The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
“ISOを活かす―39. トレーサビリティによって、品質管理体制を充実させる”
今回は 食品のトレーサビリティが テーマです。サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)体制の問題でしょうか。
【組織の問題点】
5年前にISO9001の認証を取得したレストランA店は、品質管理体制を充実し、顧客満足度を向上させて、経営に寄与させたいという社長の方針です。
ところが、このレストランのISO9001認証取得後、BSE問題が発生し、店自身も大きな打撃を受けました。
この問題に対しISO9001認証取得が 無力だったことに社長はショックを受けたとのこと。はたしてISO9001を活用してどのように問題を防ぐことができるのでしょうか、というテーマです。
【ISO活用による解決策】
著者・岩波氏は、この問題を食材のトレーサビリティの問題ととらえて、ISO9001の条項として “7.5.3 識別及びトレーサビリティ” を 取り上げています。(7.5.3項の最後段) そして“トレーサビリティとは、市場で品質問題が発生した場合に、その原因となった材料や工程のおよぼす影響の範囲が明確になり、対策がとれることです。” と述べています。
そして、“レストランAでは、材料のトレーサビリティについては十分な対策がとられていなかったのです。この問題を解決するためには、まずBSE問題の原因を究明することが必要です。” と指摘して、えらく問題を拡大して扱っています。
そして肉牛の飼育状況の履歴、特に飼料として肉骨粉を使った場合の状態が分かることが必要だと指摘しています。
さらに、“この問題は1軒のレストランAだけで解決できる問題ではありませんが、食肉業界がISOのトレーサビリティの管理を行なっていれば、わが国のBSE問題は、これほど大きな問題にはならなかったでしょう。”と 述べて、社会全体に ISOマネジメントの精神が普及していれば 防げた問題ではないかとの指摘となっています。
【ポイント】
ここでの、著者による総括は 次の通りです。
BSEへの著者・岩波氏のこだわりが奇異な印象で、ここでは ③のみが、ISO9001に関わる教訓と言えるのではないでしょうか。
【磯野及泉のコメント】
このレストランA店1軒の問題として サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)に関わる食材トレーサビリティ能力を問うのは いささか飛躍があるような気がします。
おそらく、本書の企画構成上、トレーサビリティに関連する事例として 適切なものを取り出すことができなかったため 食材のSCMへ問題を拡大させて テーマとされたのではないかと思われます。あるいは、社会全体にISOマネジメントの精神が普及していれば BSE問題は防げた、という著者・岩波氏の慨嘆でしょうか。こういう説明は 初学者に混乱した理解を与える恐れがあるように思います。
ISO9001で要求している“トレーサビリティ”は 自社内での“製品”の管理体制に関することとしか 読み取れません。
また、この本の “ISO活かす”という本来の趣旨は ストランAにとって ISOマネジメントをどのように 解釈適応して問題を解消するかが焦点であるハズで、SCMのことにまで 問題の輪を拡げるのは行き過ぎだと思われます。
したがって、本件は 購買管理の問題であって、そこから まずは供給者の管理責任を問い、それで不満足であれば 購買ルートを変更するという 機敏な対応がとれなかったことが、問題であると 私は 思うのです。
牛肉の 購買ルート変更が 不可能、あるいは 調達の変更によって自社独自のフレーバが確保できない場合は 牛肉を使わないレシピを緊急に開発するといったトップ・ダウンの 吉野家のような対応が 必要でしょう。
したがって、ここでも 経営者である社長のパフォーマンスに問題があるように 感じられます。ISO9001の認証取得があれば あとは どんな問題も 乗り切れるとか、権限委譲した部下の誰かが対応してくれるといった意識が そこはかとなく感じられるのです。そこまででなくても、自社経営上の緊急対応の問題を ISO9001システムの不備の せいにしていないでしょうか。
確かに、ISO9001には 正面きって経営上のリスクの問題や 緊急対応について規定されていないという “欠陥”はあるように思います。したがって、ISO/TS16949では この点を補強する“緊急事態対応計画”の要求事項(ISO/TS16949 6.3.2項)があります。
またISO14001にも“緊急事態への準備及び対応”の要求事項(ISO14001 4.4.7項)があり、そういうことから ISO14001は リスク・マネジメントにも使えると主張している人が居られます。
経営は生き物です。緊急事態発生の場合 組織横断で対処しなければなりません。その場合 経営者の陣頭指揮が重要だと思います。レストランAの社長は この危機に どのように陣頭指揮されたのでしょうか。それが 問題の核心だと思うのです。こうした 緊急の場合のトップ・ダウンこそが 経営者の手腕が問われる局面だと思うのです。
しかし、これはISO9001審査対象外と言ってもよい問題です。そういう事情もあって、著者・岩波氏も 審査の場ではレストランAの社長に、食材トレーサビリティの問題として 話題をそらさせた可能性があるかも知れません。
ちなみに 食品関連ではありませんが、一般の製造業においてSCM上の原材料のトレーサビリティに関して 喫緊の課題は ヨーロッパのRoHS指令の遵守のための対応・原材料管理の仕組構築のありかたです。すなわち グリーン調達のためのマネジメント・システムの問題です。
これには JGPSSIの対応が 非常に有力で 既にほぼ グローバルなデファクト・スタンダードになったのではないかと 私は見ています。JGPSSIの推奨している マネジメント・システムは 厳密には品質マネジメント・システムと環境マネジメント・システムの中間に位置するものですが、適切な調達・購買には欠かせないものだと思います。
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