・平成16年度の最新データによると、20歳未満の人の人工妊娠中絶総数は3万4765件とされていた。1日に95人。この数字を見て、女の私は思った。
男と女がセックスするとき、男女は決して平等なんかじゃない。
・入学したての夏休みに、私はとっておきの情報をインターネットで仕入れた。
「AIDS文化フォーラムin横浜」というイベントに、飯島愛さんがやってくるというのだ。参加費は無料。つまり、タダで飯島愛さんに会える!
最初にステージに登場したのが「コンドームの達人」のニックネームで有名な、司会の岩室伸也先生だった。
・「寂しい」
→誰かといたい
→二人でいることへのハードルが低い
→セックスすることへのハードルが低い
→コミュニケーション能力が育っていない
→セックスもコミュニケーションのひとつ
そして
→「する?」
→「いいよ」
出てくる言葉のすべてに、すごく納得した。
だって、私自身がそうだったから。
私は思い出したくないようなことや、思い出す必要もなかったことまで思いだした。
そして「あ、私も、寂しかったんだ」と思って力が抜けた。
私も「寂しいからセックスする」と分析される、イマドキの若者のひとりだったんだ。
・『神様がくれたHIV』北山翔子著
・「NPOカタリバ」は、性教育をする団体ではなく大学生主体のNPOで、目的はキャリアデザインを行うことだ。
カタリバでは、50人くらいの大学生が高校へ出向き、1学年300人くらいの高校生と、文字どおり『語る』。
・私が中学校に上がるころ、父と母が離婚をした。
父が家を出て、高校生になった姉は海外に留学してしまった。母は相変わらず自分の仕事(歯科医)と遊びに充実した生活を送っていて、私は家にひとりぼっちだった。
毎日誰もいない家に帰るのが嫌だった。
・中学2年生のときに、学校でいじめに遇った。
・高校が楽しくない、勉強ができない、居場所がない。
・初代チア部は8人でスタートし、3年生になると無音は50人に増えていた。最初は反対していた学校側も、最後は正式に認めてくれた。
友だちのひと言「じゃあ、サキコが作っちゃえば」がなかったら、何も起きていなかった。
ちなみに、今でもチア部は存続し、元気に活躍している。チア部をつくったことは私の高校時代で、唯一胸を張って誇れるものだ。
・恋愛やセックスは、ことばのいらない、楽なコミュニケーションだった。
・「乙女心のわかる医者になろう」
入塾のときに受けた全国模試の偏差値は「30」という、これでは医学部はおろか、どこの大学にもいけない。・・・
母親に頭を下げて、心機一転、私は新しい予備校へ移ることにした。・・・
勉強って、できるとこんなにおもしろいんだ!!
生まれ変わったように勉強に集中し、2年目の浪人生活に入った私は、20歳の誕生日を迎えることになった。・・・実は、母がこの前の年に再婚(50歳)した。・・・
そんなとき、恋をした。相手を大切に想える恋愛だった。予備校で・・・夜遅くまで勉強していた彼に、数学の問題を教えてもらったりした。・・・
彼は初めてなにに、私は初めてじゃない。彼の純粋さと優しさを感じるたびに、自分のからだが、すごく汚れているように思えた。初めてが彼だったらよかったな。
過去にどんな恋愛をしていても、セックスさえしていなければ、こんなふうに後悔することはなかったと思った。思い出すと、自分のからだが気持ち悪くなった。もっと自分を大切にすればよかった。ものすごく後悔した。
落ちこぼれ、恋の失敗、でも、それにこういて気づけたこと。そして、医学部に入学したこ。
この20歳に転機がなかったら、「えんみちゃん」はいなかった。
「もっと気楽に楽しくまじめに性を考える場」が中高生のときにほしかった。
立ち止まって考える時間もなかったし、ほんとうに知らなきゃいけないことを教えてくれる大人はいなかった。
だから、ないならこれから私がつくっていけばいいんだ。
・こうして私は、自分の経験をもとに、中高生の私が聴いておきたかった話を15分の紙芝居にまとめあげた。
この仕上げた紙芝居を使い、大学1年生の9月のカタリバで初めて高校生に語った。
恥ずかしくて生徒の顔が見られなくなったり、言葉に迷いながらも、昔の自分があたかもそこにいるかのように、一生懸命語りかけた。
・私の体験が、みんなの心に伝わった!
予想以上の高校生からの反響だった。
「えんみさん、もう少し早く会いたかったです」
それから私は、大学の講義の都合がつく限り、カタリバに参加した。
・(誹謗中傷されて)いちばん最初に頭に浮かんだのは、「母がこれを見たらどんなに悲しむんだろう」ということだ。
自分がこの活動をしているせいで、親を悲しませることになって申し訳ない。
これまでにも、「なんでわざわざ変な目で見られがちなことを、嫌なことを思い出してまで、話しているんだろう」と思ってしまうことがあった。
でも、そんな思いは、高校生のみんなに会うと、いつだってすぐに消えていた。
話を聴いてくれる高校生のためなら、私の迷いはちっぽけなもので、私はいくらだって自分のダメな部分を語ることができる。そう思った。・・・
落ちこんで岩村先生にメールをすると、先生は忙しいなか、すぐに返信をくれた。
「あなたの周りの人はショックを受けるでしょうが、あなたは『私は気にしていない』という姿勢を貫き通すことです。今の素敵なあなたは多くの人に求められています。辛いでしょうが、私はあなたのファンです。がんばりましょう」
・カタリバでは、トラブルを防ぐために、大学生とスタッフと高校生が直接連絡を摂ることを禁止している。
・ついに、大学5年生の春、講演先が200校を超えた。記念すべき200校目の講演先の校長先生は、「学校は、生に関する話というだけで身構えるものだけれど、あなたの語っていることが、今の中高生や学校現場に求められているのは、講演を聴けばわかる」と背中を押してくれた。
・女医さんに、
「整理が遅れているのね? 前回の整理はいる?」と聞かれた
「わかりません・・・」と答えると、女医さんは目をそらしたがる私の目をじっと見て言った。
「自分の生理周期を知らないでセックスしてるの? 生理周期すら把握してないのにセックスする視覚なんてない! 女の常識!」
・保健の授業で妊娠や中絶やエイズの話を聞いても、それが自分たちのしている恋愛にリンクするべきものとは到底思えなかった。
・現在の最新データ(平成21年度)では、その件数は、10代で2万1192件(1日58件)、全年代で22万3405件(1日612件)となっている。
たった6年で、10代は、1日95件から、1日58人にまで減っている。
「緊急避妊ピルの普及」もその一因であると考えられているのだ。
・「感染ひろがるゲーム」
(20人くらいの)参加者全員に水が少量入った透明のコップを配る。2人1組になって自己紹介をしたら、どちらかのが自分の水を相手のコップに入れて、水を混ぜる。そして、今度は水をもらった側の人が、自分のコップのなかの半分の水を、相手のコップに戻す。この水の交換を、2人組を変えていきながら、動揺に5人の人と行う。
和気あいあいの雰囲気のなかで水の交換が終わると、私はこのゲームの意味について説明する。
水の交換が表しているのは、セックスだ。
そして、コップの中の水は、精液や膣分泌液や血液などの体液を表している。
このなかの誰かひとりのコップだけに、水酸化ナトリウム水溶液を入れておく、
つまり、性感染症に感染している人が、ゲームに参加している人のなかにひとりだけいたという設定だ。
フェノールフタレインという薬品を入れると、みんなのコップの水が、次々に赤く染まる。これは、感染の有無を検査したということ。
こんなふうに、感染が広がっていく、色の変化を目の当たりにした中高生からは驚きの声があがる。
・セックスは、相手だけでなく、見えない他人ともつながっていく。
・飯島愛さんが、次のように語ってくれたことがあった。
「コンドーム使わない人は誰が何度言ったって使わないんだから。
もうそういう人はせめて検査受けてください。
定期検査!! 大切な人を守るために検査を受けましょうとか言われるけど。
人間誰だって自分がいちばんかわいいんだから、まずは大切な自分のために検査受けようよ」
・ある教授から
「君がやってることは非常識すぎる。
こんな学生が大学名を出して活動してるなんて、言語同断だ!」
たまたま私に講演の依頼をしてくれた中学校が、大学宛てに講演依頼書を郵送していて、なぜか教授がそれを目にしていたのだ。・・・
私はひたすらこらえた。・・・
岩室先生も心配していた。私の情報は筒抜けで、
「遠見君は目をつけられているから、ちゃんと勉強するように厳しく指導してほしい」
と言われつづけたそうだ。
私は毎年進級して、6年間でストレートで医師になることを最低条件に、活動をつづけることにした。
・でも、ある教授はそんな私にこんな言葉をくれた。
「時がきたら、君の夢は必ず叶う。
だからその時がくるまで、夢を持ちつづけてほしい。
今の君の立場ではつらくなることもたくさんあると思うけど、
夢を持ちつづけるためには、
今からひとりでも多く理解者を見つけておきなさい」
泣いている私に、教授の秘書さんが、やさしいお母さんみたいに声をかけてくれた。
「口にださなくても、あなたのことを応援している人は、この大学のなかにもたくさんいるのよ」
その言葉にまた泣けた。
・こうして私は、大学2年生の7月、母校の神奈川県湘南高校で講演することができた。その後も、3年連続で講演させてもらっている。
・ある人は、「過去は忘れるか、闘うしかない」と言っていた。
でも私は、「過去を許したい」と思う。
「自分を大切にする」には、いろんな意味があるし、いつも「自分wの大切にする」のって、けっこう難しい。
誰だって「自分を大切にできない」ときがあるかもしれない。
人間、いくつになっても失敗はつきないし、私もいまだに失敗だらけだ。
でも、これまで私が出会った中高生のみんなのなかには、自分で自分のなかの心の動きに気がついて、自分の失敗や弱さを知って、自分の力で一歩踏み出すことができた子がたくさんいる。
だから、中高生のみんなにも気づいてほし。
たくさんの人が自分のまわりにいて、ひとりじゃないということを。
同じように悩みを抱えていて、でも、自分の力で一歩を踏み出そうとしている子たちがいること。
だから、ひとりじゃない。
・これまでもらった言葉のなかで、いちばんうれしい言葉があった。
・・・
好きだからエッチするって間違ってるし
エッチしてくれるから好きって間違ってる
女の子ゎみんな好きだからエッチするって思ってるけど、
やっぱり寂しいからっていうのが正論だった気がするんだ
あたしがその一人だし
あたしゎエッチした後相手にしてくれる彼氏がいなくなって
だから援助交際もしてだんだって
でもあたし今日から、そういうのから全部手きるんだあ
えんみちゃんが言ってくれたこと全部受け取れたから
えんみちゃんって人間を変える力があるよ
えんみちゃんがいなかったらあたしどうなってたかな
1200人の前に立って話してたえんみちゃんなのに
あたしにゎあたしだけに話されてたみたいな気分だったよ
えんみちゃんにゎ、あたしがゆーのもなんだけど
講演会ずっとやってほしいって思ってるよ。
人間ゎたった一人の人に出遭っただけで変わるんだ
いい方向にも悪い方向にもね
えんみちゃんがこうやって今を楽しんでるのを見て
あたしも楽しみたいって思った
講演会聞いてて、えんみちゃんも過去のこと
いっぱい暴露ってて、本当ゎつらいのかなあ?って思った
でもなんか心が開けた
えんみちゃんなら打ち明けられるって思った
あたしえんみちゃんのこと大好きだよーつ
えんみちゃん生まれてきてくれてありがとーつ
えんみちゃんのママもありがとーつ!
・岩室伸也(厚木市立病院泌尿器科)
(人は他人を)変えることはできないけれど、
(人は人に響く経験を通して)変わることはできる。
遠見才希子というひとりの人間が、今後さらに多くの感動を伝えつづけられるように成長することを楽しみにしている。・・・
よくここまで頑張ったと思う。
でも、支えてくれた人たちへの感謝を忘れず、これからも「今」と「一期一会」を大事にして欲しい。
感想;
読み終えての感想は、「すごいな。自分のネガティブな体験を話せるなんて」でした。
それと、人は目的を見つけるとその目的に向かって頑張れるということです。
予備校入塾時偏差値30から医科大はかなりの勉強をされたと思います。
大学に入っても、先生から目を付けられても、女の子を守りたいと思って活動を続けられました。落第すると活動もできないとのことでしっかり進級されました。
えんみちゃんは、亀田総合病院で経験を積まれ、筑波大学大学院進学され、その後
女性ライフクリニックで働かれたようです。
2019年4月のインタビュー記事ですが、この時点で中高生へのお話は700校を超えたそうです。
どれだけ多くの女の子が自分の身体を大切にされたことでしょう。
現在は性教育についての講演、執筆をしながら、筑波大学大学院に在籍し、非常勤産婦人科医として働く(2023年2月7日)
この時点でお話は1,000校を超えたそうです。
偏差値について;
湘南高校は偏差値74の神奈川県でも4番目の進学校です。元々勉強していた人が高校で勉強しなかったので、クラスでブービー辺りだったそうです。
入塾試験の偏差値30はそのグループの中の順位を示していますので、偏差値が浪人生の中ではかなり下だったようです。2浪して予備校に通って、医者になって不幸な女の子を防ぎたいとの強い思いがあったのです。
偏差値30とは100人いたら下から2.2人目です。偏差値74は神奈川県の高校受験生の中で100人いたら上から0.8人目です。かなり上位です。
聖マリアンナ医科大学は偏差値62.5ですので、4年大学受験生100人中上から10.6人目となります。母集団が違うので一概には言えませんが、100人いて上から98番目から11番目まで頑張って成績を上げられたのです。学びも目的があると一生懸命できますね。学びだけでなくても他のことでも同じかもしれません。自分で目的を見つけることがいかに大切かなのでしょう。その目的も自分だけではなく、誰かの為にだとそれがさらに強いのでしょう。中高生の女の子の身体を守るために今の遠見先生は頑張っておられます。