スギ花粉症シーズン真っただ中、
皆さんはいかがお過ごしでしょうか?
患者でもある私は、抗アレルギー薬と漢方薬の併用、
それから点眼&点鼻薬で治療中です。
前項目のごとく、私は西洋医学の治療でコントロールできない、あるいは副作用のため西洋薬を使いづらい患者さんに漢方薬を提案しています。
実は花粉症に適用できる漢方薬は複数存在し、
目の前の患者さんにどの薬が合うか考えて処方しています。
具体的には、季節や患者さんの様子や患者さんの鼻の中の状態を観察して使い分けます。
まず、一年中鼻水鼻詰まりがつらい通年性アレルギー性鼻炎患者さんの鼻の中を覗くと、
鼻粘膜(見えるところは「下鼻甲介」)が青白くむくんで腫れている状態がふつうです。
スギ花粉症の始まりは2月でまだ寒い時期です。
このタイミングで受診される患者さんの鼻の中も青白くむくんでいることが多いですね。
この所見を漢方医学的には「寒」、つまり“冷えている”状態と捉え、
温める漢方薬を使用します。
温める漢方薬の代表は小青竜湯です。
最近、花粉症の治療薬として認知されてきましたね。
小青竜湯の効きが今一つで、鼻詰まりがつらくて夜は口呼吸をしている患者さんには、葛根湯加センキュウ辛夷を処方します。
この薬、子どもの風邪の鼻づまりにもよく使いますが、
とにかく鼻が通って楽になります。
なお、小青竜湯と葛根湯加センキュウ辛夷には「麻黄」という体を温める生薬が入っており、
胃弱・虚弱体質の方が飲むと胃もたれや胃腸障害・動悸などの副作用が出ることがありますので、
心配な方は医師や薬剤師と相談してください。
なお、麻黄が体に合わない、胃がもたれてしまう方には麻黄を抜いたエキス剤である苓甘姜味辛夏仁湯があります。
それでもダメなら、強力に温める附子という生薬も入った麻黄附子細辛湯を使うのですが、
これはもともと高齢者用のかぜ薬で、
「風邪をひいても熱が出ない(免疫力低下で熱が出せない)、
悪寒だけが続く虚弱体質に適用」
されるレベルなので、エネルギーの固まりである小児には使用したことはありません。
スギ花粉症のピークの時期は3月です。
特に雨上がりの翌日、温かくなって風が吹く日にたくさん花粉が飛びます。
このタイミングでは、鼻症状+目を真っ赤にして受診する患者さんが増えてきます。
そんな患者さんの鼻の中を覗くと…粘膜が赤く腫れています。
これを漢方医学的には「熱」(強い炎症が起きている)と捉え、
「寒」とは逆に、冷やす漢方薬を選びます。
代表的なものは越婢加朮湯です。
この薬は「赤く張れあがってつらい症状」によく効きます。
関節リウマチの赤く腫れた関節痛や、虫さされで赤く腫れあがって痛がる子どもにも効きます。
そして花粉症で目が赤く充血、周囲の皮膚も赤く腫れあがっているときに有効です。
ただし、麻黄という生薬がたくさん入っているため、
体力のない人(胃弱・高齢者)が飲むと胃もたれや胃腸障害が必発ですのでご注意ください。
越婢加朮湯でも症状を抑えきれないときは、
小青竜湯の親分格の大青竜湯を使います。
ただし、大青竜湯はエキス剤には存在しないので、
2つのエキス剤を併用することで代用します。
2つのパターンがあります:
(麻黄湯)+(越婢加朮湯)
(桂枝湯)+(麻杏甘石湯)
また、咳が目立つ方には、竜虎湯(小青竜湯+五虎湯)を選択します。
さらに、微熱やだるさがつらい花粉症患者さん用の漢方薬もあります。
余談ですが、関西では「虎」を先に持ってきて「虎竜湯」と呼ぶそうです。
理由は…お分かりですね。
西洋医学では、抗アレルギー薬の効きが悪い例、あるいはコントロールしきれない例には、ステロイド薬に頼らざるを得ません。
点眼(フルメトロン、リンデロン)は仕方ないとしても、
全身投与であるセレスタミン(内服)やケナコルト(注射)は、
副作用の点からできれば使いたくない薬です。
一方、漢方薬ではその患者さんの体質・病態に合う方剤がいくつも用意されており、さらに重症度に応じてアレンジできます。
私は「漢方薬をうまく使えばステロイド薬を使わずに済むのではないか?」と考え、長年診療してきました。
その結果わかったことは、
「冷えている患者さんは温める、
熱を持っている患者さんは冷やす」
という単純明快な真実。
さらに寒熱を踏まえ、その患者さんの体質・体力を考慮して使い分けるとうまくいきます。
それを間違うと、思うような効果が期待できません。
これは西洋医学にはない考え方です。
とくに「温める」薬は西洋医学には存在しません。
ひとつ注意点があります。
前述しましたが、熱をターゲットにした漢方薬は、
強くなればなるほど麻黄の含有量が増えます。
つまり、副作用のリスクが増えます。
自己判断で服用したり、
自分で効いたから人にあげて飲んでもらうことは厳禁です。
ご注意ください。