昔からこの話題が繰り返し議論されてきました。
このブログでも何回か取りあげた記憶があります。
近年、リスク回避のため小児科医は鼻水止めを処方しなくなってきています。
しかし厚労省が処方禁止にしているわけではありません。
小児科医が一番多く処方している「ペリアクチン(=シプロヘプタジン)」の添付文書には以下のように記載されています(下線は私が引きました);
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.7.2 乳児又は幼児
年齢及び体重を十分考慮し、用量を調節するなど慎重に投与する こと。過量投与により副作用が強くあらわれるおそれがある。抗 ヒスタミン剤の過量投与により、特に乳・幼児において、幻覚、 中枢神経抑制、痙攣、呼吸停止、心停止を起こし、死に至ること がある。
11. 副作用
11.1.2 痙攣(頻度不明)
13. 過量投与
中枢神経症状、アトロピン様症状、消化器症状があらわれるおそ れがある。特に乳・幼児では中枢神経症状があらわれるおそれが あるので注意すること。なお、処置として中枢興奮剤は使用しな いこと。
以上より読み取れることは、
「ペリアクチンは過量投与で痙攣を含めた中枢神経症状が出る可能性がある」
のみです。
ふつうに処方されたペリアクチンを飲んでも危険はないということ。
ではなぜ小児科医が処方を控える傾向があるのか?
答えは「なんとなく恐いから」「触らぬ神にたたりなし」というレベルなのでしょうか。
それを扱った記事を紹介します;
▢ 乳幼児への抗ヒスタミン薬使用と熱性痙攣
(2015.1.3:日本医事新報社)より一部抜粋(下線は私が引きました);
Q. 熱性痙攣の閾値が下がるとの理由で,乳幼児への抗ヒスタミン薬(特に第一世代)の投与を控える傾向がある。乳幼児への抗ヒスタミン薬使用と熱性痙攣の関連について。また発熱性疾患以外(皮膚疾患やアレルギー疾患)でも控えたほうがいいのか。可能であれば推奨薬,非推奨薬についても。
A. 抗ヒスタミン薬は,局所のH1受容体と結合する作用により鼻汁や㿋痒を抑制させる目的で小児アレルギー疾患において汎用されるが・・・熱性痙攣誘発の可能性が高い。
発熱で救急外来を受診した小児(平均年齢1.7~1.8歳)では,熱性痙攣が認められた群では抗ヒスタミン薬を45.5%が内服しており,熱性痙攣を認めなかった群の抗ヒスタミン薬の内服率22.7%の約2倍であった(文献1)。そのため,幼少児(特に2歳未満)の患児への投与には十分な注意が必要である。
抗ヒスタミン薬が痙攣を誘発する機序は,脳内へ薬剤が移行することでヒスタミン神経系の機能を逆転させてしまうことによる。・・・ヒスタミンも痙攣抑制的に作用する神経伝達物質であるため,抗ヒスタミン薬が脳内へ移行し,拮抗することは望ましくない。
これらの理由で,厚生労働省のPMDA重篤副作用疾患別対応マニュアル「小児の急性脳症」編(平成23年4月28日)において,患者・保護者に対しては,「お薬の副作用として急性脳症の症状が現れることがまれにあります。アスピリンなどの熱さまし,抗ヒスタミン薬を含むかぜ薬や,気管支を広げるためのぜんそくの薬などの他,てんかんを治す薬や免疫を抑える薬などの一部の薬が,小児の急性脳症の発症に関係のある場合があります」とある。
抗ヒスタミン薬が痙攣を誘発する機序は,脳内へ薬剤が移行することでヒスタミン神経系の機能を逆転させてしまうことによる。・・・ヒスタミンも痙攣抑制的に作用する神経伝達物質であるため,抗ヒスタミン薬が脳内へ移行し,拮抗することは望ましくない。
これらの理由で,厚生労働省のPMDA重篤副作用疾患別対応マニュアル「小児の急性脳症」編(平成23年4月28日)において,患者・保護者に対しては,「お薬の副作用として急性脳症の症状が現れることがまれにあります。アスピリンなどの熱さまし,抗ヒスタミン薬を含むかぜ薬や,気管支を広げるためのぜんそくの薬などの他,てんかんを治す薬や免疫を抑える薬などの一部の薬が,小児の急性脳症の発症に関係のある場合があります」とある。
医療関係者に対しては,「抗ヒスタミン薬が痙攣を発症する機序は,脳内へ薬剤が移行することでヒスタミン神経系の機能を逆転させてしまう機序による。ヒスタミンも痙攣抑制的に作用する神経伝達物質であるため,抗ヒスタミン薬が脳内へ移行し拮抗することは望ましくない」と注意喚起されている。
・・・ 発育途中の脆弱な脳を持つ小児期に抗ヒスタミン薬を長期に使用する場合は,悪影響を及ぼす可能性を危惧して(文献7) ,脳内へ移行しにくい新しいタイプの抗ヒスタミン薬(アレグラR,アレジオンR,ザイザルRなど)を選択することが望ましい(表1)(文献8)。
・・・ 発育途中の脆弱な脳を持つ小児期に抗ヒスタミン薬を長期に使用する場合は,悪影響を及ぼす可能性を危惧して(文献7) ,脳内へ移行しにくい新しいタイプの抗ヒスタミン薬(アレグラR,アレジオンR,ザイザルRなど)を選択することが望ましい(表1)(文献8)。
<参考文献>
1) Yokoyama H, et al:Eth Find Exp Clin Pharmacol. 1996;18(Suppl A):181-6.
2) Simons FE:N Engl J Med. 2004;351(2):2203-17.
3) Yanai K, et al:Clin Exp Allergy.1999;29(Suppl 3):29-36.
4) Leurs R, et al:Clin Exp Allergy. 2002;32(4): 489-98.
5) 片山一朗, 他:アレルギー免疫. 2010;17(3):456-68.
6) Gathercole SE:Trends Cogn Sci. 1999;3(11): 410-9.
7) 辻井岳雄, 他:Pharma Medi. 2007;25(5):102-7.
8) 新島新一:医療ルネサンス. 読売新聞, 2014年7月28日.
1) Yokoyama H, et al:Eth Find Exp Clin Pharmacol. 1996;18(Suppl A):181-6.
2) Simons FE:N Engl J Med. 2004;351(2):2203-17.
3) Yanai K, et al:Clin Exp Allergy.1999;29(Suppl 3):29-36.
4) Leurs R, et al:Clin Exp Allergy. 2002;32(4): 489-98.
5) 片山一朗, 他:アレルギー免疫. 2010;17(3):456-68.
6) Gathercole SE:Trends Cogn Sci. 1999;3(11): 410-9.
7) 辻井岳雄, 他:Pharma Medi. 2007;25(5):102-7.
8) 新島新一:医療ルネサンス. 読売新聞, 2014年7月28日.
・・・この記事を読むと「2歳未満の乳幼児には抗ヒスタミン薬を処方しない方が無難」という気持ちになります。
ではなぜ厚労省は添付文書を書き換えないのでしょう?
その答えは「エビデンスが不十分だから」と推測することしかできません。
そして、抗ヒスタミン薬の代わりに抗アレルギー薬(アレグラR,アレジオンR,ザイザルRなど)を提案しています。
これ、変です。
抗アレルギー薬には「上気道炎」や「鼻炎」の適応はありません。
上記薬剤を処方する場合、すべて「アレルギー性鼻炎」と診断されることになります。
そして実感として抗アレルギー薬は風邪の鼻水にはほとんど効きません。
そしてよく処方される「ザイザル(=レボセチリジン)」の添付文書には以下の記載があります;
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 てんかん等の痙攣性疾患又はこれらの既往歴のある患者
痙攣を発現するおそれがある。
11. 副作用
11.1.2 痙攣(頻度不明)[9.1.1参照]
これって、ペリアクチンとほぼ同じ内容ですよね。
現在、A型インフルエンザが席巻しています。
もともとインフルエンザは中枢神経への親和性が高い、つまりけいれんや意識混濁など精神神経症状を起こしやすいウイルス感染症として有名です。
当院では従来から熱性けいれん経験者には抗ヒスタミン薬を処方しない方針でしたが、
インフルエンザ検査陽性者にも処方を控える方針をとっています。
その理由は、けいれんを起こしやすいからではなく、
けいれんを起こした場合に濡れ衣を着せられる可能性があるからです。
心配な方には漢方薬を提案しています。
鼻水・鼻づまりに効く漢方薬は眠くならない(抗ヒスタミン作用がない)ため、
けいれんのリスクが増えることはありません。