小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

夜尿症の講演会を聞いてきました(2014.1.19)。

2014年01月20日 06時41分33秒 | 小児医療
第18回東京小児科医会セミナー(於:ステーションコンファレンス東京)
講演1「抗利尿ホルモン療法について」 村杉寛子先生(天正堂クリニック)
講演2「夜尿症アラームの使い方」 堀加代子先生(世田谷子どもクリニック)
特別講演「夜尿症診療は新たなステージへ~明日からはじめる問診・検査・治療のコツ~」 藤永周一郎先生(埼玉県立小児医療センター腎臓科医長)


という講演会に参加してきました。
夜尿症に関してまとまった話を聞く機会は乏しく、知識の確認と更新を兼ねて極寒の中上京しました。
ふむふむと頷くこと多し。
記憶に残っていることをメモしておきます;

・夜尿症児は睡眠が深いために覚醒しにくい(覚醒障害)と考えられてきたが、近年捉え方が変わってきた。それは、過活動性膀胱(膀胱が勝手に収縮してしまう)をベースに睡眠が浅くなり(睡眠障害)、それが夜尿に繋がるという真逆の考え方。

・夜尿は小学1年生(7歳)で10%存在する。その子達は無治療でも1年ごとに10~15%治っていく。治療を行うと治癒率が2-3倍に増える。つまり、夜尿症児が10人いると毎年1人は自然に治り、治療をするとそれが2人になる、ということ。
 ・・・有効率低し!

・多尿型より膀胱型の方が治療抵抗性。治療は大きく分けて薬物療法とアラーム療法があるが、膀胱型には両者併用療法でなければ太刀打ちできない。
 ・・・これは実感として頷けます。

・アラーム療法のメカニズムは「起こしてトイレで排尿する」ことを目指すものではない。
 ・・・これが今ひとつわかりません。

・アラーム療法は家族の協力が必須。このため脱落例が多く(40%以上)、はじめる前に治療意欲の確認が必要。家族の誰かが患児の側に寝ていてアラームが鳴ったら児を起こす必要がある。起こし方には様々な方法があり、堀先生は「覚醒反応(寝ぼけてムニャムニャ程度)が得られればOK」、藤永先生は「起こしてトイレへ連れて行く」とのこと。

・ステップアップ法(弱い治療からはじめ、無効例には治療を強めていく)よりステップダウン法(強力な併用療法からはじめ、有効なら治療を弱めていく)の方が脱落例が少ない。


 講演を聞いて気になったこと。
 昨年聴講した帆足先生(おねしょ博士として有名)の講演会の時も感じたのですが「併用療法をしても改善なき場合は専門医へ紹介してください」とのコメントに違和感。
 東京ならそれで済むかもしれませんが、群馬県で夜尿症専門医っているんでしょうか?
 そのコメントを耳にする度に「夜尿症診療はまだまだ発展途上だなあ」と思ってしまいます。
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「学校に行けない/行かない/行きたくない」(冨田和巳著)

2012年10月11日 23時18分41秒 | 小児医療
副題:不登校は恥ではないが名誉でもない
へるす出版、2008年発行。

最近、「起立性調節障害」に関する書籍を数冊読みました。
皆口を揃えて「起立性調節障害(≒自律神経失調症)」が「不登校」の原因になり得る、本人は学校へ行きたくても体がいうことを聞かないんだ、「怠け」ではないんだ、と説いていました。

一方この本は、「不登校」を「身体疾患」として捉えるよりも「不登校」を「心身症」という視点から捉えて解説し、どう介入すべきかを論じており、私の目に新鮮に映りました。
より大きな「不登校」というくくりから起立性調節障害を含めて俯瞰するという内容であり、起立性調節障害のみを抜き出した前出書と異なります。

著者は「子どもの心の問題」を取り扱う専門医の開拓者とも云うべき人物。
漢方系の研究会にも所属され、そちらでも講演を拝聴したことがあり、興味をもって拝読しました。
30年にわたり数多くの子どもたちを診療してきた臨床経験から発せられる言葉には説得力があります。

「不登校」を扱う多くの治療者や学者が学校に行かない行為に肯定的・好意的な立場を取ることに反対し、「不登校児の心の動きには理解を示しながらも、学校に行かないのは好ましい状態ではない」という立場を取っています。
諸外国には存在しない「不登校」は戦後の教育体制が作り出した日本特有の産物と評し、母性の強い日本社会の欠点を指摘しています。

「無理だったら学校へ行かなくていいんだよ」
と子どもを保護するだけでいいんだろうか、と疑問を投げかけ、やはり適切な登校刺激をして最終目標は社会人としての自立を目指すべきだと主張し、本人のペースに任せたが為に社会参加ができなくなってしまった若者が増加してきたことに警鐘を鳴らしています。

しかし、彼の主張は現在の学会において主流ではないことを自覚しており、自分の主張を「異見」と自虐的に表現している箇所がいくつもありました。

読み進める中で、他の専門家が「不登校」診療の中心に「母性欠如」を置いているのと異なり、冨田先生は「父性」を強調しているように感じました。
最後まで読み終わると、彼の主張の全体像がわかりました。
不登校の根本的原因に「母性の問題」のみならず、「父性の欠如」を指摘しているのでした。
母性に関しては単なる欠如として片付けるのではなく、母性社会日本の特性についても言及し、奥深い考察をされています。
その土台の上に父性の欠如が乗ることにより、不登校の発生を助長しているとの「異見」。

「不登校児は自分の状態を恥じる必要はないが、自分の立場をあれこれ正当化するようなことを言ったり、したりして欲しくない」
「各自が耳に痛い言葉を聞き、現実を厳しく見つめ、自ら反省し努力する姿勢にこそ、解決の道が開かれる」
というコメントには賛成です。

「不登校」は子育てのつまずきの一つの表現形ではないでしょうか。
思春期を迎えた子どもから「まだ独り立ちできないから手伝って」と親に向けて発せられたシグナルであり、それを四苦八苦して親子でともに乗り切る試練と捉えることもできると思います。


メモ
自分自身のための備忘録。

本書の要旨と筆者の主張

①不登校は本来「経済的・病気などから明らかな理由がなく」「なぜか、行くべき学校へ行けない」神経症的状態を指していたが、現在ではこのような定義に当てはまらないものが増加すると共に、この定義にとらわれず、学校に行かない状態をすべて不登校と呼んでいる。

②現代の不登校は神経症、心身症、精神病、発達障害によるものや、いじめによるもの、何となく休むものなど「何でもあり」の状態、いわば百貨店のようで、適切に分類して考えなければ混乱する。

③不登校は現代日本社会の子どものあらゆる問題の根底にあるもので、「暦年齢に求められる社会集団」に参加できない者が増加した結果であり、「日本の文化」とも呼べる。

④個々に異なった要因が考えられるが、基本的には「自尊心の乏しさ」「認知と表現のつたなさ」からくる「対人関係障害」と捉える

⑤最近の引きこもり・ニート・フリーターなど青年期(ときに中年期)の問題の起源は、ほとんどが中学時の不登校にある。つまり、小児期の問題(不登校)を適切に予防・解決しなければ、青年期に持ち越し、やがて高齢者問題にまで及んでいくのではないかと危惧している。

⑥初期の訴えは「学校に行きたくない」ではなく、腹痛・頭痛や発熱・下痢といった身体症状で、それに対する適切な対応が重要であり、初期対応には医師は重要な役割を担う。しかし、医師は「体を診る」のが主な仕事なので、身体症状にこだわり、背後の不登校を見逃す場合が多く、診断したのちも適切に扱わないこともある(これを残念に思い本書を執筆した)。

⑦不登校は教師・臨床心理士(相談員)・医師(小児科医・精神科医)の三者が主にみるため、それぞれの立場の違いで異なった見解がもたれやすく、種々の意見が出て当然である。違いを認識して意見を聞くようにしないと混乱する。

⑧不登校が増加し世間で認知され、種々の対応が叫ばれながらも減少していないのは、学校の表面的現象を原因にする意見が多いからである。

⑨多くの不登校肯定論(ときに賞賛論)は表面的優しさに溢れているが、長い目でみると子どもの立場には立っておらず、結果的に子ども社会も不幸にしていく。

⑩ここ数年、不登校字数は数字の上では横ばいか、減少している年もあるが、総生徒数が減少しているので、基本的には今も増加している。

⑪不登校の増加について理解が行き届くと「更に増加させていく」面もある。世の中に常にある矛盾(二面性)を考えて対処しなければならない。

⑫都市部では、不登校について相談や治療に種々の方法や期間が出現している。不登校の成因は輻輳しているので、特定の考え方や手段で全てが対応できるものではなく、個々に向き不向きがある。専門家が行う心理治療(種々の技法がある)や薬物療法以外に、特殊な学校に通う、農作業をする、動物を飼うなど、多くの方法があり、ときには専門的治療よりも効果的なことがある。ただ、主宰者側の長所だけを強調した情報で選択すると、取り返しのつかない結果を招く危険性もある。選択に際しては、親子の状況に合わせて専門的視点から選ぶようにする。

⑬子どもの素因・年齢や周囲の環境は個々に異なり、また治療者側の立場も異なるので、治療や指導の教科書的・定石的方法はない。各自が基本にある者を理解し、知識と経験で自分なりに行う。

「不登校」という用語の時代的変遷
 初期には「学校恐怖(school phobia)」、次いで「登校拒否(school refusal)」と呼び、最近では「不登校(non-atteendance at school)」と呼ぶようになった。時代により社会が変わると、微妙に内容も変化することを表している。
 歴史的には「怠けて学校に行かない」子どもを「怠学(truancy)」と呼んでいたが、その後、彼らと正反対の「学校に不安や恐怖を感じて行けない」子どもが英米で気づかれはじめ、ジョンソンが1941(昭和16)年に「学校恐怖」と命名した。しかし「恐怖」以外の心理もあることが認識され「登校拒否」が登場した。ここでは具体的原因がなく、本人も「行きたい/行かなければならない」と思っているが、なぜか行けない心の状態を重視した。我が国で毎年増加していく現象は種々の論議を呼び、定義そのものも曖昧にされると共に、登校拒否が病名として使われていることへの反発も加わり、最近は「不登校」が好まれて使われるようになった。筆者は義務教育に不適応を起こしている現状に危機感を持つ名称として「学校不適応」が望ましいと考えている。

日本における不登校の現状
 1975年以来、不登校児は毎年増加し、2001年は約14万人。
 世界中で、我が国にのみ不登校が特異的に増加し続けて久しい

不登校肯定派の矛盾
 エジソンやアインシュタインなどの偉人が不登校児だったという内容の本が以前話題になった。私たち大多数の者にとっては、平凡で地味な生活がもっとも好ましいので、有名人がえらく、学校に行かないのがよいとの論理はおかしいと感じた。この本の著者は有名大学にこだわる学歴信仰は捨てるべきと論じながら、有名人がえらいとする意見に矛盾を感じていない点に違和感を覚えた。
 何よりも彼ら少数の成功者の陰に、今や百万人ともいわれる引きこもりをはじめ、不登校が続くために人生で不利を被った者や、社会に出られない者が多数いると気づかなければならない。
 現代日本社会の極端な民主主義の行き過ぎは、少数を殊更に取りあげ、それを肯定しないと良心的でないと糾弾する風潮があり、大多数の一般論が特殊な一部の意見で隠されていく。この結果、物事の本質が見逃される危険性が極めて高い。

どのような性格が不登校を起こしやすいのか
 対人関係にはある意味で少し「図太さ」が必要なので、繊細な子どもは苦痛を感じやすい。
 対人関係は融通が利く、あるいはよい意味での「いい加減さ」が必要で、それができない子どもは対人関係が拙くなり疲れる。この融通が利かない面は、些細なことを深刻に考え、からかいをいじめと受け取るような反応になり、不登校に繋がる場合も多い。
 他人の些細な反応にも過敏になり疲れて不登校になる。
 基本的には自分に自信がないからである。

思春期
 思春期は小学5年生頃から中学生の時期で、精神的には自立の時期である。自立とは、これまでの親に依存し「母性的な温かい抱き込み」状態に安住していた者が、「父性的な厳しい社会」に飛び立つ時期になる。「家庭の優しさ」から「学校の厳しい」場に行けなくなる子どもがいても不思議ではない。今までのように親に依存して「子どものままでいたい」気持ちを、一部の子どもは学校に行かないという形で表現する。
 小学校と中学校の差は母性社会と父性社会の差とも取れる面がある。
 運動会では順位をつけないで一緒にゴールに入るというような極端な結果平等(母性的)の「区別をしない小学校」から、中学校は何か特別が明らかになる。この格差が一部の子どもに不登校や荒れを引き起こしていると筆者は考える。
 ”優しい”治療者は、この「区別」を攻撃して、不登校児の側に立つが、社会に出れば区別や差は学校より大きくなるので、彼らにそれに耐える強さや克服する方法を教えていかなければならない。

自己像低下(自己像脅威論)
 親や大人の言うことをよく聞き、「大人からみてよい子」と高い評価を受けていた子どもが不登校になる場合は、以下のような心の動きがある。
 彼らは親や大人の言うことをよく守る従順な子どもだが、自律の時期(思春期)や自分だけで判断しなければならない時に、大人の助けがないと「どうしてよいかが判らなくなり」混乱し、不安になる。親の指示や判断に従ってよい子になっtので、自分一人ではよい子でいる自信がない。こうして虚像が崩れ、自分の実像を評価される学校から逃げることになる。

自尊心の乏しさ・認知のつたなさ
 自尊心があり、学校で自分の存在を肯定できれば、少々のことがあっても不登校にはならない。自尊心の基本は母親が育てる。不登校を起こしやすい「いじめ」も自尊心の問題に行き着く。
 自尊心と同じく、適切な認知力も母親が育てる。子どもが自分の生存を左右する母親を「信頼に足る」と認知するのが、社会を肯定的にみる出発点になる。

母性社会日本の家庭の問題
 世界で一番母性の働くのが日本で、母性優位の家庭がつくられ優しく情緒的・平和的な特徴がある一方で、父性の乏しさが厳しさや客観性を欠き、父親像を希薄にさせる。子どもを我が胸に抱きしめ離さない母性の強さは、そこから飛び出して厳しい社会に出るために必要な父性の弱さを生むので、子どもの社会化が遅れて不登校に繋がりかねない。我が国に不登校が多い最大の理由である。

「できちゃった婚」の功罪
 できちゃった婚は、社会的親になるための自覚や覚悟や儀式(通過儀礼)を書いている点に注意すべきである。通過儀礼を通じて親子共に成長していかねばならないのに、それが欠落しているために、動物が本能的に持つ母性や父性も発現しないことがあり、時には動物にも劣る雌雄でしかない。彼らに子どもの社会性など育てられないから、学校という小社会で子どもが困難を感じ、不登校になるのは自然の成り行きとも云える。

世界的に母親は母性が乏しくなってきている
 男女を対立的に捉えるフェミニズムイデオロギー(生物的性差は認めるが社会的性差は認めない思想)が、母性の欠落した母親を増やす作用が大きいのは、アメリカの家庭や子どもの惨状をみればすぐに判る。ただ種々の文化的要因があり、アメリカでは不登校は少なく、被虐待児・発達障害・子どものうつ病・自殺・少年凶悪事件が多くなっている。この点から考えれば、不登校の多い我が国の方が幸せとも云える。

日本は母子関係が強すぎる
 日本の母親は夫より子どもとの結びつきが強く、これが子育てに良くも悪しくも作用していく。よい面は、我が国の子どもは世界で一番かわいがられて育つので、アメリカで深刻な問題になっている被虐待児などが比較的少ない。
 しかし、父親が家庭から阻害され、父親と子どもの関係が希薄になり、その分母子関係が強くなると、子どもの自立が難しく分離不安が出現する。不登校は自立の障害・分離不安によるので、我が国で多くなって当然である。

日本の戦後教育の致命的三大欠点
1.母国の伝統・歴史・文化を断罪・蔑視・無視
 我が国では愛国心(patriotism)と国家(国粋)主義(nationalism)が混同して使われている。政府は国益を第一に考えた外交が求められるので国家主義をとらなければならないが、国民は自然に自分の国に愛国心を持つのが世界の常識で、人間の自然感情である。残念ながら我が国では、政府が戦前も戦後も冷徹な国家主義を持たないので、まともな外交ができず、戦後は愛国心を国家主義と混同して危険と叫ぶマスコミや知識人が多すぎる。
2.「教師は聖職ではなく労働者」なる宣言と実行
 教員組合がイデオロギー的に聖職を否定し「資本家(国家)から搾取される労働者である」と1951年に宣言し、「偉い人」から教わる教育の基本を崩壊させた問題も大きい。現在の、何かあればマスコミから叩かれ、親子から信用されない教師受難時代とも云える「学校や教師を尊敬しない困った風潮」は、実は教員組合自身が50年以上かけて作り上げたものなのである。
3.欧米の民主主義を絶対視する
 戦後教育の掲げる民主主義は本来、父性社会・個人主義の欧米で言われ始めたものである。「厳しく個を認めた上で、責任や義務、秩序に価値を置く」精神が、母性社会の日本に入ると「権利/自由」ばかりが強調され、秩序をなくした平等が言われ、「気に入らないと学校を休む」のが平気な社会になってしまった。

不登校は日本の文化
 基本に母性社会、勤勉な民族性、西欧発祥の民主主義の三者があり、そこから出現した物質文明の隆盛という現象が加わり、この四要因の複合が不登校を出現させ、我が国にのみ急増している。

■ 日本独自の「自然共存文化」
 日本の国土は基本生活を営むために必要な自然に恵まれ、外敵からは四面が海という強固な要塞で守られている。自然は恵みを与える一方で、台風や地震という天災ももたらした。これらが日本の民族性を造り、最大の特徴は自然共存文化となり、そこから母性社会が芽生えた。この特性が農耕民族をつくった。農耕は適当な土地があれば複数の家族が集団を造り生活するのに適しており、個人よりも調和が優先される集団主義になる。
 一方西洋では、自然は恵みを与えないが天災も少ない。これが自然征服・父性社会に向かい狩猟民族を作り上げた。狩猟は野山を駆けまわり、他人のいない、知らない場所を探して獲物を捕るので、全体の調和よりも個人の利益が優先される個人主義になる。

不登校初期の「行きしぶり」
 最初は登校に間に合う時間までに朝起きにくくなる。朝起きられない原因を起立性調節障害睡眠リズムの乱れといった身体病編に下人を求める意見もある。前者は確かに不登校とかなり結びつきが強いが、後者は不登校状態が引き起こした結果によるものである。

子どもには「学校に所属したい」という欲求がある
 子どもは最大の安心感を与える家庭に所属の欲求をもっているが、同時に学校の何年何組に所属する欲求も強く持っている。学校を休むことで失う所属の欲求を補填するために登校刺激を穏やかに与えていくのが基本的治療となる。

子どもの心を扱う医療体制
 ある精神科医は「診れば赤字になるので不登校は診ない」と正直に述べている。「全ての医師は心も診られるように」と叫ぶ割りには、我が国の医療制度は本質的には心因性疾患に何らの対応もしていないのが現状である。
 子どもに役立つ制度や人材は、長期的展望の上に立って整備していかなければならないが、政府が行う場合は、常に現場の生の声からではなく、マスコミや一般から「文句を言われないように」だけを考えて行うので「仏作って魂入れず」になってしまう。

根本的な解決が難しい場合には
 不登校の治療は親子を常識の世界に連れ戻す営みである。
 根本的問題が解決しなくても当面の問題が片付くと、不登校を脱して学校での生活を送ることにより、子どもは成長していく場合が多い。人生には解決しない問題を背負ったまま行く道もあり、実際にはその方が多い。

不登校の行く末
 引きこもり(不登校青年版)は160万人(2005年)、準引きこもりを含めると300万人以上(NHK福祉ネットワークの調査)。
 フリーター(和製英独語「フリーランス・アルバイター」の略称)は200万人強(2005年、厚労省調査)。
 ニート(NEET, Not currently engaged in Employment, Education or Training)はイギリスの内閣府社会的排除防止局が作成した調査報告書に由来する言葉。推定62万人(2005年、厚労省調査)。

子どものうつ病と不登校
 最近、子どものうつ病が増加していると一部で盛んに言われているが、筆者の臨床からは認められない現象で、新しいものを見つけたい学問の負の面と、文化差を無視したアメリカ追従思考に、製薬会社の思惑の三者が合体した困った現象と考える。
 いわゆる「落ち込んでいる」という神経症的鬱状態はあっても、内因性うつ病は我が国ではほとんどない。

心身症と不登校
 心身症は器官(臓器)がその人の気持ちを語っているので「器官言語」と呼ばれるように「学校へ行けない/行きたくない」悩みを器官(気管支・腸・皮膚・筋肉など)が病気になり表現していると考えられる。特に本人は、ストレスをあまり自覚していない失感情症の状態にあるので、本人も親も心の悩みに目が向かわず、身体に固執する。

精神病と不登校
 不登校の初期は一般に身体症状を訴える場合がほとんどであるのに、小学校高学年くらいで、「なぜか、学校へ行けない」と、当初から神経症的症状を訴える場合には、精神病の可能性も考え、子どもとの会話で何らかの違和感を持てば疑い、専門医の診療を受けるようにする。
 一方、閉じこもり・うつ状態・幻聴・幻覚など精神病を思わせる症状を訴えても、不登校状態が長引いた結果出現する場合も多い。この場合、了解できるような幻覚・幻聴(隣の人・級友が悪口を言うなど)の場合が多く、精神病による了解不可能なものと異なっている。

いじめと不登校
 学級でのいじめの始まりは、多くが「ちょっかいやいたずら」であり、加害者側には「ふざけや笑い」の要素が多い。仲間内のいたずらやふざけは、感受性の強い被害者にとっては苦しく、いじめと感じているが、教師や他の級友からは、ふざけ合っているように見えるので、適切に捉えられない。
 筆者は、いじめは加害者にも被害者にも自尊心が乏しいから出現すると考えている。自尊心のある者は、いじめのような卑劣な行為に喜びを感じなければじっこうすることはなく、仮にいじめられても自尊心があれば、適切に対応していく。

家庭内暴力と不登校
 家庭内暴力は「夫が妻に、親が子どもに加える暴力」を指すのが世界の常識であるが、我が国では逆で、子どもが親に暴力を振るう場合を指す。そのため、外国でいう家庭内暴力をわざわざDV(domestic violence)と英語で言って区別するおかしさである。このように「子どもが親に暴力を振るう」現象の多いのは我が国に特有であり、子どもを大事にしすぎる母性社会の特性が極端になり、迎合に行き着いた結果である。
 暴力は子どもの一つの表現方法であり、これまで子どもの表現を親が適切に受け止めてこず、子どもに表現能力が育たなかったのが基本的原因であり、暴力を振るう相手(多くは母親)に、子どもが強く依存していると気づかなければならない。
 小さい頃から子どもの表現に親は適切に対応してこなかった/無視してきたので、遅まきながらも「我が子の暴力なら痛くない」の覚悟をもち、真剣で揺るぎない毅然たる態度で「暴力で何を訴えているのか」を理解するように心がけ、治療者は親がそのような態度を取れるように援助する。

引きこもりと不登校
 不登校の初期に「自主性が育つのを待つ」「登校刺激を与えない」と、無為で怠惰な生活を家庭で送るのを肯定する二昔前の論が、心理・カウンセラー領域を席巻していることが引きこもりを増加させていると筆者は考える。未熟な子どものわがまま気ままを個性・自由・権利と尊重し、それぞれの年齢で備えるべき義務・責任や、守るべき秩序を教えなかった戦後教育の負の成果が根底にある。自分の思い通りにならないと我慢ができず、すぐに逃げる子どもが、暖かな母性的優しさに溢れた家庭に引きこもり、豊かな時代はそれを許し認めるので、その状態がいつまでも続き、気づけばそれが”普通”になって引きこもりになるのである。

欧米と日本の比較
 欧米に不登校も引きこもりも少ないのは、父性社会の厳しさに加え、家庭が冷たいからという推測が成り立つ。逆説的だが、不登校児や引きこもりの多い日本社会は、子どものうつ病、青少年の自殺、少年凶悪犯罪が桁違いに多いアメリカより、幸せなのは確かである。子どもが引きこもれる温かい家庭のない欧米は、子どもにとって不幸なのでは、とさえ思えてくる。

不登校の予防~強い心を育てる~
 不登校は「行けない/行かない/行きたくない」の違いがあっても、基本は「心」の歪みで出現する。少々のことに動じない、嫌いなことも我慢してできるような心を育てるのが究極の予防となる。
 不登校は「学校に行かない」行動で自分の心を表現していると考えると、この最初の表現に対応しなかった結果が、誤った表現を子どもがとる、とも解釈できる。
 学校で適切な対人関係を持てるようになるためには、母子関係がその出発点と云える。赤ちゃんの泣き声をおろそかにしてはならない。母の胸に抱かれ、哺乳する満足感・心地よさは情動(情緒)の芽生えに繋がり、「生まれてきてよかった」という自己肯定感、すなわち自信であり、自尊心に繋がっていく。これらは母子関係が親密であることから芽生え、相手を信頼する対人関係の基本となる。この信頼関係ができると、子どもは母親の存在を良いものと認知し、世界を肯定的に捉え、その後も物事をよいように見る認知力が育っていく。
 不登校は、自信がなかったり、級友や教師を信頼できなかったりすることから起こる対人関係の障害が主な原因なので、身辺の出来事を肯定的に捉えるよりも「歪んで」認知した結果と考えられる。
 学校で心の教育といったような意味不明の言葉を叫ぶより、母親による育児を軽んじるフェミニズムイデオロギーを学校教育に取り入れる愚に目を向けなければならない。

躾の重要性
 人が適切な社会性を得ていく必要条件は誕生直後から無条件にかわいがられることで、十分条件はその後の躾になる。子どもは、かわいがり、厳しく育てるという当たり前のことを、戦後教育や物の豊かな時代が焼失させた。
 昔の子育ては「お天道様がみていますよ」「そのようなことをすると『恥ずかしい』よ」が主流になっており、世界的にも日本の子どもへの躾は優れていた。しかし、義務や責任を伴わない個性・自由・権利だけを尊いものと教える戦後教育で育った親は、「自ら恥ずかしい」ことをしても平気で、子どもに教えるどころか、モンスターペアレントと呼ばれるまでになってしまった。


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「うちの子が朝起きられないにはワケがある」(森下克也著)

2012年10月11日 23時17分09秒 | 小児医療
メディカル・トリビューン、2012年発行。
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朝起きられない子ども~「起立性調節障害」の本2冊

2012年09月22日 19時25分18秒 | 小児医療
①「起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応」田中英高著、中央法規、2009年発行。

②「朝起きられない子の意外な病気」武香織著、中公新書、2012年発行。
 副題:「起立性調節障害患者家族」の体験から


 たまたま起立性調節障害(英語で Orthostatic Dysregulation、以降’OD’と略します)の本が手元に2冊あったのでまとめ読みしてみました。
 ①は日本小児心身医学会「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2005」の作成を担当した専門医による啓蒙書、②はライターでもある患者さんの母親が記した治療体験記です。

 感想を一言で云うと、
① → ふむふむ、なるほど。
② → えっ、そうなの?!

 云わんとする内容は基本的に同じなのですが立場が異なります。
 ①の著者はガイドライン作成者らしく、新しい診断方法を普及させようという意気込みを感じました。丁寧に病気を解説しようとする努力が垣間見えるのですが、どうしても言葉が硬くなりがちです。
 一方、②の患者さんの母親が書いた本は、その思いを直球勝負で投げてきます。こちらの方が読者のお腹にドスンと響き、かつ説得力がありますね。
 病気の解説とその実際、あるいは治療を提供する側と受ける側、と読み分けるとよいかもしれません。

 病気の生活指導の項目では、①で「規則正しい生活を」とは言われるけど、②では「医師にそう言われたけど、とても無理、それができれば苦労はしない」と本音がポロリ。

 それから思春期の悩みは必然的に「学校生活(とくにテスト)」「進学」とリンクしますが、その切実な悩みと解決法は患者と家族自身でないと、つまり②でしか書くことができません。学校の先生とのつきあい方、普通高校に行けない場合の選択肢など、参考になることがたくさんかかれています。中でも普通高校以外の選択肢が近年大幅に増えた状況を知り、私自身目を見張りました。

 ②の後半には、当事者家族の手記が紹介されています。せっかく病院を受診しても、医師の不十分な対応に失望した例がいくつもあり、身につまされるようでした。

 ②の最後には重症OD既往者の座談会が組まれています。とても貴重なコメントが多数ありました。
 朝つらくて学校へ行けないと親は「サボり」を疑いがち、一方子ども自身も最初のうちは「学校がイヤだから体がいうことを聞かないのかなあ」と感じ、その後の経過の中で徐々に病気を自覚するようになることを知りました。子ども自身も初期は自分の体に何が起きているのかわからないのですね。

 「ODって何なのだろう」と改めて考えさせられました。
 思春期の一過性の病気ではありますが、強敵です。
 ストレスを言語化することが下手な子どもから発せられるSOS信号、と捉えることもできそうです。
 子どもが思春期という荒波にもまれ、体力・精神力を試すために設定された試練かもしれません。虚弱系の子どもは波に飲まれてしまい、ときには座礁するケースも。
 その荒波を乗り越えるには、十分な時間と家族・周囲の強力なサポートが必要とされます。
 人間が一人前になるって大変・・・でも乗り越えたときは、本人の自信と家族の結束が強まること間違いなし。


メモ
 自分自身のための備忘録。

「起立性調節障害の子どもの正しい理解と対応」より

■ ODは思春期に発症しやすい自律神経機能不全であり、本質的には心身症なので「体」と「心」の両面からアプローチする必要があります。一般に、ODの子どもたちは、細やかな心配りができて、周囲の人達にとても気を使う性格傾向(過剰適応性格)があり、先生達にも「よくできる子」と評価されるようです。

■ 頻度は小中学生の5~10%、日本に約100万人います。女子は男子よりも2割ほど多いです。平成になってから頻度が急激に増加しました。

■ ODは適切な治療を受けないと悪化の一途を辿り、長期の不登校から引きこもり、果ては二次的にニートやフリーターを生み出す温床となる可能性があります。

■ 朝は起きられないけど、午後になると元気になって夜更かしして翌朝また起きられず学校を休みがち・・・一見「ナマケモノ」のような状態も、医学的に説明可能です。
 診断のための検査に「起立試験」というものがあります。10分間横になって安定した状態から急に立ち上がり、その前後の血圧と心拍数を経時的に記録する方法です。健常者でも一過性に血圧が低下しますが、OD患者さんでは回復が遅れます。
 そしてこの検査を午前中と午後に行うと、午前中の方がより程度が強く回復までの時間が長く、これが症状の日内変動を証明しています。

■ 朝起きられない→ 夜寝付きが悪くなる→ 夜更かしをするから朝起きられない。
 このうちどれが根本的な問題なのかまだよくわかっていません。
 ただ、ODによる朝起き不良と夜の入眠困難は「少々無理をして生活リズムを強制したら治る」といった単純なものでないことは確かです。

■ OD患者さんが精神科を受診すると「うつ病」と診断されることも希ではありません。そこで抗うつ薬を使用されると副作用で起立性低血圧が起こることもあり、かえって悪くなることもあり得ます。
 ODとうつ病を見分ける方法があります(正確には専門医の判断が必要です)。ODでは午前中~昼過ぎまで元気がなく無気力ですが、夜になるとふだんのように元気になり、バラエティー番組を観たり好きなゲームに講じて笑ったりします。一方、夜になっても活気が回復せずぐったりして、意味もなく涙を流したりイライラが強う用ならうつ病の可能性が高くなります。

■ 人間は1日25時間周期の体内時計を脳内に持っています。ODの子どもは1日27~30時間の体内時計を持っているという報告があります。すなわち、毎日、自分の体内時計を数時間も時刻修正しないといけないことになり大変です。

■ ミドドリン塩酸塩(商品名:メトリジン他)の使用法:
 交感神経α-受容体刺激薬で、動脈や静脈の血管を収縮させて血圧を上げる作用を有します。
 小学生高学年以上では朝夕1錠(1錠が2mg)ずつ服用、
 中学生では1日3錠(成人では4錠)まで服用可能。
 服薬して薬1時間ほどで徐々に血圧が上昇し、数時間ほど効果が期待できます。効き目が緩やかなので、服薬を開始して効果がわかるまで1~2週間ほどかかります。
 最近、水なしで服用できる剤型もあります(メトリジンD錠口腔内崩壊錠)。この商品は口の中で自然に溶けるので、低血圧のために朝なかなか起床できない子どもでも、寝たまま布団の中で服用できるので便利です。

■ 親・周囲のサポートの第一歩は「心の平静を保ち、時期を待つこと」。

■ 学校にして欲しい具体的なサポート;
・登校目的のために教師やクラスメートが朝迎えに行くと、かえって心理的ストレスと成り逆効果となることがあります。担任が自宅訪問する際には、子どもが元気な夕方にしましょう。
・欠席が続く場合には、欠席する日に保護者が学校に電話連絡するのではなくて、登校できる日の朝に学校へ電話連絡するように切り替えましょう。

■ いつ頃治るのか?
 中等症以上のODは慢性的に症状が続きます。病院を受診した子どもを20年後に調査した研究結果では、男子では24%、女子では49%に症状が残るようです。しかしながら皆無治療であり、多くの人は症状があっても元気に生活しているのです。
 著者の調査では、日常生活に支障のある中等症では、1年後に治る率は約50%、2~3年後は70~80%です。不登校を伴う重症例では、1年後の復学率は30%であり、短期間での復学は困難です。重症例では社会復帰に少なくとも2~3年かかると考えた方がよいでしょう。


②「朝起きられない子の意外な病気」より

■ 不登校の原因の3~4割がODだと考えられています。もし体調不良を訴えながらも病名がはっきりしない不登校の子どもがいたら、ODを疑ってみてください。保護者にも「実は、思春期の子どもがこういう病気に罹ることが多いのだけど、一度検査をしてみてはどう?」とアドバイスしてあげてください。

■ 2006年に日本小児心身医学会から「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン2005」が発行されました。ですが残念なことに、今なお「軽いうつ病」「心の問題」と診断する医者もいますし、「根性が足りない」「単なるわがまま」と決めつける教師がかなり存在するようです。
 悪いことに、ODは「夜はわりと元気になる」病気です。それゆえ、「ただ単に学校へ行きたくないだけの仮病」と捉えて、子どもの不満を「サボり」「怠け」と保護者が誤解してしまっても無理はないでしょう。
 現実には「サボってできない」のではなく「やりたいのにできない」のです本人にしてみれば、へろへろな体を引きずりながら必死な思いで登校しているのです。やりたいことをやるにも、頑張らないとできないくらいの体なんです。疲れやすいので、何かアクティブな行動を取った翌日は症状が悪化するのは仕方ないと思ってください。
 また、ODは心理状態によって症状が左右される病気です。ストレスを抱えた子どもの言葉を、何でも「うん、うん」と聞いてあげてください。決して指示や否定をしないでください。
 大事なのは、病気の早期発見と、親・教師・友人など周囲の人々の十分な理解、そして「大丈夫、焦らなくてもいいんだよ」と心の底から伝えてあげる姿勢です。

■ 人間は、朝になると交感神経活動が増えて体を活性化し、夜には副交感神経活動が高まり体を休養させるのですが、その自律神経の日内リズムがOD患者では5~6時間も後ろにずれ込んでいるため、深夜になっても交感神経の活性が下がらず、夜は体が元気になり、寝付きが悪くなるんです。よって、翌朝起きるのが益々つらくなります。

ODは体の成長期が終えた頃からよくなっていく傾向にあります。成人しても症状が残る場合もありますが、日常生活に支障のない程度に治まります。だから、焦らずにゆったりとした気持ちで、子どもの病気と向き合っていきましょう。

同じ境遇のママ友との会話より
・登校できたかできないかで一喜一憂しすぎると、登校しなくてはいけないという強いプレッシャーになるので控えてください。
・私は「学校へ行って、テストを受けてというふつうの生活を送って欲しい」と望みすぎていたのです。生まれたてのこの子を抱いた瞬間「健康であってくれさえすれば、バカでもトンマでもいい!」と願ったのは、いったいどこの誰でしょう。
・子どもは言われなくてもわかっている。でも、体が思うように動かず、うまく気持ちのコントロールもできない。だから、そこをつかれるとイライラが倍増して周囲に当たることもある。

■ 「このままいったら、死んでしまう」と思うくらい、子どもから生気が感じられず不安な日々を送っていたのです。自分に自信が持てずにいる息子は、命の灯が儚く感じ、どこかへふわりと飛んで行ってしまいそうでした。

患者達の座談会より
・はじめはただ単に、学校が嫌いだから朝つらくなるんだって思い込んでいたんだよね。
・友達とちょっともめていたときだったから、精神的なものだって決めつけて、無理して登校していたんだよ。
・お母さんもお父さんも「学校、やめたければやめてもいいんだからね。」って言ってくれたのは覚えている。すごく嬉しかった。
・この人たち(=両親)、俺の体の心配より、俺の学歴の心配をしているんだ、と感じた。でもそれって、親の価値観でしかないよね。でもこう考えて割り切るようにした・・・「親の価値観は、親のもの。仕方がない。
・母親が朝「今日も学校へ行けそうにない?」って聞いてくるんだけど、「今日も」の「も」がものすごく責めてくるんだよね。「またなの?」って感じで。学校へ行けなくなると、本当に先のことが不安になるのは俺自身十分感じているのに、追い打ちをかけられるんだ。
・学校へ行けなくなってから、家ではゲームばかりしていた。それ以外することが見つからなくて。ゲームって、次々と面が変わるでしょ? 明日はこの面をクリアするって決めることで、明日も生きられると思っていたところがある。楽しくてやっているわけじゃない、何かやっていないと「死にたい」という気持ちが噴出してくるから・・・。
・周りが受験の話一色になってからは、まったく学校へ行けなくなった。俺ってみんながふつうにこなせることが、まったくできない情けないやつなんだな・・・って思っちゃうんだよね。ただ、受験しなくても誰でも入れる通信制高校があるっていうことが心の支えだった。
・俺だって、まだ寝込むほどつらくなるときがあるよ。でも「夢」ができると、少しは強くなれるんだよね。
親には心配しすぎと放ったらかしの間くらいの姿勢でいてもらいたい。「つらいよね」とかあまり言われ過ぎるとかえって息苦しくなるし、かといって放ったらかしでも寂しくなるし。
・親には強くいて欲しい。親が参ってしまうと、子どもは逃げ場がなくなっちゃう。

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「切ってはいけません!」(石川英二著)

2012年08月26日 12時38分23秒 | 小児医療
副題「日本人が知らない包茎の真実」
新潮社、2005年発行。

題名だけ見たら、何の本?・・・副題を見て初めてわかる珍しい本です。
そう、「切ってはいけない」のは「包皮」です。
著者は泌尿器科医で、男性の陰茎・亀頭の専門家。

数年前に購入してから本棚のインテリアと化していましたが、今回出張のお供に取り出して、往復の電車の中で読んでみました。

すると、目から鱗がぽろぽろ・・・いかに現在の包茎に対する認識が誤ったのものかが理解できました。
巷では「包茎は陰茎がん・パートナーは子宮頸がんになりやすい」「包茎は不潔で感染を起こしやすい」「包茎を手術すれば早漏が治る」・・・などなど「包茎を放っておくと大変なことになりますよ」的な情報が溢れていますが、これは医学的根拠がない、マスコミが作り上げた都市伝説のようなもの。

著者は包茎を巡る問題を紀元前のギリシャ、ローマ時代にまで遡ってその歴史を紐解くと共に、宗教における割礼習慣にも言及し、「包茎はよくない」という近代の認識が生まれた背景を考察しています。
さらに最新情報として、近年(この30年)包茎の生理的意義が見直され「アメリカでは包皮再生(出生後早期に割礼された成人男性が包皮を取り戻す手術をすること!)する人が増えてきている」という話題も提供し、読者に考えてもらうというスタンスを取っています。

医学的視点では、確かに真性包茎(包皮口が狭くて反転できない)は病的であり手術対象と思われますが、仮性包茎は日常生活に支障はないので病的とは思えません。包皮は亀頭を保護しているのに、悪者にされて切られてきた歴史にはなかなか興味深いものがあります。

世界には女性に対する割礼が行われている地域・宗教もあり、人間の罪の奥深さも感じました。

親からもらった人間の体に不必要なものなどないのです。
扁桃を取る手術もありますが、あれは大きすぎるとか、感染を繰り返すとか非常に希な病的レベルの話です。

この本を読み終わって、自信を持って「男性諸君、仮性包茎は正常です。手術が必要な異常・病気ではありません。」と云えるようになりました。著者に感謝します。

★ タイムリーにこんなニュースが流れました:

独で割礼めぐり大論議 宗教的慣習「傷害」か
共同通信社 2012年8月30日

 【ベルリン共同】男児に宗教上の割礼を行うことの是非が、ドイツで大きな論議になっている。医療目的でなく性器の一部を切除するのは「傷害罪」に当たると裁判所が認定したため、割礼が宗教上の慣習のユダヤ教徒やイスラム教徒が猛反発した。「ナチス以来のユダヤ人弾圧だ」との声すら上がり、政府は割礼を罰しないための新法を制定する方針を決めた。
 問題になったのは、西部ケルンの医師が2010年11月に当時4歳の男児に行った割礼。イスラム教徒の両親の依頼だったが、手術2日後に大量出血で病院に緊急搬送された。男児は回復したが、検察当局は傷害罪で医師を起訴した。
 一審は無罪。二審は今年5月の判決で、両親の意向だったため同様に無罪としたものの「子供の体の健全性は親の権利より優先される」と指摘、宗教上の割礼でも傷害罪と見なされるとの判断を出した。
 判決内容が報じられると、ユダヤ系の病院は割礼手術を一時中止。ロシアのユダヤ教のラビ(指導者)は「ドイツのユダヤ人に未来はない」と発言し、ナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)以来の暴挙だと激しく批判した。
 ユダヤ教では、男児の割礼は「神との契約のしるし」とされる。イスラエルの主席ラビ、ヨナ・メッガー師は今月21日にベルリンで記者会見し「ユダヤ教の割礼には4千年の歴史がある」と意義を強調した。
 事態を重く見たドイツ政府は、宗教上の割礼を罪に問わないための法案作成に着手した。ただ6月下旬実施の世論調査では56%が割礼に反対と回答している。
 ドイツにはユダヤ教徒が約10万人、イスラム教徒が約400万人いるとされる。

メモ
 自分自身へのための備忘録。

根拠のない思い込み一覧
・アメリカでは、生まれてすぐにペニスの包皮を切ることが男児の将来の幸福に繋がると信じている医師が大勢いる。
・アフリカや南太平洋の島々には、包皮を切り取ることではじめて男子は一人前になるのだと考える部族が数多く暮らしている。
・韓国ではなぜか、先進国の男性は皆包皮の切除手術を受けていると信じられている。
日本では、包皮がムケたペニスは皮かぶりのペニスより上等だという理念が今も生きている

包皮手術の失敗例
・包皮を切りすぎてエレクト時に包皮が足りなくなって痛くなったりひどいと出血を伴う。
・出生時に切除手術を受けた外国人男性のペニスを診察する機会があるが、手術によって見にくい傷跡が残ったとか、包皮と亀頭の皮膚が部分的に癒着したとか、包皮の切り方が左右均等でなかったためにペニスが曲がったとか・・・外見的になんかカッコ悪いなあとしか思えない。

包皮再生(foreskin-restoration)
 アメリカやオーストラリアでは、切除された包皮を再生して「ムケたペニスを包茎にする手術」が盛んになってきている。
 包皮が再生することでペニスが本来持っていた感覚が次第によみがえってくる。以前は亀頭の皮膚が乾燥してカサカサだったけれど、包皮に覆われることでしっとりしてきたし、セックスでの喜びも以前の何倍も強くなったという。

歴史上の包皮・包茎観
・古代ギリシャやローマの人々にとっては、包皮は価値あるものだった。包皮に包まれた亀頭こそ、ペニスの正しい有り様だと考えられていた。逆に亀頭が露出しているペニスは、汚らわしいものと考えられていたらしい。
・エジプト神話では、太陽神ラーが自分でペニスを切り、したたるその血から様々な神が生まれたとされている。

宗教的理由による割礼
・ユダヤ教徒イスラム教の信者達は、現在でも割礼を続けているけれど、その根拠になっているのは『旧約聖書』の創世記17章にある、アブラハムの割礼の記述だとされている。アブラハムは神と契約を結ぶため、一族全ての男子と一緒に割礼を受けた。このときヤハウェの神は、イスラエル人と神との契約の印として、全ての男子は割礼を受けなければならぬと命じたという。これ以後、ユダヤ教を信じるイスラエルの人々は必ず割礼を受けなければならなくなったというわけ。ユダヤ教の教えでは男児は生後8日目に割礼を受けることになっている。ユダヤの流れをくむ男性達は、ダヴィデもソロモン王もイエス・キリストもみな割礼をしたんだ。
・キリスト教もユダヤ教から分かれたわけだから最初の内は割礼を行っていた。けれども使徒パウロが「肉体の割礼」よりも「こころの割礼」が重要であると主張して、割礼の廃止を訴えた。代わりにキリスト教では「洗礼」が入信の儀式として重要視されるようになった。

医学的理由による割礼・・・「包皮性悪説
 アメリカやイギリスで割礼が盛んになったのは19世紀の半ば以降のことで、宗教的な理由ではなく、医学的な理由から始まった。その最大の理由はマスターベーションの防止だった。19世紀には、それこそありとあらゆる健康障害がマスターベーションのせいにされていた。記憶力を弱めるとか、子どもの注意力が散漫になるとか、怠け癖がつくとか・・・。
 さらに、19世紀半ばにはヨーロッパでも、女性のマスターベーションを”治療”するために割礼が行われていた。もっとも敏感な陰核(クリトリス)を切りとってしまう方法で、動機となる快楽の元を取り去ってしまえばマスターベーションをしなくなるだろうと考えた。
現在ではイギリスやフランスなどでは、女児への割礼は法的処罰の対象となっている。
 もともと包皮の切除は、マスターベーションという悪癖を直す「治療法」として医学に導入されたものだった。ところがその効能がだんだんに拡大していって、頭痛、精神障害、てんかん、体の麻痺、斜視、水頭症など、あらゆる病気に効く万能療法と見なされるようになり、習慣的なけいれんや夜驚症にも効くと考えられた。
 第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけて従軍したアメリカの兵士達は、軍医から切除を強制されたという。
 正確に云うと、医学的な割礼を行っていたのは英語圏の国だけだった。具体的にはイギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド。ヨーロッパ大陸の国々では行われていない。1950年代半ばのオーストラリアでは男性の9割が幼児期に包皮手術を受けていた(現在では1割強まで低下)。
※ 現時点では、包皮の切除には医学的メリットはない、という意見が医学界の大勢を占めている。

包皮は亀頭を守っている・・・「包皮性善説
 1949年、生まれたばかりの赤ちゃんの包皮切除には医学的なメリットがないという画期的な見解がイギリスで発表された。メリットがないだけでなく、合併症を起こしたり死亡する例もあるというショッキングな報告がBMJに掲載された(題目は「包皮の運命」by ガードナー)。小児科医であるガードナーは、包皮には亀頭を保護するという重大な役割があるんだということを、ペニスの発達プロセスに則して立証した。
 この論文が出た翌年、イギリスでは新生児の包皮切除術が保険制度の対象から外され、それ以後、手術の件数は減っていって、いまでは宗教的な割礼を除けば、きわめて少なくなっているという。オーストラリアやニュージーランドでも手術を受ける男児の比率は減ってきているけれど、アメリカだけはまだまだ高い。

ペニスの発達プロセス
 包皮ができはじめるのは受胎8週頃で、ペニスの成長と歩調を合わせて包皮も成長していく。妊娠16週頃になると、包皮は先端部までペニスを丸ごと筒状に覆って、亀頭はすっかり包まれてしまう。包皮の内側の亀頭に接している部分は、亀頭の表皮とぴったりくっついているのだけれど、この接合部分の薄い細胞層は、年月が経つにつれて少しずつ壊れていって、やがて包皮と亀頭の間には小さな隙間があちこちにできはじめる。この隙間が亀頭全体に広がっていき、すると包皮と亀頭の接合面積はどんどん小さくなって、ついには包皮をクルリと反転(リトラクト)させて、亀頭を露出させることができるようになる。
 反転(リトラクト)ができるようになる時期は人によってまちまちで、3歳までに可能になる人もいれば、20歳台まで反転しない人もいる。ガードナーは5歳までに90%以上が反転可能になると主張した(自然にムケるわけではなく、あくまでも「反転可能」です)・・・最近の報告では5歳時の反転可能率は25~30%とされている。
 日本の統計(秋田の藤原記念病院の報告)では、包皮が完全に反転できるペニスの率は、 
 6ヶ月児:0% →  11~15歳:62.9%
 1990年代に「ステロイド軟膏塗布法」が登場してから真性包茎の手術件数は減少し、現在は全体の0.07%まで下がっている。

アメリカ内での動き
 1971年、アメリカ小児科学会(AAP)が新生児の包皮切除には医学的な裏付けがないという声明を発表し、アメリカにおける包皮手術は1970年代前半をピークに減り始めたが、それでも2001年時点で55.1%が割礼を行っているというデータがある。

物心がついたら包皮がなくなってることに気づいた男性のつぶやき
 あるアメリカ人男性によると、「靴下をはいたら穴が開いていて親指が飛び出してしまっていることに気づいたときの感じに似ている」とのこと。

感覚器としての包皮
 1991年、カナダのマニトバ大学のテイラーが「生まれたときに切除される部分の包皮には、多数の神経終末がある」ことを報告した。
 包皮の先端の折り返し部分から少し内側に入ったところに「リッジド・バンド」という、小さなヒダがたくさん集まったシワシワの部分があって、そこから「Meissner小体」がたくさん見つかったという。Meissner小体は触覚小体とも呼ばれていて、圧力に敏感に反応する。解剖学的な所見からすると、包皮のこの部分は指先や唇と同じような触覚を備えていることになる。さらに包皮小帯と呼ばれる部分にも神経終末が密集していて、性的な刺激に大変敏感な場所として知られている。ユダヤ式の徹底した環状切除では、残念なことに包皮小帯もほとんど切り取られてしまう。
 包皮の先端を切り取ることは、人間が本来持っていた感覚を奪うことを意味する。包皮抜きのセックスなんて、色彩のないルノワールの絵を見るようなものだと語っている人がいるほどだ。さらに包皮を失ったペニスの亀頭は、下着の中で常に布地とこすられているうちに、表皮が角質化して厚くなり、当然刺激に対しては鈍感になると考えられる。

動物の多くは包茎
 イヌをはじめ、動物の多くは成熟後も包茎状態である。包皮で亀頭を保護していると考えられている。ちなみにチンパンジーのペニスには亀頭はない(海綿体はある)。

日本人のペニス観
 少なくとも江戸時代後期には、包茎は恥と思う日本男児のペニス観ができあがっていたようだ。華岡青洲の手術の記録には、ある僧侶の包茎を治してやったところ「これでもう包茎と謗られることもない」と大喜びしたという記録がある。「皮かぶりではないから御縁組」などといった川柳からも、江戸時代には包茎が不名誉だと考えられていたことが読み取れる。

ペニスの大きさ
 『性の人類学』(吉岡郁夫・武藤浩)によると、日本人のペニスの平均腸は8.29cm(4.2~18.5cm)と記載されている。ペニスがエレクトしたときの容積膨張率は3件の調査データによると2.8、3.0、3.5倍だった。弛緩時と勃起時の長さの差は、それぞれ4.5cm、3.4cm、4.9cmだった。つまり、ふつうにしているときに包皮がだぶついているのは当たり前ということになる。
 他に、中村亮という泌尿器科医の報告(1961年)によると、引っ張って伸ばした状態(エレクトしたときのサイズに近い)では以下のように報告されている;
 12歳:5.01cm
 14歳:7.51cm
 16歳:8.63cm 
 18歳:8.96cm
 20歳:9.50cm

包茎に関する統計
 日本では、完全にムケているのは約5%、仮性包茎率は30~80%、真性包茎は約3%。
 ロサンゼルスでは仮性包茎率は75%、ニューヨークでは79%、完全にムケているのは日本と同じく約5%。
 ちなみに、英語では「仮性包茎」は「包茎」のカテゴリーに含まれていない。ところが日本語では「包茎」も「仮性包茎」も同じ「皮かぶり」というカテゴリーに分類されてしまう医学的な見地からいくと、仮性か仮性でないかというのは重要ではなくて、包皮が反転可能かどうかってことが問題になる
 
韓国の包茎事情・・・極端に高い包茎手術率と極端に低い包茎知識
 韓国では大人になってから包皮手術を受ける人がものすごく多く、若い世代では90%を超えるらしい。この習慣は1950年代以降に始まった、まだ新しい習慣。
 第二次世界大戦後にアメリカ軍が駐留するようになって文化がアメリカナイズされていく過程で、包皮切除も盛んになっていったらしい。1971年に行われた調査では5%程度だったものが、1999年の論文では約80%が切除済み(+切除希望が7%)という数字が報告されている。
 韓国の男性は「仮性包茎は恥ずかしい」というより「包皮切除を義務と考えている」らしい。思春期の頃、夏休みか冬休みを利用して行うのがふつうで、包皮切除は、ほとんと通過儀礼のように韓国男性の人生サイクルの中に組み込まれている。
 2002年のBMJ論文では「韓国では男性の包皮切除は50年ほど前に始まったに過ぎないが、いまや世界で最も手術率の高い国の一つとなっている。包皮切除に対する韓国の医師達の誤った旧弊な理解と、包茎に関する知識不足が、この異常に高い比率の主要因とみられる」とまとめている。

恥垢の存在意義
 恥垢には発がん性があるという説も一時期合ったけど、現在ではほぼ否定されている。逆に恥垢にはペニスを無菌状態に保つ働きがあると主張する人も増えてきた。動物の多くは包茎だけど、彼らは風呂に入ったりしないから恥垢はたまったままだけど、それで病気になったりはしない。ウマの恥垢を石けんで洗うとかえって病原菌が増えるという調査結果もある。

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「熱中症~日本を襲う熱波の恐怖~」(日本救急医学会編集)

2012年07月28日 17時40分04秒 | 小児医療
へるす出版、2011年発行。
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「熱中症対策マニュアル」(稲葉裕著)

2012年07月28日 17時38分57秒 | 小児医療
エクスナレッジ、2011年発行。
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「子どもに薬を飲ませる前に読む本」(山田 真 著)

2012年01月15日 14時04分14秒 | 小児医療
 講談社、2010年発行。

 子どもが風邪を引くと小児科へ行って薬をもらって一安心・・・これが平均的な日本人の親の感覚です。
 しかし、著者はこの感覚に疑問を呈します。
 「その薬、ホントに必要?」

 著者は町医者40年選手のベテラン小児科医で、長年の経験に基づいた珠玉のコメント群が詰め込まれた本です。ちょっとクセのある毛利子来氏(予防接種反対派)と共に行動している方なので話半分で読もうかと思いきや、至極まともな内容でした。西洋医学で限界を感じる分野(過敏性腸症候群など)には漢方を取り入れているのも自分のスタンスと似ていると感じました。
 ただ、あとがきにも書かれていますが「ぼくは自分が実際に経験したことについてしか書けない性格」という点が本書の魅力である一方で、短所にもなってます。一人の小児科医の経験することは自ずと限定され、それにこだわると「科学的」ではなくなってしまうのです。客観的データに基づかない判断が散見され、そこは残念でした。
(例)タミフルを含めた抗インフルエンザ薬、アトピー性皮膚炎におけるステロイドの使い方、等

 気になった箇所をメモメモ(同じ小児科医である私が得た情報と少々異なる箇所が散見されましたので、そこには灰色でボヤキが入ってます)

薬を乱用していませんか?
 薬の乱用に拍車をかけているものに乳幼児医療の無料化ということがあるのも残念なことです。いつでも気軽に医療が受けられるという日本の医療のアクセスの良さが逆に医療の受けすぎという弊害を作り出してしまったわけです。日本では病院へ行くことと薬をもらうことがほぼイコールで繋がってしまうこともあって、不必要な受診が不必要な薬を使用することに結びつくのです。
 「お薬はいりませんよ」とぼくが言うと、
 「えー、おみやげなしなの」という顔をされることがよくあるのです。
 不必要な薬を使えば弊害があります。乳幼児期に抗生物質をたくさん飲むと、後年ぜんそくなどアレルギー性の病気になる率が少し高くなるという報告もあります。

「こなぐすり」の種類について
 粉薬は正式には散剤といいます。粉末の粒子が細かいものを細粒といい、細粒よりも粒子が粗く匂いや苦味をおさえてゆっくり溶けるようにしたものは顆粒とかドライシロップとか呼ばれます。ドライシロップは水に溶けてシロップ状になります。

子どもの飲み薬の種類と使い分け
 3歳以下の子どもの場合、錠剤は咽に詰まらせてしまう危険もあるので使わないことになっています。3歳以上の子どもでも錠剤を上手く飲み込めないことが多いので、小学生になるくらいまではシロップや粉薬を使う方がよいと思います。

苦い抗生物質の飲ませ方
 薬の種類によってはジュースなどと混ぜるとかえって苦味が出てしまうこともあることを知っておいてください。
 特にある種の抗生物質では要注意です。クラリス(=クラリシッド)、ジスロマック、エリスロマイシンなどの抗生物質は、酸性飲料と呼ばれるオレンジなどの柑橘系ジュース、スポーツドリンク、乳酸菌飲料、ヨーグルトなどと混ぜると苦味が生じるので子どもは嫌がります。
 ぼくが実際に試したところでは、ここに挙げた抗生物質はウーロン茶麦茶とまぜると味が無くなって飲みやすくなりました。

熱性けいれんの頻度
 子ども100人のうち3~4人はひきつけを一度は経験すると云われますから決して珍しいものではありません。初めてひきつけを起こす年齢としては1~2歳が多いです。
 一度ひきつけた子どもがその後また高熱になったときにひきつける確率はかなり高く40%ですが、90%の子どもは一生のうちひきつける回数が2回以下です。そして6歳くらいになるとひきつけなくなるのがふつうです。5回以上ひきつける子どもも数%いますが、回数が多くても後遺症が残ったりはしません。

ひきつけ予防薬(ダイアップ坐薬)の考え方
 ひきつけを3回起こした子どもはさらに何回か起こす可能性があるので予防措置を行います。体温が37.5℃以上になったらダイアップ坐薬を肛門から挿入します。そして8時間後に38℃以上の熱があればもう一度坐薬を挿入します。これで終了です。
 それ以上使う必要がない理由は、ひきつけがふつう最初に発熱してから48時間以内に起こるからです。ダイアップ坐薬を上記の方法で2回使うと、効き目が48時間持つのです(注:メーカーの説明では24時間です・・・)
 ダイアップ坐薬を使用するか否かは保護者の選択でよく、「使わなければいけない」と考える必要はありません。
 ダイアップを使うことに医学的な意味はないのです。ひきつけが起こっても後遺症の心配はない、ただあのけいれんをもう絶対見たくないという人は使ってもいいし、ボーッとしたりふらついたりするのがいやなら使わなくてもよいのです。
 結局、ダイアップ坐薬は「またひきつけるのではないか」と不安になっているお母さんやお父さんを楽にするための薬だと考えてください。ですから「ひきつけが起こってもかまわない」と考えるお母さん、お父さんは使わなくてよいのです。
 解熱剤を使うと、熱は一旦下がっても解熱剤の効き目が切れる時間になるとまた上がりますが、この時またひきつける可能性があります。解熱剤で体温を上げ下げするより、上がりっぱなしにしておいた方がひきつけも起こりにくいと考えられるので、ひきつけやすい子にも解熱剤は使うべきではないと考えている医者が多いようです(注:医学書には「解熱剤を使っても熱性けいれんの頻度は変わらない」と書いてある方が多いのですが・・・)

腸内細菌という名の常在菌
 小腸には1mlあたり1億個の細菌細胞がひしめき合っていて、大腸には1mlあたり1000億個もの細菌細胞がいるのです。これらの腸内細菌の総重量は900gを超えます
 そしてこの膨大な細菌達は僕たちの体にとても役に立っています。
 ジェフリー・ゴードンという学者によると、人間の腸の中に常在菌がいないと腸が正常に成長しません。腸は自然の毒素や胃が分泌する強力な酸から自らを守るために、1週間から2週間に一度、腸壁を入れ替えます。成長するにつれ、新しい細胞が腸の下層から上層の方へ移動することで新しくなるのですが、この移動を促しているのは細菌が発する信号で、この信号がないと腸は正常に成長しません。
 さらに腸内細菌はビタミンを作る手助けをし、栄養素の吸収を助け、傷ついた腸細胞を修復する働きもしています。
大腸菌いろいろ
 健康な人の腸の中にふつうに存在する常在菌で、便1gの中には大腸菌が10の6乗個から10の8乗個くらい含まれています。この大腸菌は腸の中にいる間は無害だけれど、腸以外の場所、例えば胆道、尿路(尿道、膀胱など)、呼吸器などに入り込んでしまうと病気を引き起こすと云われてきました。
 しかし最近では、ふつうの大腸菌は腸以外の場所に入り込んでも病気は起こさず、病原因子と呼ばれる特別な構造を持った大腸菌だけが病気を起こすと云われています。
 また、それとは別に、腸の中でも病気を起こす病原性大腸菌と呼ばれる特殊なものも存在し、有名な出血性大腸菌もその一つです。

抗生物質を飲むと下痢するわけ
 ヒトの腸の中には無数の常在菌と呼ばれる細菌(腸内細菌)が存在しています。この中でビフィズス菌、酪酸菌、乳酸菌などは腸の調子を整え、消化を助けてくれています。
 ところが抗生物質を飲むと、腸へ到達した抗生物質が腸内の「良い常在菌」の一部を殺してしまいます。常在菌が減ると腸の調子を整える力が低下しますし、常在菌が十分存在する間は腸内に入り込めなかった病原菌が、常在菌が減ったのをチャンスばかりに入り込み、その結果として下痢が起こるのです。

健康な子どものノドにも細菌はいる
溶連菌
 健康な人100人のノドを調べたら5人くらいの人に溶連菌がいたという報告、いや20人の人に溶連菌がいたという報告があります。溶連菌は多くの場合、のどにくっついても病気を起こさないのですが、たまに病気を起こすことがあって、それは咽頭炎、扁桃炎という形になります。
肺炎球菌
 肺炎の原因になる菌ですが、もともと健康な人の鼻とノドにいることが多い常在菌です。幼児では25~50%と高率にいます。ウイルス性の風邪を引いて抵抗力が落ちているようなときにこの菌が増えると、肺炎になることもあるのです。

インフルエンザはウイルス?それとも細菌?
 実は両方存在します。
 冬に流行するインフルエンザはウイルス、乳幼児に接種するヒブワクチンのターゲットはインフルエンザ菌です。
 ややこしいですね。
 最初、インフルエンザの患者さんからこの菌が見つかったので、これがインフルエンザの原因だろうということになってインフルエンザ菌と名付けられました。
 しかしその後、インフルエンザはインフルエンザウイルスによって起こることが分かり、インフルエンザに罹っている人にインフルエンザ菌が二重に感染することがあるということもわかりました。
 その時点でこの菌の名前を別の名前に変えればよかったのですが、なぜかそのままになって今に至るものですから混乱を招くわけです。

抗生物質長期内服の危険性
 メイアクト、フロモックスなど、第3世代セファロスポリン系と呼ばれる抗生物質を長期に使うと低血糖(血液中の糖分の量が異常に低下すること)を起こすことが報告されています。
 中耳炎になってメイアクトを34日間、フロモックスを19日間飲み続けた1歳児が低血糖になりけいれんを起こした例、のどかぜでフロモックスとメイアクトを50日間飲んだ1歳児が低血糖となりやはりけいれんを起こした例などがあります。
 強力な抗生物質を長期間飲むということの危険性が広く認識される必要があると思います。

 医者の側としては、細菌感染症の患者さんに出会ったらまず原因になっている細菌は何かということを考え、最初に「その細菌には効くがその他の細菌には効果が弱い」といった抗生物質を使うようにして、広範囲に効く抗生物質は他の抗生物質が効かないときの2番手として使うことにするべきでしょう。
 また患者さんの側としては「なるべくよく効く強い抗生物質をください」というふうに医者に求めないことが必要だと思います。
 乳幼児期にたくさん抗生物質を飲むと、将来アレルギー性の病気に罹りやすくなるという事実も報告されています。抗生物質信仰をみんなで改めていくことが大事ですね。

とびひ(伝染性膿痂疹)の治療の変遷
 以前は塗り薬としてはゲンタシン軟膏、飲み薬としてはセファロスポリン系の抗生物質が多く使われていました。しかしMRSA等の耐性菌の増加によりこの組み合わせでは治りにくくなってしまいました。
 最近は塗り薬ならアクアチム軟膏、飲み薬はホスミシンが用いられる傾向があります。
 耐性菌対策としては、軽症例ではまず塗り薬だけで治療し、よくならないときに飲み薬を使おうという方法が勧められています。

中耳炎は抗生物質なしでも治る?
 急性中耳炎の自然治癒率は約80%と高いことが分かってから、欧米では「高熱があって痛みが強い」急性中耳炎でも3日間は抗生物質を使わずに自然経過を見るというのがふつうになって。きていますそして4日目になって軽快してくる様子が見えなければはじめて抗生物質を使うのです。

突発性発疹は2回罹ることがある
 突発性発疹はウイルス感染症であり、その原因はヒトヘルペスウイルス6型(発見されたのは1986年と比較的最近のこと)とヒトヘルペスウイルス7型の2種類が知られています。
 実際、突発性発疹に2回罹る子どもがいます。そのような例では、1回目の方が2回目より高熱のことが多く、この場合、1回目がヒトヘルペスウイルス6型によるもので、2回目がヒトヘルペスウイルス7型に夜ものだろうと考えられています。
 6型も7型も乳幼児期に感染した後、ずっと体の中に残っているようで、乳児が突発性発疹に罹るのは周りの大人が時々ヒトヘルペスウイルス6型、7型を外に出すため、そこから感染するらしいのです。

タミフルは危険、抗インフルエンザは必要ない?
 ・・・と著者は記していますが、その根拠は著者の経験のみであり、科学的データの基づいたものでないのが残念です。
 例えば「タミフルやリレンザが登場する以前、何十年もの間、ぼくは毎年冬にはインフルエンザの患者さんを多数診察してきましたが、重症になった人はほとんどいませんでした。インフルエンザ自体、恐い病気とは思いません」という記述があります。
 インフルエンザ脳症で目の前の患者さんが為す術亡くなっていくという経験をした私にとっては受け入れがたいコメントです。


下痢止めの種類
 塩酸ロペラミド(商品名:ロペミン)は下痢止めとしてもっともよく使われるものですが、2歳未満の子どもに対しては「原則禁忌」(よほどの場合を除いて使ってはならない)ということになっているくらい強い薬ですから、子どものウイルス性胃腸炎や細菌による食中毒の場合の下痢には使うべきではありません。
 抗コリン薬と呼ばれる下痢止めがあります。ロートエキス硫酸アトロピンなどがその仲間ですが、昔は良く使われたけれど最近はあまり使われなくなりました。
 天然ケイ酸アルミニウム(商品名:アドソルビン)は吸着薬と呼ばれ、これは腸を刺激するような有害物質や過剰な水分を吸着して腸の動きを抑える薬です。短期間使うなら副作用の少ない薬と云えます。

 ・・・私は子どもの下痢の治療に整腸剤とアドソルビンを組み合わせて使用しており、著者の意見に賛成です。それでも治りが悪いときは漢方薬を併用しています。

経口補水液(ソリタ-T顆粒、OS-1等)の飲ませ方
 経口補水液を飲ませる場合、液体であっても一気にぐいぐい飲むと吐きますから、おちょこに1杯ぐらいの少量を1回分としてほんの少しずつ与えます。ストローを使える年齢ならストローで少しずつ吸わせます。
 吐き続けているときでも少量ずつの水分補給は行います。5~6時間もすれば吐くのも自然に治まってくるのがふつうですから、薬は必要ではありません。


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「チックをする子にはわけがある」

2010年01月14日 11時15分09秒 | 小児医療
NPO法人日本トゥレット協会 編、大月書店(2003年)

小児科で診療をしていると、時々チックの相談を受けます。
軽いものは環境整備を指導して様子を見ていると治まってくることが多いのですが、声を出す音声チックや複雑な動きが組み合わさるトゥレット症候群は専門医を受診するよう誘導しています。

今回、一般小児科医である私ができることはないかと以前購入したこの本を読んでみました。
著者は複数で、専門の医師から患者さんまで分担して執筆されています。
トゥレット症候群の現況を知るには偏りがなく適切な本だと感じました。

内容は、病気の一般的説明の他、経験談、専門家からの解説が順番に並んでいます。
経験談では、患者さんを抱える家族の大変さがつらくなるほど伝わってきました。
専門医の解説では、私自身の知識がいかに少なかったかを反省させられました。
特に、その病態をドーパミンとセロトニンのアンバランスで説明できることは目から鱗が落ちる思いでした。
待てよ・・・ドーパミンとセロトニン・・・この2つの物質で思い出される専門家の名前があります。
それは瀬川昌也先生。
と、思ったら、なんとこの箇所はその瀬川先生の執筆でした。
私は以前、小児神経学会へ数回参加した経験がありますが、彼はその学会の重鎮です。
先輩から聞いた話では「水戸黄門のような存在」だそうです。

治療について。
単純なチックは様子観察でよいことは頷けます。
トゥレット症候群では薬物治療を行う必要ができてますが、従来使用されてきたハロペリドールは両刃の剣で、使うタイミング・年齢を間違えると長期的に見てマイナスにもなり得ることを知りました。
そのさじ加減は、やはり専門医の診療が必要であることを痛感しました。

印象に残ったところをメモ書きしておきます;

■ 定義
1.単純チック(単純運動チック、単純音声チック)
 不随意的、突発的、急速、反復性、非律動的、常同的に起こる運動、または発声
2.複雑チック(複雑運動チック、複雑音声チック)
 比較的緩徐な、合目的的動作、または短い有意味語、短文、卑猥な言葉、動作

【分類】
・一過性チック障害:持続期間4週以上1年未満
・慢性運動性チック障害:持続期間1年以上
・慢性音声チック障害:持続期間1年以上
・トゥレット症候群:(運動チック+音声チック)持続期間1年以上、汚言症(コプロラリア)の頻度は1/3以下

■ 原因・病態
 本来必要である脳のドーパミン神経系活性の早期低下とそれに続発したと考えられるドーパミン受容体の過剰活動

■ 疫学
・頻度:学童期に約5%の子どもが体験する(トゥレット症候群は1万人に4-5人)
・発症年齢:2~13歳(平均6~7歳)
・性差:男児に多い(男:女=3:1)

■ 症状
 発症が年齢に依存することが特徴:単純チックは年少時から、複雑チックは年長になり発症する傾向がある
 知能指数は大部分正常

・単純チック:幼児期はじめに出現
  運動チック:(肩から上)まばたき、顔しかめ、首振り、肩すくめ
  発声チック:咳、咳払い、うなり、鼻鳴らし、発声
・複雑チック:多くは10歳以降
  運動チック:(手足、全身)顔面、打つ、叩く、跳ぶ、触る、臭いをかぐ、反響動作
  発声チック:単語、文節、汚言、同語反復、反響言語

<症状の特徴>
・リラックスした際に出現、ストレスや精神的緊張時に増強。集中により減弱。
(例)不安や精神的緊張があるときに増強、何かを夢中になってやっているとき、学校で勉強に集中しているときには減少し、気楽にテレビを見ているときには出現しやすくなる、等。
・その発言は抵抗しがたいが、しかし自分の意志で短時間出現を止めることも可能。
・チックが起こる部位にムズムズ感のような感覚の異常が起こることも少なくない。また、動かしたい、声を出したいという衝動、それらをせねばならないという強迫観念が先行することもある。

【併発症】
・AD/HD(注意欠陥/多動性障害):年少児に目立つ
・OCD(強迫性障害):年長児以降に目立つ
・LD(学習障害)
・睡眠覚醒リズム障害:睡眠位相後退現象を示し、夜寝る時間・朝起きる時間が日に日に遅くなり、昼夜逆転を起こすこともある

<一般身体症状および臨床神経学的症状>
① キラキラ星の手の動きが上手にできない(交互変換運動の障害):スポーツの際、野球のピッチャーではコントロールが定まらず、サッカーではPKのコントロールが上手くできない
② 筋緊張異常(猫背、側湾など):背骨の両側にある筋肉の緊張に左右差があるため
③ 閉眼足踏みでは上肢の振りに乏しい
・・・①と②の原因は「大脳基底核の異常」、③の原因はセロトニンあるいはノルアドレナリン神経系の異常。セロトニンとノルアドレナリン神経系は重力に抵抗する菌の緊張と歩行運動の制御に関係している。

■ 診断
 ミオクローヌス、バリスム、溶連菌感染による自己免疫性神経精神障害(PANDAS)との鑑別が必要

■ 治療
 専門家の間でも方針に差があり確立しているとは言い難い。

1.薬物療法
 ドーパミンが足りないがために悪循環となっている病態に蓋をするのが①、本来の循環に戻すのが②の薬ですが・・・

① ドーパミンD2受容体阻害剤(ハロペリドールやピモジド):
 効果は必ずしも一定していない、またその作用がドーパミン神経系の活性を抑制することから、副作用としての大脳基底核の機能障害を増悪させる可能性がある。ドーパミン神経系は10歳代半ばまでの発達過程に於いて大脳の発達に重要な役割りを持つため。思春期以降は問題なし。

② l-Dopa(エル-ドーパ):
 病態の肝である「ドーパミンが足りない状態」を補充する根本療法薬。極めて少量(治療量の40分の1)を使用。しかし、ドーパミン受容体が過敏になっているためチックが増悪する可能性がある。

2.カウンセリング
 環境整備によりチックは軽減するが、後に対人関係障害やOCDほか、常同行動面の障害の発言に繋がる可能性もある。
 「やさしく扱う」ことによりチックは減るが、長期的に見ると社会性が育たないのでよいことなのか悩ましい。

3.併発症の治療
・OCD:原因であるセロトニン神経系活性低下を改善させる→ 日中に覚醒レベルを上げる「日光浴」「上下肢協調運動(歩行、ランニング)」、薬物療法ではセロトニン再取り込み阻害剤(SRI)

■ 予後(長期経過)
・トゥレット症候群:通常6歳頃発症、その後チックはその程度と種類を増し、複雑チックも加わり、10歳代前半にそのピークを迎える。チック症状はその後も持続する場合も少なくないが、概して10歳代後半になると軽減または消失する。進行性の病気ではなく、予後は当初考えられていたより良い。しかし、初期治療・対応が不適切であると10歳代後半以降にもチック症状が残ることも少なくない。


書けば書くほどよくわからなくなってきますが・・・ポイントは「大脳基底核」「ドーパミン神経系」の理解だと気づきました。まとめとして以下の文章を引用します;

 子どもの脳ではドーパミン神経系とセロトニン神経系は、共にそれがコントロールする神経系を発達させる役割を持っている。したがって、乳幼児の脳ではその活性は成人より高く、ドーパミン神経系は成人の6倍以上の活性を有する。この活性は10歳までに急速に低下、15歳までかなりの速さで低下するが、その後の低下はゆっくりとなり、20歳代前半で成人のレベルに達する。
 チック症ではこのドーパミン神経系の年齢変化が健常児より早期(約3年)に進むため、幼少時期で脳を発達させるために必要なドーパミンの量が足りない状態にある(健常者の30~40%)。これが運動系および非運動系大脳基底核の機能的発達を変調させ、大脳基底核が子どもの行動の上に重要な役割をする6歳前後に、その機能的発達の障害をもたらし、運動系では巧緻運動障害、筋緊張亢進を発症、非運動機能の異常は対人関係障害を主体とした異常を発現する。しかし、非運動系大脳基底核の機能の異常は、受容体の過剰出現により大脳基底核の発達に必要なドーパミンが取り込まれたことで軽減される(あるいはその発現が抑えられる)。だが、受容体の過剰発現はチックの出現に繋がる。チックはドーパミン神経系の発達過程に従い10歳前後までは増悪するが、年齢によるドーパミン神経系の活性低下が少なくなる思春期以後は、軽減また巧緻運動障害も軽減する。
 単純チックは、ドーパミン神経系の減少が1年程度早くなった状態と考えることができる。生体にとって1年のずれは補正可能であり、治療を要しない。

 つまりチックの出現は、ドーパミンの活性が足りない状態で幼児期に動かしておくべき非運動系大脳基底核・支障サーキットを駆動させるための脳の防御反応であり、これが「チックをするわけ」である。
 根本的治療は足りないドーパミンの補充につきる。

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「発達障害の子どもたち」

2009年12月13日 21時17分49秒 | 小児医療
杉山登志諸著、講談社(2007年発行)
しばらく前に「虐待という第四の発達障害」という本を紹介しましたが、今回は第四以外の第1~3の発達障害を扱った本です。
著者は「発達障害に関する誤解と偏見を減らすために書いた」とあとがきに記しています。
小児科専門医である私が読んでも役に立つ内容ですし、一般読者にもわかりやすい優れた啓蒙書だと思います。

■ 発達障害に関する13の偏見;
① 発達障害は一生治らないし、治療方法はない。
② 発達障害児も普通の教育を受ける方が幸福であり、また発達にも良い影響がある。
③ 通常学級から特殊学級(特別支援教室)に変わることはできるが、その逆はできない。
④ 養護学校(特別支援学校)に一度入れば、通常学校には戻れない。
⑤ 通常学級の中で周りの子ども達から助けられながら生活することは、本人にも良い影響がある。
⑥ 発達障害児が不登校になったときは一般の不登校と同じに扱い登校刺激はしない方がよい。
⑦ 養護学校卒業というキャリアは、就労に際しては著しく不利に働く。
⑧ 通常の高校や大学に進学ができれば成人後の社会生活はより良好になる。
⑨ 発達障害は病気だから、医療機関に行かないと治療はできない。
⑩ 病院へ行き、言語療法、作業療法などを受けることは発達を非常に促進する。
⑪ なるべく早く集団に入れて普通の子どもに接する方がよく発達する。
⑫ 偏食で死ぬ人はいないから偏食は特に矯正をしなくて良い。
⑬ 幼児期から子どもの自主性を重んじることが子どもの発達をより促進する。

 以上の項目の是非は如何に?
 著者によると、上記事項はすべて誤った見解であり、それをかみ砕いて解説したのがこの本の内容です。答えの一部を抜き出しました;

① 医療機関での診断がなされなくとも、「良い生活を送る」ことこそ、健常児にとっても発達障害を抱える子どもにも必要なことであり、すぐに取りかかることができる。
② 「参加できる授業」を用意するのが基本である。あなたが、自分が参加しようとしても半分以上は理解できない学習の場にじっと居ることを求められたとしたらどのようになるだろう。自尊感情が傷つけられてしまうに違いない。
(例)理解できない外国語のみによって話し合いが進行している会議に、45分間じっと着席して、時に発言を求められて困惑すると云った状況が、一日数時間、毎日続く・・・あなたは耐えられますか?
③ 多くの親は、また学校の教師も安易に「通常学級でやってみてダメなら特殊に移せばよい」と言う。このアイディアに私は賛成できない。ダメだったときは自己尊厳を著しく傷つけてしまい、子どもの心はボロボロになっているからである。
⑤ 良い影響があるのは、実は本人以外のクラスの同級生であり、発達障害の子ども自身にとっては何らメリットがない。
⑥ 広汎性発達障害のグループの不登校に対しては登校刺激を行わないという一般的な対応は完全な誤りである。対応を誤ればその一部が「引きこもり」の高リスク要因となる。
⑦⑧ 広汎性発達障害では、小学生のうちに診断を受けた者の方が成人した後の適応がよく、良好な転帰の割合が最も高いのは「養護学校卒業者」であった。
⑩ これらの医療モデルの治療は「習い事」「稽古事」と同じである。
⑪ 他の子どもの良い行動を積極的に取り入れるようになったときのみ有効である。そのレベルに達していないときは効果が期待できないばかりか逆効果(真似て欲しくない行動を取り入れ、真似て欲しい行動は無視する)となってしまう。
⑫ 比較的重度の発達の問題になる可能性がある場合には誤りである。
⑬ 最悪の対応は「放置」である。しばしば自主性の名の下に発達の凹凸を強烈に持つ子どもが放置されている状況を目にする機会があり、自由保育の大きな弊害である。

 他にも気になった部分を抜粋します;

■ 知能検査法解説:
 知能検査にはビネー系とウェクスラー系という二つの標準化された知能検査法がある。
【ビネー】知能検査によって示された精神年齢を算出し、それを暦年令で割ることによって知能指数を計算する。
【ウェクスラー】言語を用いた知能検査と言語を用いない知能検査(動作性と呼ぶ)に分かれ、それぞれはさらに、知能を支える様々な能力、知識のレベル、視覚的認知の正確さ、常識の有無、記憶の正確さなどなどの項目に分けて計ることができるしくみになっている。
 一般的にIQ85以上を正常知能とし、IQ69以下を知的な遅れありとする。IQ70~84は境界知能と呼ぶ。
 知能検査の値は絶対ではない。その時のコンディションでプラスマイナス15くらいは変動してしまう。

■ 動物学者ポルトマンによる高等動物の分類:離巣性と就巣性
【離巣性】生まれた直後にすでに五感の機能と運動機能がある程度備わっており、移動が可能である動物。
 (例)馬、牛など。
【就巣性】生まれた直後には五感の働きも運動能力もなく、巣の中で親の濃密な世話を必要とする動物。
 (例)猫、犬など。
 ヒトが属する猿類は、分類上実は「離巣性」となっている(サルは母親にしがみついて移動可能)。しかしヒトは究極の就巣性とも云える存在である。独歩まで1年、親の世話が必要なくなるまでなんと20年!(それ以上?)

■ 家族とは子育てのための単位である:
 ヒトと鳥類は一夫一婦制という点で共通している。非常に未熟な子どもを抱えての子育ては、夫婦の共同作業を要求するのである。つまり家族とは、本来子育てのための単位である。
 特に生後3年間は、できるだけ親は子どもの側にいて欲しいと思う。筆者としては女性の自立は必然でもありまた必要でもあると思うが、誰かが子育てを担わなくては被害を受けるのは子どもの側であり、それは社会全体に十数年後に跳ね返ってくる。

■ PTSD(外傷後ストレス障害)
 心理的外傷(トラウマ)を負った後、数ヶ月経ても不眠やフラッシュバックなどの精神科的異常が生じる病態。
 この疾患において、脳の中の扁桃体や海馬という想起記憶の中枢と考えられている部位に萎縮や機能障害など、明確な器質的な脳の変化が認められることが明らかになった。
 しかしその後の研究により、強いトラウマ反応を生じる個人は、もともと扁桃体が小さいらしいことが明らかになった。
 そして「小さい扁桃体」が作られる原因は被虐待体験らしいということが現在有力な説となっている。つまり先に慢性のトラウマに晒されて小さい扁桃体の固体が生じ、その固体が成長した後、トラウマに晒されたときにPTSDという精神科疾患を高頻度で生じるというのが結論である(現在のところ)。

■ 自閉症
<ウィングの三徴>
1.社会性の障害
・「逆転バイバイ」:ふつう乳児期後半からバイバイの真似をして手を振るようになるが、自閉症児は手のひらを自分の方に向けてバイバイする。
2.コミュニケーションの障害
・自閉症児の言葉の遅れとは単なる遅れではなく、自閉症の社会性の障害の上に、言葉が発達した形を取っている。
3.想像力の障害とそれに基づく行動の障害(こだわり行動)
・ごっこ遊び・見立て遊びが苦手である。

それ以外に、知覚過敏性、多動、学習障害、不器用など、広い発達の領域に一度に障害を生じるので「広汎性発達障害」と呼ばれている。また、自閉症には最重度の知的障害を持つものから、全くの正常知能のものまでいる。
近年の脳科学の研究により、その病態は「セロトニン系の神経の機能不全とドーパミン系の機能亢進」であることが報告され、治療薬としての選択的セロトニン再取り込み阻害剤(つまりセロトニン系の神経を賦活させる)と抗精神病薬(ドーパミン経神経を抑制)の理論的根拠が示された。

ふつうの子どもは、既に生後2ヶ月にはヒトの出す情報と機械音とを識別しているが、自閉症児ではこの選択性が働かず、お母さんの声も機会から出る雑音も同じように聞こえてしまう。いわば情報の洪水の中で立ち往生している状態である。

自閉症の認知の特徴「視覚で考えるヒト」;大まかで曖昧な認知がとても苦手で、細かいところに焦点が当たってしまう傾向がある。抽象的な概念はすべて視覚的なイメージに転換しなくては理解ができず、逆に視覚的イメージであれば、さまざまな操作も可能であるようだ。


■ 高機能自閉症・アスペルガー症候群
(・・・多くの複雑な、そして重要な問題を含んでいるので要約不可能です。興味のある方はこの本を購入してお読みください。)
 結論だけ記します;
 国際医学雑誌に掲載されたアスペルガー症候群による殺人の報告は3例に過ぎず、毎年のように生じている現在の日本の状況は異常である。この事実は、日本においてこのグループへの医療的、教育的対応が立ち後れていることを何よりも象徴しているものと思われる。
 早期に診断が可能となるシステムを構築し、虐待やいじめなどの迫害体験から児童を守り、現在の適応を良好に保つことで、このグループの触法行為は予防が可能であるのだから。

■ 自閉症グループの治療:「早期発見による早期療育」
・幼児期:集団行動の練習と養育者との愛着形成促進
・学童期:非社会的な行動の是正と学習の補助、いじめからの保護
・青年期:自己同一性の混乱に対する対応、対人的な社会性の獲得、職業訓練など

■ 注意欠陥多動性障害(ADHD)
・「多動」「不注意」「衝動性」の3つを特徴とする疾患である。それ以外に「不器用」なことが多い、知的能力に比べて「学力の遅れ」が生じることが多いことなどが主な症状である。また成長するとしばしば一緒に認められることに、情緒的なこじれ(反抗挑戦性障害など)がある。
・日本における子どもの罹患率は3~5%。
・その病態はドーパミン系およびノルアドレナリン系神経機能の失調であることがわかってきた。治療に用いられるメチルフェニデート(商品名『リタリン』、徐放錠として『コンサータ』)はこれらの神経経路を賦活する薬剤である。
・多動そのものは9歳前後に消失する。その後も不注意は持続するが、適応障害に結びつくほどの行動の問題はこのあたりから急速に改善することが多い。また不器用も一般的に10歳を越えた頃から急速に良くなる。
・ADHDの小学校時代の治療は「低学年でのハンディキャップをいかに減らすか」が焦点となる。環境調整としては、学習に際して周囲の刺激を減らし、注意散漫を治める工夫を行うこと、叱責をなるべく減らし情緒的な不安を減らすことが大切である。両親や教師など子どもを取り巻く周囲の人間がADHD児に対して「おだてまくる」覚悟が必要である。
・著者のリタリン使用法;「覚醒剤」の一種であるため使用に際しては注意が必要である。学校にいる間だけ効けばよいと割り切って、土日祝日は休薬とし、夏休みなどの長期休暇も登校日以外は休薬としている。思春期に入る前に離脱するようにしている。小学校中学年以降、多動が軽減した段階でテストなどの行事の日のみの頓服服用に切り替え、中学校年齢になれば中止する。青年期以後には原則として用いていない。

 
(・・・たいへん勉強になりましたが、1回読んだだけでは理解しきれません。今後何度も読み返すことになりそうです。)
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