消えています。ですから 今はなじみの無い 人も多いのではないかと思われますが、なぜか解説本には この言葉は よく見かけます。
そして ISO9001:1994年版では、“特殊工程”については“認定された者(有資格者)が作業を実行すること、及び/又は工程パラメータ(工程の技術条件などの指標)の連続的な監視及び管理を行うこと”になっていました。また これらの活動に伴う記録も要求されていました。

【組織の問題点】
機械装置の製作会社A社では 溶接工程を特殊工程としていたが、同業他社B社が 特殊工程とはしていないと聞いて、めんどうな“特殊工程”管理を止めようと考えていますが、それでよいだろうか、という問題提起です。

前回 思わず 知らず、溶接工程は“検査”できないものと言ってしまいました。その直後に このような事例紹介が登場して 私としては 少々慌てています。従来から、溶接工程は“特殊工程”の代表的事例として挙げられては いたものでしたが。

【磯野及泉のコメント】
さて、2000年版では この“特殊工程”を 意識した規定要求事項は7.5.2項にあるため、この本の著者は この項を 引用しています。



そして、次のように解説しています。“特殊工程”は、この要求事項に従って“妥当性確認が要求され、これが面倒だと思われているのです。しかし、特殊工程では製品レベルでの検査を行う必要がありません。特殊工程は・・・・全般としての管理が楽になることが多いのです。・・・・「適当に作って、厳格な検査をする」というのではなく、「工程レベルを向上させて、よい製品を作る」というISOの趣旨からしても、特殊工程として管理する方が適切です。” と言っています。

7.5.2項について、ISO9001唯一の日本人執筆参加者の加藤重信氏は “ISO9001はこう使う”の中で “特殊工程”について、以下のように言っています。
“特殊工程”という言葉を用いることで“何やら難しいことが要求される”ので“特殊”ではないかという 誤解を 一般に生じていた。つまり、“確かに顧客に引き渡すまでの工程内でつくり込んだ製品の品質について、その適切性が保証できないのであれば、有資格者が作業するか、又は工程パラメータの連続的な監視及び管理を行うことという要求は最低限のもの”ですが これが面倒な 難しいことと思われているのではないか、ということです。
しかし、“もっと積極的にこのような管理をしなければならない業種がたくさんある”ことも分かってきたので “プロセスの妥当性”という言葉で工程の確認作業を表現することにしたということです。“したがって、2000年版のJIS規格の解説に、7.5.2の要求事項は特殊工程のことであると書いてあるのは必ずしも正しくありません。”と指摘しています。
“2000年版の7.5.2をうまく利用すれば、「プロセスの妥当性があることを実証しているから、結果は保証できる。妥当性の再確認もかなりの頻度で実施しているから、プロセスは適切に結果を出していると言える。したがって、検査・試験は実施していない」という論理が成立するように思います。”と言い切っています。
つまり、“特殊工程”という言葉がISO9001から消え、“検査”という概念が 軽いものになったのです。
このあたりまで来ると 前回で指摘したように、正に、品質工学の“検査は無用”という主張と一致した見解であると思うのです。“検査が 品質保証のカナメ”と信じておられる向きには 画期的な考え方だと思います。

ここで、今まで気付かなかったのですが、加藤氏の指摘通り、ISO9004には この7.5.2項に対応する推奨事項はありません。“検査・試験”の位置付けが 根底から変わる 重要な契機となる動きに ISO9004は対応していないのは 私には驚きです。

加藤重信氏は 続けて 次のように言っています。“具体的に、プロセスの妥当性の確認の対象となるプロセスがあるのか、ないのかを検討することから始めてください。これまでに、検査・試験を実施しなければならないという規格の理解から、検査と位置づけられていた活動が、見直してみると、この項で要求している妥当性の再確認にあたっているとした方が理解しやすい事例をいくつか見てきています。目視による工程内検査とか抜き取りによる確認とかいったたぐいの活動は、これまで検査と位置付けられていたことが多いようですが、前にも説明しているように、妥当性の再確認とすれば、活動の自由度が大幅に広がるのではないかと思います。”

さらに加藤氏は“妥当性の再確認がポイントだと説明しました。どのような方法で妥当性が維持されているかを判断する方法を明確にしてください。” とも 指摘しています。
“妥当性の再確認”は 常時 激しく技術革新が進行している今日では 少なくともある程度の時間が経過すれば必要なことであると思われます。しかし、どんなタイミングで どのようにやるかは 非常に難しい課題ではありますが、組織の意志に基づいて適切に判断するべきです。

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マルテンサイト千年ものづくりイノベーション (サムライグローバル鉄の道)
2024-08-25 07:34:09
最近はChatGPTや生成AI等で人工知能の普及がアルゴリズム革命の衝撃といってブームとなっていますよね。ニュートンやアインシュタイン物理学のような理論駆動型を打ち壊して、データ駆動型の世界を切り開いているという。当然ながらこのアルゴリズム人間の思考を模擬するのだがら、当然哲学にも影響を与えるし、中国の文化大革命のようなイデオロギーにも影響を及ぼす。さらにはこの人工知能にはブラックボックス問題という数学的に分解してもなぜそうなったのか分からないという問題が存在している。そんな中、単純な問題であれば分解できるとした「材料物理数学再武装」というものが以前より脚光を浴びてきた。これは非線形関数の造形方法とはどういうことかという問題を大局的にとらえ、たとえば経済学で主張されている国富論の神の見えざる手というものが2つの関数の結合を行う行為で、関数接合論と呼ばれ、それの高次的状態がニューラルネットワークをはじめとするAI研究の最前線につながっているとするものだ。この関数接合論は経営学ではKPI競合モデルとも呼ばれ、様々な分野へその思想が波及してきている。この新たな科学哲学の胎動は「哲学」だけあってあらゆるものの根本を揺さぶり始めている。こういうのは従来の科学技術の一神教的観点でなく日本らしさとも呼べるような多神教的発想と考えられる。
 
 
 
リスペクト (エンジン技術者)
2024-08-28 15:03:20
「材料物理数学再武装」といえばプロテリアル(旧日立金属)製高性能特殊鋼SLD-MAGICの発明者の方の大学の講義資料の名称ですね。番外編の経済学の国富論における、価格決定メカニズム(市場原理)の話面白かった。学校卒業して以来ようやく微積分のありがたさに気づくことができたのはこのあたりの情報収集によるものだ。ようはトレードオフ関係にある比例と反比例の曲線を関数接合論で繋げて、微分してゼロなところが最高峰なので全体最適だとする話だった。同氏はマテリアルズ・インフォマティクスにも造詣が深く、AIテクノロジーに対する数学的な基礎を学ぶ上で貴重な情報だと思います。それと摩擦プラズマにより発生するエキソエレクトロンが促進するトライボ化学反応において社会実装上極めて有効と思われるCCSCモデルというものも根源的エンジンフリクション理論として自動車業界等で脚光を浴びつつありますね。
 
 
 
信頼性工学的視点 (軸受エンジニア)
2024-08-28 15:05:30
私の場合「材料物理数学再武装」を読んだのが非正規分布系の確率密度関数に興味を持ったからだ。品質工学かんけいの怪しげなサイトで「ドミノ理論」なる政治的なにおいのぷんぷんする内容が大体的に語られていたころだった。破壊力学的な確率密度関数がそれにあたるが、ワイブル関数も一つの近似形態だという認識だったのは感動した。あと等確率の原理から微分方程式により正規分布を導出あたりも新鮮だった記憶があります。
 
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