小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

血液検査で検出できない「遅延型アレルギー」

2018年01月05日 10時22分14秒 | アトピー性皮膚炎
 一般に、アレルギー反応は即時型と遅延型の2種類が存在するとされています。
 即時型はアレルゲンが体に入ってすぐ(30分〜2時間以内)に症状が出るタイプで蕁麻疹が代表ですね。
 遅延型はそれ以降数日中に症状が出るタイプで、代表的なのは“かぶれ”(接触皮膚炎)です。

 湿疹や蕁麻疹の原因はアレルギーではないかと心配して受診される患者さんは後を絶ちません。
 検査を希望されますが、実はこれ、単純ではありません。

 アレルギーの血液検査は、一般に「総IgE」と「特異的IgE抗体」を検査します。
 そしてこれらは「即時型」を検出する検査であり、「遅延型」は検出できません。

 では「遅延型」の検査はなんでしょうか?
 代表的なのは、皮膚検査の「パッチテスト」です。
 残念ながら、血液検査ではわからないのですね。

 かぶれ(接触皮膚炎)の患者さんはふつう小児科/内科ではなく皮膚科を受診されます。
 パッチテストにはいろいろ問題があり、まず試薬が手に入りにくい、感作誘導の可能性、さらにテクニック、ノウハウが必要な検査です。
 なので、小児科/内科でパッチテストを行っている開業医は少ないです(当院も例に漏れず)。

 その辺の事情を解説した記事を紹介します。日経メディカルから;

■ 接触皮膚炎診療にパネル検査薬がじわり浸透 〜感作を誘発するリスクや結果判定の難しさなどの課題も明らかに
2017/12/19 日経メディカル
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

通勤通学時の騒音で難聴に?

2018年01月05日 08時13分09秒 | 小児医療
 先日、テレビで加齢性難聴の解説番組(NHK がってん 認知症を防ぐカギ!あなたの「聴力」総チェック!)を見ました。
 加齢とともに内耳にある蝸牛の有毛細胞が抜け落ちていき、高音から聞こえなくなり、それに反応する脳が働かなくなるのでその部分が廃用性萎縮に陥り、結果として認知症リスクになる・・・という驚くべき論法。
 そして有毛細胞は強い音刺激でダメージを受けるのだそうです。
 ロックのコンサートなどはもってのほかで、専門家の目には「難聴希望者の集会」見えるのでしょう。
 紹介する記事は、避けようがない通勤通学時の騒音が難聴の原因になり得るというカナダからの報告;

■ 通勤通学時の騒音で難聴に?
HealthDay News:2018/01/04:medy
 トロント大学(カナダ)などの研究グループがトロント市街地で実施した騒音調査から、通勤や通学で地下鉄やバスなどの公共交通機関や自転車などを利用する人は、日常的に基準値を超えるレベルの騒音にさらされていることが明らかになった。同グループは「騒音が原因で難聴になる可能性がある」として、対策を呼び掛けている。詳細は「Journal of Otolaryngology -- Head & Neck Surgery」11月23日オンライン版に掲載された。
 騒音調査は2016年4月から8月にかけて平日の午前7時から午後7時までトロント市街地で実施した。装着型の騒音計を用いて地下鉄や路面電車、バスの車内およびプラットホームのほか、自動車や自転車の利用時の騒音レベルを測定した。測定回数は計210回だった。
 その結果、騒音レベルは路面電車(車内とプラットホームでの測定値の平均)の71.5デシベルに対して地下鉄(同)で79.8デシベル、バス(同)で78.1デシベルと高いことが分かった。また、自動車の車内と比べて地下鉄のプラットホームの方が騒音レベルの平均値が高いことも明らかになった(76.8デシベル対80.9デシベル)。
 さらに、測定ごとの最も大きな騒音を「ピーク騒音」とした場合、地下鉄で測定されたピーク騒音の19.9%が114デシベルを、路面電車で測定されたピーク騒音の20%が120デシベルを超えていた。バスのプラットホームではピーク騒音の85%が114デシベルを超え、54%が120デシベルを超えていた。このほか、自転車利用者がさらされているピーク騒音は全て117デシベルを超え、このうち85%が120デシベル超の騒音だった。
 なお、米国環境保護庁(EPA)は難聴リスクをもたらす騒音レベルの基準を114デシベルで4秒以上、117デシベルで2秒以上、120デシベルで1秒以上としている。今回の研究を実施した同大学耳鼻咽喉科頭頸部外科のVincent Lin氏らは「われわれの研究は騒音にさらされると難聴になるという因果関係を明らかにしたものではないが、トロントの交通機関で測定されたピーク騒音はEPAの基準値を超えていた」と指摘する。
 Lin氏によると、短時間であっても大きな騒音にさらされることで、それよりも小さな騒音に長期的にさらされる場合と同程度の有害な影響がもたらされることが分かっている。また、慢性的な過度の騒音への曝露は抑うつや不安、慢性疾患などのリスクを上昇させるなど、全身に影響することも明らかになりつつあるという。こうしたことから、同氏は「今後、公共スペースや公共交通機関を設計する際には騒音による健康リスクについても考慮すべきだ」と強調している。


<原著論文>
Yao CMKL, et al. J Otolaryngol Head Neck Surg. 2017 Nov 23;46: 62.
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

欧州委員会、予防接種に関する国民の意見の聴取を開始

2018年01月04日 08時10分12秒 | 予防接種
 予防接種では日本の先を行っていると思われる欧州でも、反対派の攪乱に振り回され、予防可能な麻疹が流行して子どもの死亡例が後を絶ちません。
 欧州委員会が対策に立ち上がりました。

■ 欧州委員会、予防接種に関する国民の意見の聴取を開始
Univadis Medical News:2018.01.024
 予防接種に消極的な風潮への取組み、持続可能なワクチン政策、予防接種に関するEU間協調などのトピックに関する意見が募集されている。
 ワクチンで予防可能な疾患は大きな健康弊害であり、その国境を越えた発生や国家予防接種プログラムににおける課題を理由に、EUでの共同行動、そして流行/越境性疾患の広がりを抑えるための協力体制の強化が必要であると認識されている。
 欧州では現在、避けることが可能であった麻疹の大流行に多くの国が直面しており、また、EUにポリオウイルスが再渡来または移入されるリスクに対する懸念が存在し、ポリオ根絶宣言が出ているEUの現況を脅かすとともに世界のポリオ撲滅イニシアチブを弱めている。
 今年後半、欧州委員会はワクチンで予防可能な疾患に対する協力強化に関する理事会勧告案を採択する予定である。これに先立ち、欧州委員会は ワクチンで予防可能な疾患に対する協力強化に関する国民の意見の聴取 を開始した。聴取は、個人・団体の見解や意見を収集して理事会勧告案の草案過程に取り入れるよう考案されたものである。
 予防接種に消極的な風潮への取組み、EUでの持続可能なワクチン政策、予防接種に関するEU間協調を含む分野に関する見解がアンケート形式で募集されている。意見の聴取は2018年3月5日まで行われる予定である。


<原著>
European Commission. Open Public Consultation on “Strengthened cooperation against vaccine preventable diseases”. [Cited 21 December 2017]

 同時にEUは、国境をまたいでの患者データの共有も始めるようです。

■ EU加盟国、今年から患者データの交換を開始
Univadis Medical News;2018.01.031
 新しい計画の下では、市民が国境を越えて予定外に医療機関に来院する場合、患者のデータにアクセスすることが可能となる。
 欧州連合(EU)の加盟国12カ国は、今後数カ月の間に定期的な患者データの交換を開始する予定である。
 EU市民の多くが他の加盟国に旅行したり勤務したりする一方で、彼らの医療情報は治療が必要となる加盟国で必ずしも利用できるわけではない。今まで、欧州各国の医療制度はプロジェクトに基づき、また限られた規模で、患者のデジタルデータを交換していたにすぎない。しかしこの状況が変わろうとしている。欧州での eHealthデジタル・サービス・インフラストラクチャ が間もなく稼働開始し、国境を越えた患者情報の安全な共有が実現するようになる。
 コミュニケーション・インフラは、欧州委員会と各国の医療制度が共同で提供する。新しい計画の下では、市民が国境を越えて予定外に医療機関に来院する場合、この患者の 患者概要(EUガイドライン) にアクセスすることが可能となる。
 早期段階で参加を採択し2018年の稼働開始を決めた12カ国の大半が、電子版の患者概要を交換するようになる。EU加盟国5カ国(スウェーデン、フィンランド、ポルトガル、クロアチア、エストニア)は電子処方の共有も行う予定である。さらに別の5カ国が2019年に参加する予定であり、2020年にも参加国がさらに増える予定である。


European Commission. Cross-border digital prescription and patient data exchange are taking off. 21 December 2017.
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

プロバイオティクス・カプセル、アトピー性皮膚炎を改善

2018年01月04日 07時40分49秒 | アトピー性皮膚炎
 腸内細菌叢と病気との関連が注目され、テレビの健康啓蒙番組でもたびたび取りあげられるようになった昨今。
 人体に良い影響を与える微生物、または、それらを含む製品、食品のことを「プロバイオティクス」(★)と呼びます。
 紹介する論文・記事は、腸内細菌叢に良い影響を与えることが期待されるビフィズス菌・乳酸菌などの微生物ブレンドをカプセルに入れて内服した結果、アトピー性皮膚炎が改善したという報告です。

定義
・プロバイオティクス:「適正な量を摂取したときに宿主に有用な作用を示す生菌」
・プレバイオティクス:「大腸の有用菌の増殖を選択的に促進し、宿主の健康を増進する難消化性食品」


■ プロバイオティクス・カプセル、アトピー性皮膚炎を改善
ケアネット:2017/12/19
 新たな剤形で複数成分を含むプロバイオティクス・カプセル製剤は、小児・若年者におけるアトピー性皮膚炎(AD)の経過を改善する可能性が、スペイン・Hospital Universitario VinalopoのVicente Navarro-Lopez氏らによる無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果、示された。アトピー性皮膚炎疾患重症度評価(SCORAD)スコアが低下し、局所ステロイドの使用も減少したという。JAMA Dermatology誌オンライン版2017年11月8日号掲載の報告。
 研究グループは2016年3月~6月に、新たな混合プロバイオティクス製剤の経口摂取について、有効性と安全性、ならびに局所ステロイドの使用に及ぼす影響を評価する目的で、12週間の無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験を行った。
 対象は、4~17歳の中等度AD患者50例(女児26例[50%]、平均[±SD]年齢:9.2±3.7歳)。試験前3ヵ月以内に全身性免疫抑制剤の使用歴のある患者、2週以内に抗菌薬使用歴のある患者、腸疾患合併の診断や細菌感染症の症状のある患者は除外された。
 性別、年齢、発症年齢により層別化し、ブロックランダム化法によりプロバイオティクス群または対照群(プラセボ)に割り付け、凍結乾燥させたビフィズス菌(Bifidobacterium lactis)CECT 8145、ビフィズス菌(B.longum)CECT 7347、乳酸菌(Lactobacillus casei)CECT 9104を計109 CFU含むカプセル製剤(キャリアとしてマルトデキストリン使用)、またはプラセボ(マルトデキストリン)を毎日、12週間経口投与した。
 主要評価項目は、SCORADスコアと局所ステロイドの使用日数とした。
 主な結果は以下のとおり。

・12週後、プロバイオティクス群は対照群と比較して、SCORADスコアの平均減少幅が19.2ポイント大きかった(群間差:-19.2、95%信頼区間[CI]:-15.0~-23.4)。
・ベースラインから12週時点までのSCORADスコアの変化は、プロバイオティクス群-83%(95%信頼区間[CI]:-95~-70)、対照群-24%(95%CI:-36~-11)であった(p<0.001)。
・対照群(220/2,032患者・日、10.8%)と比較して、プロバイオティクス群(161/2,084患者・日、7.7%)では局所ステロイドの使用が有意に減少したことが認められた(オッズ比:0.63、95%CI:0.51~0.78)。


<原著論文>
Navarro-Lopez V, et al. JAMA Dermatol. 2017 Nov 8.


 私としては、プロバイオティクスのカプセル投与前後で、腸内細菌叢の構成がどのように変わったのか、具体的に知りたいところです(論文には書いてあるのかな?)。

<参考>
プロバイオティクスとして用いられる乳酸菌の分類と効能(辨野義己、モダンメディア、2011年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

OAS(Oral Allergy Syndrome), PFAS(Pollen-Food Allergy Syndrome)

2018年01月03日 08時36分34秒 | アレルギー性鼻炎
 口腔アレルギー症候群(Oral Allergy Syndrome, OAS)のわかりやすい&詳しい解説記事を見つけたので紹介します。
 病名から口の中の症状に限定されると思いがちですが、中には重篤な症状が誘発される患者さん(アレルゲン・コンポーネントのLTPに反応する人)もいるので、甘く見てはいけません。

<ポイント>
OASの概念:即時型食物アレルギーの特殊型で、食物摂取時に口腔・咽頭粘膜の過敏症状をきたすものをいい、ショックをきたすことがある。
PFASの概念:OASの中でも、花粉との交差反応性により新鮮な果物や野菜を摂取した際に生じるアレルギー反応は、PFASと提唱されている。PFASでは感作抗原と症状を誘発する抗原が異なる。まず花粉により経気道・粘膜的に感作を受け、その後、果物や野菜を食べて症状が起こる。花粉ごとに特徴があり、交差反応を示しやすい野菜や果物がある。
PFASの疫学的特徴:北欧では、シラカンバ花粉アレルギーの80%にOASを合併するといわれており、わが国でも同様にカバノキ科の花粉感作で生じるバラ科果物などによるOASが多い。PFASは本州の中でも太平洋側で多く、日本海側では少ない。
症状:症状は口腔内に限局することが多く、1人の患者が複数の食物を食べられなくなることが特徴。食物(特に新鮮な果物)を摂取した直後〜1時間以内に口唇・舌・口腔粘膜・咽頭の痒みや刺激感、閉塞感を自覚する。引き続いて鼻、耳、皮膚に症状が生じたり、また消化器や呼吸器の症状を伴い、抗原によってはアナフィラキシーショックを起こすこともある。口腔症状が発現しない場合もあるため、鼻や耳の症状について聞くことが重要。
・食物には複数の抗原が含まれており、PFASでは同じ食物で症状が発現する患者同士でも、症状を誘発するアレルゲンコンポーネントは異なることもある。また、アレルゲンコンポーネントによって発現する症状も異なる。
交差反応性:広く交差反応を誘発するのは、植物がウイルスや細菌、カビの感染などにより病的状態に陥ったときに、その身を守るために誘導する一連の蛋白質群である"生体防御蛋白質"が原因とされる。進化の過程でその構造が比較的保存されており、IgEに対する共通エピトープ(抗原決定基:抗体が認識する抗原の一部)を与えると非常に幅広い交差反応が出現することになる。
 現在、多くの植物は化学物質、大気汚染、品種改良などさまざまなストレスにさらされている。それによって生体防御蛋白質が増え、幅広い交差反応性が起こり、ヒトに影響を与えていると考えられる。
感染特異的蛋白質(Pathogenesis-related protein;PR蛋白質):生体防御蛋白質の1群で、それらもヒトに対して抗原となることが分かってきている。代表的な生体防御蛋白質としてはPR-10、プロフィリン、脂質輸送蛋白質(LTP)などが挙げられる。
プロフィリン:幅広い野菜や果物が属する(例:シラカンバ花粉症のもう1つの主要抗原Bet v 2)。プロフィリンは、ペプシンで消化されるがヒトの唾液では消化されないという特徴がある。そのため、口腔内では症状を引き起こすが、胃に入った後は症状が起こらないとされる。
LTP:花粉症を併発しないタイプの果物・野菜アレルギーの原因物質としてPR-14ファミリーに分類される。花粉に感作されなくても症状を呈し、熱や消化酵素に強い抗原蛋白質であるため、アナフィラキシー症状など重篤な症状を誘発することがある。
アレルゲンの立体構造:PFASの症状が口腔内に限局することが多いのは、原因となるアレルゲンのエピトープが立体構造(conformation epitope)を取り、加熱や消化酵素で容易に壊れ、加熱・消化の過程で誘発能を失うためと考えられる。立体構造が壊れることは、検査法にも影響する。
生活指導:症状の重篤度によりケースバイケース。重篤な症状を引き起こす可能性がある食材にはGly m 4による豆乳アレルギーの他、セリ科のスパイスアレルギーモモ(LTPなど)があり、その場合は厳格な除去が必要になる。



■ 花粉−食物アレルギー症候群の診療ポイント 〜植物の生体防御蛋白質が病態を形成
2017年03月27日:メディカル・トリビューン
 近年、口腔アレルギー症候群(Oral Allergy Syndrome;OAS)、特に花粉−食物アレルギー症候群(Pollen-Food Allergy Syndrome;PFAS)の患者数が増加している。PFASの発症には、植物の生体防御蛋白質などが関与していると考えられている。PFASの病態と診療上のポイントについて、藤田保健衛生大学総合アレルギー科教授の矢上晶子氏に解説してもらった。〔読み解くためのキーワード:アレルゲンコンポーネント

花粉と野菜・果物の交差反応
 OASの概念は、「特殊型食物アレルギーの診療の手引き2015」では"即時型食物アレルギーの特殊型で、食物摂取時に口腔・咽頭粘膜の過敏症状をきたすものをいい、ショックをきたすことがある"とされている。OASの中でも、花粉との交差反応性により新鮮な果物や野菜を摂取した際に生じるアレルギー反応は、PFASと提唱されている。花粉ごとに特徴があり、交差反応を示しやすい野菜や果物がある(表1)。例えば、ラテックス−フルーツ症候群では、バナナや栗、キウイなどにより交差反応が生じることがある。

〈表1〉 花粉との交差反応を示す野菜や果物の一覧


 PFASは花粉の飛散状況に影響を受けるため、地域性がある。北欧では、シラカンバ花粉アレルギーの80%にOASを合併するといわれており、わが国でも同様にカバノキ科の花粉感作で生じるバラ科果物などによるOASが多い。PFASは本州の中でも太平洋側で多く、日本海側では少ない。また、PFASでは感作抗原と症状を誘発する抗原が異なる。まず花粉により経気道・粘膜的に感作を受け、その後、果物や野菜を食べて症状が起こる。症状は口腔内に限局することが多く、1人の患者が複数の食物を食べられなくなることが特徴。
 矢上氏は「国内のOAS症例は増えている」と強調する。OAS、PFASでは、食物(特に新鮮な果物)を摂取した直後〜1時間以内に口唇・舌・口腔粘膜・咽頭の痒みや刺激感、閉塞感を自覚する。引き続いて鼻、耳、皮膚に症状が生じたり、また消化器や呼吸器の症状を伴い、抗原によってはアナフィラキシーショックを起こすこともある。
 同氏は「口腔症状が発現しない場合もあるため、鼻や耳の症状について聞くことが重要だ」と述べる。さらに、どこで何に感作を受けたのかを把握するため、問診の際には出生地、転居歴、現在の居住地を必ず聞くようにしているという。

蛋白質の類似性で交差反応が起こる
 食物には複数の抗原が含まれており、PFASでは同じ食物で症状が発現する患者同士でも、症状を誘発するアレルゲンコンポーネントは異なることもある。例えば、シラカンバ花粉とリンゴの交差反応では、シラカンバ花粉中のBet v 1に感作された場合はリンゴのMal d 1に、Bet v 2ではMal d 4に反応する。それぞれのコンポーネントは類似しており、その類似性によりIgEが交差反応を起こす。また、アレルゲンコンポーネントによって発現する症状も異なる。
 広く交差反応を誘発するのは、植物がウイルスや細菌、カビの感染などにより病的状態に陥ったときに、その身を守るために誘導する一連の蛋白質群である"生体防御蛋白質"が原因とされる。進化の過程でその構造が比較的保存されており、IgEに対する共通エピトープ(抗原決定基:抗体が認識する抗原の一部)を与えると非常に幅広い交差反応が出現することになる。
 現在、多くの植物は化学物質、大気汚染、品種改良などさまざまなストレスにさらされている。それによって生体防御蛋白質が増え、幅広い交差反応性が起こり、ヒトに影響を与えていると考えられる。
 感染特異的蛋白質(Pathogenesis-related protein;PR蛋白質)も生体防御蛋白質の1群で、それらもヒトに対して抗原となることが分かってきている。代表的な生体防御蛋白質としてはPR-10、プロフィリン、脂質輸送蛋白質(LTP)などが挙げられる(表2)。PR-10はシラカンバの主要抗原で、シラカンバ花粉症の80%はBet v 1に対するIgE抗体を有しており、ハンノキ花粉の主要抗原(Aln g 1)もPR-10に属する他、多くの野菜や果物が属している。

〈表2〉 代表的な生体防御蛋白質

1703061_fig2.jpg
(表1、2とも矢上晶子氏提供)

 プロフィリンはシラカンバ花粉症のもう1つの主要抗原Bet v 2で、こちらも幅広い野菜や果物が属する。プロフィリンは、ペプシンで消化されるがヒトの唾液では消化されないという特徴がある。そのため、口腔内では症状を引き起こすが、胃に入った後は症状が起こらないとされる。
 LTPは花粉症を併発しないタイプの果物・野菜アレルギーの原因物質としてPR-14ファミリーに分類される。花粉に感作されなくても症状を呈し、熱や消化酵素に強い抗原蛋白質であるため、アナフィラキシー症状など重篤な症状を誘発することがある。

プリックテストは市販試薬よりも新鮮な野菜や果物で
 同大学では、OASなど即時型アレルギーの検査として、粗抗原による特異IgE抗体測定やプリックテスト、ELISAなどを実施している。矢上氏は「単回では偽陰性も見られるが、検査を重ねて"陽性"または"真の陰性"と患者に伝えられることが重要」と述べる。
 PFASの症状が口腔内に限局することが多いのは、原因となるアレルゲンのエピトープが立体構造(conformation epitope)を取り、加熱や消化酵素で容易に壊れ、加熱・消化の過程で誘発能を失うためと考えられる。そのため、生のトマトは食べられないがトマトケチャップは食べられるという患者もいる。
 立体構造が壊れることは、検査法にも影響する。新鮮な果物や野菜(リンゴ、ニンジン、セロリなど)を用いたプリックテストは感度が高いが(82〜100%)、ピーナツやエンドウ豆などの豆類では低い傾向がある(12〜62%)。さらに、市販のプリックテスト溶液ではリンゴ、オレンジ、トマトなど野菜や果物の感度が低くなるが(2〜80%)、製造の過程で立体構造が壊れたためと考えられる。

原因食物の除去を指導すべきか
 PFASには確立した診療ガイドライン(GL)は存在せず、臨床医によって対応が異なるのが現状である。米国のアレルギー専門医226人(有効回答122人)に対するPFASへの対応のアンケートでは、53%が完全除去を指導していたが、9%は除去を指導していないという結果であった。矢上氏は「今後はGLが必要となるのではないか」と考察している。
 同氏は、PFAS患者に対して
①症状を起こす食材の摂取は避ける
②加熱調理して少しずつ摂取してみる(多くの食物は60〜100℃の加熱で完全にIgE結合能が失活する)
③加工食品や調理品は、プリックテストを行い摂取が可能かどうかを確認する
④カバノキ花粉感作による豆乳アレルギー(Gly m 4)は重篤な症状を引き起こす場合もあるため注意が必要だが、味噌や醤油は摂取可能で豆腐も種類によっては摂取可能
−などの指導を行っているという。
 重篤な症状を引き起こす可能性がある食材にはGly m 4による豆乳アレルギーの他、セリ科のスパイスアレルギー、モモ(LTPなど)があり、その場合は厳格な除去が必要になるが、同氏は「患者には厳格な除去と同時に摂取可能な食物も示すべき」とし、また重篤な即時型アレルギーおよびアナフィラキシー症状への対策として、アドレナリン注射の処方が必要となることも強調している。
 PFASの根治療法について、英国免疫アレルギー学会のGLは"PFAS患者に対する現在のエビデンスでは花粉の抗原特異的免疫療法は推奨も否定もしない"としているが、将来はコンポーネントの解析により効果的な治療が望めるかもしれないとの報告もある(Clin Exp Allergy 2011; 41: 1177-1200)。今後は日本でもPFASに対する舌下免疫療法などが導入されるかもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

インフルエンザワクチンを打つ人、打たない人

2018年01月01日 08時28分17秒 | 予防接種
 インフルエンザワクチンを打つ人と打たない人を比較・分析した中国発の報告の紹介記事です。

 中国の予防接種状況は、「北京では2007年以後、60歳以上の人と小中学生はインフルエンザワクチンを無料で打てる」そうです。
 アンケート調査(18歳以上の7106人)の中で、接種した人は20.6%と、日本より少ないようですね。

■ 中等教育も関係?インフルエンザワクチンを打つ人と打たない人〜中国7,106人のアンケート
2017.10.05 from BMJ open:MEDLEY
 インフルエンザワクチンの効果はたくさんのデータから示されていますが、打ちたくない人もいます。アンケート調査から、ワクチンの副作用が怖いと思う人は打っている割合が低いなどの結果が報告されました。

打った人・打たなかった人の背景は?
 中国の研究班が、インフルエンザワクチンについての聞き取り調査の結果を専門誌『BMJ Open』に報告しました。
 この調査は、2014/15年シーズンのインフルエンザワクチンを打ったかどうかを、学歴やワクチンについての考えなどとともに質問したものです。調査は北京で2015年の5月から6か月にかけて行われ、18歳以上の人7,106人が対象となりました。
 中国の多くの地域では、インフルエンザワクチンがあまり使われていません。北京では2007年以後、60歳以上の人と小中学生はインフルエンザワクチンを無料で打てます。

専門家の勧め、副作用
 回答者のうち2014/15年シーズンのインフルエンザワクチンを打っていた人は全体で20.6%でした。
 59歳以下では5,726人のうちワクチンを打っていた人は933人でした。60歳以上では1,362人のうち672人がワクチンを打っていました。
 統計解析の結果、年齢によらず以下のいずれかに当てはまる人では当てはまらない人よりもインフルエンザワクチンを打っていた割合が高くなっていました。

・最終学歴が小学校以下
・慢性の病気にかかっている
・医療従事者から打つよう勧められた
・ワクチンの副作用は怖いと思わない

 「ワクチンはインフルエンザ感染症を防げると思うか」という質問に対して、18歳から59歳の人では防げると思う人のほうが多くワクチンを打っていましたが、60歳以上の人では統計的に差が確かめられませんでした。
 教育水準が低い人のほうが多くワクチンを打っていた点について、研究班は考察の中で、逆の方向の報告が多いことを前提に、最近の放送メディアやインターネットがワクチンの副作用を強調して伝えていることなどを指摘しています。
 結論として研究班は「将来の予防接種キャンペーンは専門家が勧めることと市民の認識の向上を狙って実行されるべきである」と記しています。

副作用情報の影響とは?
 インフルエンザワクチンを打ったかどうかとその背景についての調査を紹介しました。
 副作用が気になって予防接種をためらっている人は日本でも多いかもしれません。もし考察のようにメディアが影響しているなら、感染症予防の中でメディアが担う役割は無視できません。副作用の報道が人の行動に影響することに対して責任のある情報発信が求められます。

(執筆者:大脇 幸志郎)


<参考文献>
・Factors associated with the uptake of seasonal influenza vaccination in older and younger adults: a large, population-based survey in Beijing, China. BMJ Open. 2017 Sep 25.[PMID: 28951412]


 もう一つ、2016年の記事を。
 鍼治療やカイロプラクティックなどを利用したことがある子どもでインフルエンザワクチン接種率が低く、マルチビタミン/マルチミネラルを飲んだことのある子どもではインフルエンザワクチン接種率が高い傾向が認められたという内容です。

■ インフルエンザワクチンを打つ人と打たない人の違いとは? 〜代替医療の経験で違った接種率
2016.10.23:from Pediatrics:MEDLEY
 今年のインフルエンザワクチンは打ちましたか?「効果は何%」と数字で言われても、なんとなくイメージで考えてしまいますよね。子どものワクチン接種率についての研究から、代替医療を利用した経験と接種率に関連があったことが報告されました。

代替医療とワクチン接種率の関係
 アメリカのペンシルバニア州立大学の研究班が小児科専門誌『Pediatrics』に報告した研究を紹介します。
 この研究は、アメリカ全国で行われた調査データを解析することで、代替医療(だいたいいりょう)とワクチン接種率の関係を調べています。調査では4歳から17歳の子どもが対象とされました。
 研究対象とされた代替医療は次のように分類されました。

・鍼治療など
・ハーブなど(マルチビタミンとマルチミネラルは除く)
・マルチビタミンとマルチミネラル
・体に手で加える治療(カイロプラクティックなど)
・体と精神に着目する治療(ヨガなど)

 データが得られた9,879人の子どもについて、統計解析により、それぞれの種類の代替医療を利用したことがあるかどうかで、インフルエンザワクチン接種率に違いがあるかを調べました。

鍼・カイロ利用者は接種が少ない
 次の結果が得られました。
 インフルエンザワクチン接種率は、代替医療システムを利用したことのある子どもで低く(利用したことがない子どもと比べて33% vs 43%, P=0.008)、徒手的身体療法を利用したことのある子どもでも低かった(35% vs 43%, P=0.002)が、マルチビタミン/マルチミネラルを飲んだことのある子どもでは高かった(45% vs 39%、P<0.001)。
 鍼治療など、またはカイロプラクティックなどを利用したことがある子どもでインフルエンザワクチン接種率が低くなっていました。
 マルチビタミン/マルチミネラルを飲んだことのある子どもではインフルエンザワクチン接種率が高くなっていました。

インフルエンザワクチンにどんなイメージがありますか?
 インフルエンザワクチンでインフルエンザを予防できることは、実際に打った人を調べた多くのデータから示されています。しかし、人は数字では動きません。効果があるといくら告知されていても、現実にはすべての人がワクチンを打っているわけではありません。
 この研究で、体に人工物を入れない鍼やカイロプラクティックの利用者と、人工物であるビタミンやミネラルを飲む人で反対の傾向が出たことは面白い結果です。インフルエンザワクチンに対するイメージが関係しているのかもしれません。
 薬やワクチンは体によさそうだと思いますか?

(執筆者:大脇 幸志郎)


<参考文献>
・Complementary and Alternative Medicine and Influenza Vaccine Uptake in US Children.
Pediatrics, 2016 Oct 3.
(http://pediatrics.aappublications.org/content/early/2016/09/30/peds.2015-4664.)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「卵アレルギーでもインフル予防接種は安全」

2018年01月01日 08時20分15秒 | 予防接種
 昔から繰り返し話題になる「卵アレルギー患者に対するインフルエンザワクチンの可否」。
 徐々に「接種しても問題ない」方向へシフトしてきています。
 今回紹介するアメリカ初の記事は“解禁”とも言うべき内容です。

■ 「卵アレルギーでもインフル予防接種は安全」米学会が見解
HealthDayNews:2017年12月31日:medy
 米国アレルギー・喘息・免疫学会(ACAAI)は12月19日、「卵アレルギーのある人でもインフルエンザワクチンの接種は安全であり、医療従事者が接種前に卵アレルギーの有無を確認する必要もない」とする診療指針(practice parameter)を発表した。
 指針の全文は「Annals of Allergy, Asthma and Immunology」2018年1月号に掲載されている。
ACAAI食物アレルギー委員会の委員長で、今回の指針の筆頭著者である米コロラド大学アレルギー・免疫部門のMatthew Greenhawt氏は「インフルエンザワクチンの接種前に医療従事者が卵アレルギーの有無を確認することは多いが、今後はそのような必要はないことを医療従事者や一般の人たちに認識してもらいたい」と話す。
 また同氏によると、卵アレルギーがある人がインフルエンザワクチンを接種する場合も特別な対応は必要ないという。
 インフルエンザワクチンの多くは鶏卵で培養したインフルエンザウイルスを使用しているため、わずかに卵由来のタンパク質が含まれている。
 しかし、2011年以降に発表された研究データでは、卵アレルギーがある人ではインフルエンザワクチンの接種によるリスクがアレルギーのない人を上回ることはないという明確なエビデンスがあるという。
 ACAAIは、今回の指針に関するプレスリリースで「これまでに、卵アレルギーの人でもアレルギー反応を起こさずにインフルエンザワクチンを接種できることを示した研究結果が数多く報告されている。
 これは、インフルエンザワクチンに含まれている卵由来のタンパク質の量が、たとえ重度の卵アレルギー患者であってもアレルギー反応を引き起こすほどではないためだ」と説明している。
 なお、これまでのACAAIの指針では、卵アレルギーがある人へのインフルエンザワクチン接種は安全のためにアレルギー専門医がいる医療施設で行うことが推奨されていた
 しかし、今回発表された新指針ではその必要はないとしているほか、卵アレルギー患者に対して卵由来の物質が含まれていないワクチンを特別に用意したり、接種後の観察期間を通常よりも延長したりする必要はないとの見解が示されている。
 また、接種前に卵アレルギーの有無を確認することさえ不要だとしている。
 ACAAIによると、この新指針は米疾病対策センター(CDC)や米国小児科学会(AAP)の勧告と同じ方針だという。
 「米国では毎年インフルエンザによって数多くの人々が入院し、死亡している。
 その多くはワクチンによって予防できるはずだ」と今回の指針の共著者である米スクリプス・クリニックのJohn Kelso氏は強調する。
 また、同氏は「卵アレルギーは小児に多くみられ、小児はインフルエンザにも罹患しやすい」と指摘。
 「卵アレルギーがある小児を含むあらゆる人々に対してインフルエンザワクチンの接種を奨励することが極めて重要だ」としている。
HealthDay News 2017年12月19日
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする