小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「近視との戦い〜“大流行”は止められるのか〜」

2018年08月01日 15時10分26秒 | 小児医療
「近視との闘い ~“大流行”は止められるか~」
初回放送:2018年6月5日(火)午前0時00分~
再放送:2018年7月31日(火)午後5時00分~

内容紹介
 アジアを筆頭に、欧米さらに途上国の現代っ子のあいだで爆発的に増える文明型疾患=近視。その原因となる遺伝子や生活環境などを探り、最新の知見と予防・治療法を紹介する。
 2050年までに5億人が視力を失うと警告する科学者がいる。若者の8割以上が近視の中国では、目を机に近づけないように姿勢を矯正するバーを教室に導入。近視の原因となる遺伝子は100種類以上あるとわかり、特定は困難とされているが、戸外で過ごす時間が長い子どもは近視になりにくいという意外な調査結果も注目を集める。瞳孔を開かせるアトロピン目薬が人気のシンガポールなど、各国での試行錯誤の例も数多く紹介する。

原題:The Myopia Boom
制作:ARTE France / Scientifilms(フランス 2017年)




 近視は感染症ではないので「流行」という表現は適当ではありませんが、でも爆発的に増えていることは確かです。
 その原因は何なのでしょう?

 まず遺伝子が注目されました。
 しかし、候補遺伝子は100以上発見されたものの、それだけでは説明できません。
 短期間の間に人類の遺伝子が世界レベルで変異することはあり得ないからです。

 「目の近くで近くで本やマンガを読んだり、テレビを見たりしてはいけません!」と小さい頃から言われ続けていました。
 現在ではパソコンやスマホもそうですね。
 でも、解決には至っておらず、近視は増え続けています。

 アメリカの研究者が、子どもたちの視力と生活環境を10年間にわたりフォローしました。
 当時悪化因子と考えられていた「近くでモノを見る」ことを証明しようとしたのです。
 しかし、その行為の多い少ないで近視の発生率に差は出ませんでした。

 唯一、有意差が出たのが「外でどのくらいの時間を過ごすか?」という質問項目です。
 1日2時間以上、屋外で過ごす子どもは、近視の発生が明らかに少なかったのです。

 その後の研究で、波長の短い紫の光が近視予防によいことがわかりました。
 「網膜に十分な光を当てることにより、視機能が正常に発達する」という単純明快な答。
 「近くを見る作業が悪い」のではなく、「暗い室内で過ごすのが悪い」だったのですね。
 台湾では、この医学論文を読んだ医師が「外で過ごそう」運動を始め、実際に効果が出て現在は国レベルの対策となり、台湾では近視の子どもが漸減してきているそうです。

 外で過ごす分には、タブレットやスマホを使っても問題ないとのこと。

 しかし残念なことに、一旦近視になってしまうと、外で多くの時間を過ごすよう努めてもその進行は止まらないそうです。
 そこで登場するのが医療行為。
 角膜の屈折率を調節して焦点を網膜に合うようにする手術は短時間で済みますが、費用が数十万円と高い。
 近年注目されているのが低濃度アトロピン点眼薬です。
 これから国際的に広がることが期待されます。

 以上、目から鱗が落ちた内容でした。

 
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