徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

インフルエンザウイルスは通常の呼吸だけでも拡散している

2018年01月20日 08時12分03秒 | 小児科診療
 インフルエンザは患者さんがばらまくウイルスの飛沫感染による、と言われてきました。
 しゃべるときのツバとか、くしゃみ、咳による飛散が犯人。

 しかし、ふつうの呼吸でもウイルスがしっかり排泄されているという報告を見つけました。
 「インフルエンザウイルスはくしゃみに多く含まれるというわけではなく、通常の呼気にも同じ程度の量が含まれて拡散されているということが判明」という恐るべき事実!

■ インフルエンザウイルスは通常の呼吸だけでも拡散していることが判明
2018年01月19日:Gigazine
 冬になると流行が拡大するインフルエンザは、日本のみならず世界中の国で人々の高い関心を集める厄介な病気です。予防策としては、予防注射や発症者の隔離、そしてあまり効果はないことがわかった「マスクの着用」などが一般的に広く知られていますが、最新の研究からはウイルス保持者が単に呼吸するだけでもウイルスが拡散されていることがわかっています。

Infectious virus in exhaled breath of symptomatic seasonal influenza cases from a college community
Flu may be spread just by breathing, new study shows; coughing and sneezing not required | UMD School of Public Health

 メリーランド大学の科学者らによって実施された研究からは、これまで考えられていたよりもインフルエンザウイルスの拡散は容易に起こっていることが明らかになっています。全米科学アカデミー誌に掲載された論文「Infectious virus in exhaled breath of symptomatic seasonal influenza cases from a college community」(大学コミュニティにおける季節性インフルエンザ症例を示す人物の呼気中の感染性ウイルス)では、インフルエンザ患者が吐き出した空気に大量の感染性ウイルスが含まれており、呼気による空気感染を考慮する必要性を示す証拠が示されています。
 メリーランド大学公衆衛生学校の環境衛生学教授で、公衆衛生学修士の学位を持つドナルド・K・ミルトン博士は、「インフルエンザの症状を持つ人の周囲の空気が、咳やくしゃみを行わない呼吸だけによっても感染性ウイルスに汚染されていることを明らかにしました。インフルエンザを患っている人は、特にインフルエンザにかかった最初の日において、感染性エアロゾルを空気中に放出します。そのため、誰かがインフルエンザにかかった場合は、すぐに帰宅させて職場にいない状態にすることで、他者への感染を防ぐべきです」と述べています。
 ミルトン博士が率いる研究チームは、インフルエンザにかかっている142人から採取した「通常の呼気」「発話時の呼気」「自発的なせき」「くしゃみ」に含まれるインフルエンザウイルスを調べ、その感染性の度合いを調査しました。被験者からは、鼻の中を綿棒状の器具「スワブ」でぬぐったサンプルと、30分間にわたって採取した呼気とせき、くしゃみの呼気サンプルがそれぞれ218サンプル集められています。
 そしてこれらのサンプルを分析したところ、多くのインフルエンザ患者が放出する呼気に含まれるエアロゾルの中に、空気感染を起こすに十分なインフルエンザウイルスが含まれていることが明らかになりました。そして注目すべきなのは、通常の呼気でさえも多くのウイルスを含んでいたという事実。自然呼気に含まれていた23種類のエアロゾルサンプルのうち、48%にあたる11種類が検出可能なウイルスのRNAを含んでおり、さらにその11種類のうち8種類が感染性ウイルスを含んでいたといいます。そしてさらに、くしゃみに含まれるエアロゾルサンプルに含まれるウイルスの割合は、通常の呼気に含まれているそれと大きな違いはないという驚くべき事実も明らかになっているとのこと。つまり、インフルエンザウイルスはくしゃみに多く含まれるというわけではなく、通常の呼気にも同じ程度の量が含まれて拡散されているということが判明しています。
 論文の著者は、これらの知見はインフルエンザが空気中を伝播することについての数学的モデルを改善すること、より効果的な公衆衛生対策を生みだすこと、そしてインフルエンザの流行の影響を抑制および軽減することを可能にすると記しています。もしインフルエンザ患者が出た場合は、何よりもまず感染者を帰宅させるなどして隔離して外に出さないようにすることが大事であると同時に、予防接種を受けることもおろそかにすべきではないとのこと。たしかに予防接種を受けてもインフルエンザにかかることはありますが、病状の重篤化を防ぐ効果も期待できるため、全く無意味というわけではないためです。



■ インフルエンザ、予想以上に高い「空気感染」リスク 〜咳やくしゃみがなくても、患者はウイルスを排出している
2018/2/15 大西淳子=医学ジャーナリスト:日経Gooday
 今シーズンは、インフルエンザが例年にない大流行となっています。インフルエンザは主に、感染者のくしゃみや咳と共に飛び散った、ウイルスを含むしぶきを吸い込むことで感染する「飛沫感染」か、ウイルスが付着したものを触った手指を介して感染する「接触感染」のいずれかによって広まると考えられていました。
 しかし、このほど米Meryland大学の研究者たちが行った研究で、インフルエンザの感染者が咳やくしゃみをしていなくても、その患者の吐く息を吸い込んだだけで「空気感染」が起こる可能性が指摘されました。感染者の呼気に含まれる微細な粒子にも感染性のあるウイルスが含まれており、そのために、直接患者の咳やくしゃみを浴びなくても、同じ室内にいるだけでも、感染が起こり得るというのです。

<飛沫感染と空気感染の違い>
(飛沫感染)ウイルスなどの病原体を含む水分の粒子(飛沫;直径5μm超)を吸い込むことで起こる感染。飛沫は水分を多く含むため、1~2m飛ぶと落下してしまう。
(空気感染)飛沫の水分が蒸発した小さな粒子(飛沫核;直径5μm以下)を吸い込むことで起こる感染。飛沫核は飛沫よりも小さく、長時間空気中を漂うため、より広範囲の人々に感染を広げる危険がある。空気感染でうつる感染症の代表例は、はしか(麻疹)、水ぼうそう(水痘)、結核など。


◇ インフルエンザの患者が吐く息にはウイルスが含まれている
 研究者たちは今回、インフルエンザが疑われる若者355人を選び出し、呼気の中に排出されるインフルエンザウイルスの量と感染力を調べました。
 355人のうち、インフルエンザと診断され、発症から3日以内に鼻の粘膜から標本(鼻咽頭スワブ)が採取されていて、同時に30分間の呼気も提出していた142人を分析対象にしました。142人の年齢の中央値は20歳、男性が49%で、89人がA型、50人はB型、3人は両方の型に感染していました。これらの患者は、発症から3日以内に計218回受診して、標本の提出に協力していました。
 計218回の受診のうち、195回(89%)の受診では1回以上の咳が観察されていましたが、くしゃみが観察されたのは11回(5%)のみでした。多くの患者は、咳、鼻水などの「上気道症状」は軽症から中等症で、全身症状は中等症から重症、痰、気管支炎などの「下気道症状」は軽症だと報告していました。
 呼気の採取は、自由に話したり、咳やくしゃみをしたりする中で30分間行いました。呼気標本は、空気感染の原因となる「飛沫核」と同じ大きさの直径5μm以下の微細粒子が含まれる標本と、飛沫感染の原因となる「飛沫」と同じ大きさの直径5μm超の粗大粒子を含む標本に分けました。
 標本中にインフルエンザのウイルスRNAが存在するかどうかを調べたところ、微細粒子の標本の76%、粗大粒子の標本の40%、鼻咽頭スワブ標本の97%が陽性でした。さらに、感染性を持つインフルエンザウイルスの存在を調べたところ、微細粒子標本の39%と鼻咽頭スワブ標本の89%が陽性でした(粗大粒子の標本についてはこの検査は行えませんでした)。
 微細粒子の標本中にウイルスRNAが存在することと関係していた要因は、「呼気採取中の30分間に出た咳の回数」、「上気道症状あり」、「症状発現から経過した日数が少ないこと」などでした。つまり、咳や鼻水などの上気道症状が出ている、発症早期のインフルエンザ患者ほど、呼気中にウイルスが含まれていて空気感染を起こす可能性が高いということが考えられます。
 なお、呼気採取中に、くしゃみはまれにしか見られておらず、感染性のある微細粒子の産生にくしゃみは必須ではないと考えられました。
 この研究で得られた結果は、インフルエンザ感染者が普通に呼吸しているだけで、ウイルスが吐き出され、それが感染を広げる可能性があることを示しました。狭い空間での感染を防ぐには、こまめな換気を心がけ、インフルエンザに感染した可能性がある人は、できるだけ自宅で静養して人との接触を避けた方がよさそうです。
 論文は、2018年1月18日付の米科学アカデミー紀要(PNAS)電子版に掲載されました(*1)。


*1 Yan J, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Jan 30;115(5):1081-1086. doi: 10.1073/pnas.1716561115. Epub 2018 Jan 18.
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