平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

ソウル1945~境遇の逆転を描いた壮大なドラマ!

2012年03月15日 | テレビドラマ(海外)
 韓流ドラマ『ソウル1945』は、日本の敗戦・朝鮮半島の独立・朝鮮戦争・南北分離までを描いたドラマである。
 この作品を見ると、戦中・戦後の朝鮮半島の歴史がよくわかる。
 名もなき民衆の息づかいや歴史に翻弄させる姿も。

 メインの登場人物は4人。
 侍女で後に半島ホテルのマネージャーになるヘギョン。
 故郷・咸興の秀才で、社会主義運動を行っていくウニョク。
 天才ピアニストでお嬢様のソッキョン。(ヘギョンは彼女の侍女だった)
 そして名門家一家の御曹司で、心優しいドンウ。

 面白いのは彼ら4人の境遇が、歴史の変転によって、どんどん変わっていくことだ。
 日本が朝鮮半島を統治していた時は、日本の軍閥・政治家に寄り添っていたソッキョンやドンウの一家は隆盛を誇っている。
 ソッキョンは「お嬢様」と、ドンウは「お坊ちゃん」と呼ばれ、苦労知らず。
 ところが日本が負けて、朝鮮が解放されると、日本と歩みを共にすることで利益を得ていたソッキョンたちの家族は糾弾される。
 実際、ソッキョンの父親は、<売国奴>とののしられ、誇りを踏みにじられることを潔しとせず、切腹する。
 隆盛を誇っていた者が衰えて滅びるのは、歴史の必然だが、まさにそれがソッキョンたちの上にも襲いかかる。

 ところが今度は南北対立が起きる。
 すると南朝鮮では、保守派が台頭し、今まで忍従を強いられていたソッキョンやドンウの父親が再び勢いを取り戻していく。
 逆に解放された朝鮮の国家像を<社会主義国家>に置いて活動していたウニョクは<アカ>として逮捕・糾弾され、ウニョクと婚約していたヘギョンも巻き込まれ、死刑で銃殺されそうになる。

 ところがここで三たび境遇の逆転が起きる。
 朝鮮戦争が起こり、ソウルが北朝鮮によって占領されると、今度は<人民の敵>としてソッキョンやドンウの父親が逮捕・糾弾される。
 逆に社会主義運動を行っていたウニョクは政府の要職に抜擢され、ヘギョンは<人民の英雄>として賞賛される。

 すごいですね、この変転。
 激動の歴史に生きた人々ならではのドラマ。
 主人公のヘギョンなどは、別に<社会主義>や<共産主義>を思想として持っていたわけではない。
 ただの普通の庶民で、家族を大事にし、恋人ウニョクと幸せになりたいと願って生きてきただけ。
 なのに、ウニョクを守ったその行動から<人民の英雄>に祭り上げられてしまう。
 逆にソッキョンは<人民の敵>として糾弾され、<自我批判>を強いられる。
 「わたしは間違っていました。わたしは多くの人民を搾取して、苦しめてきました。わたしは思想を改めます」と<自我批判>するソッキョン。
 今までの豪華な服はブルジョワの服であるため、人民服も着る。
 彼女は別に思想を改めたわけではないが、死刑にならないためには表面上はそうするしかないのだ。

 しかし、ここで四たび境遇の変転が起きる。
 アメリカを中心とする国連軍が盛り返し、南朝鮮がソウルを奪回するのだ。
 するとウニョクは逆に追われる身になり、<人民の英雄>ヘギョンは逮捕される。

 このように『ソウル1945』は、歴史の流れの中で翻弄されながらも必死に生きる人々の姿を描いた秀作である。
 先程述べたように、主人公のヘギョンたちの行動は、ウニョクを除いて、<社会主義・共産主義の思想>から出たものではない。
 ただ、家族と愛する人と幸せに暮らしたかっただけ。
 なのにそれを許さない歴史という怪物。
 この作品を見ると、思想やイデオロギーとは何なのかと考えさせられますね。
 思想やイデオロギーがあるから争いが起きる。
 同じ朝鮮民族なのに、どうして北と南で憎み合い、殺し合わなくてはならないのか?
 これは現在の紛争やテロも同じで、過激な宗教思想が(宗教自体は人々に心の拠り所と安らぎを与えるもので悪くないのだが)争いの原因になっている。

 さてラスト。
 ネタバレになるので、これからご覧になる方はパスしてほしいのですが、五たび境遇の逆転が起きる。
 それは……





 死刑になりそうになるヘギョンを、ソッキョンが逃がすのだ。
 その時に彼女らはこんなことをする。
 ヘギョンが<雨月夕景>というお嬢様になり、ソッキョンが侍女になる。
 これは、ヘギョンを日本に逃がすための偽装なのだが、ここで<境遇の逆転>が起きている。
 ただし、これは歴史の流れの中で強制されたものでなく、彼女たち自らの意思で行った<境遇の逆転>。
 この違いは大きい。
 何しろ彼女たちは自らの意思で<境遇の逆転>をすることで、歴史の流れに抵抗したのだ。友を守ったのだ。

 『ソウル1945』は<境遇の逆転>のドラマである。
 その<境遇の逆転>というモチーフを、ラストで<ヘギョン救出>というドラマに結びつけた所が実にあざやか。



コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 恋と恋愛に関する名言集~こ... | トップ | 乃木坂46~「ぐるぐるカーテ... »

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お疲れさまでした (megumi)
2012-03-15 14:56:50
コウジさん  

レビューアップ 朝から存じていましたが
出掛けるの予定があったので
帰宅後 じっくりと読むべきだと思い
PCを閉じました

たった今 拝読いたしました
70話をまとめるのは 骨が折れましたでしょう?

おおまかに言えば
まさに境遇や立場の変転劇です
しかも 
生死を左右するほどの激しい変転です

そこに繰り広げられる人間ドラマ 
さまざまな愛情や憎悪
市井に暮らす平凡な人々までもを巻き込んでいく思想の問題
長時間ドラマ故に
広く深く丁寧に南北問題を描いていますよね

作者の登場人物への配慮が行き届いていて
捨てキャラがいなかったでしょう?
パク・チャンジュでさえ 時代が許せば
良き夫・父になれそうな気がしました


第2次世界大戦の終盤に 
突如ソ連が 日ソ不可侵条約を破棄して満州に侵攻してきて多くの悲劇が産まれました

朝鮮戦争でも 南側がアメリカ軍の仁川上陸作戦で優位に立ったところで 
中国が参戦してきて混乱を招き 
今日の分断に至ったと聞いています
(このあたりの歴史に詳しく無いのですが・・・)

なんたる不幸!!!
思想の違い 背後の国の思惑で 
同一民族が敵対するなんて ひどい話ですよね


コウジさんは 
男性なので 私のようにのめり込むようなことは無かったのではないでしょうか


参考までに
同じ作者(脚本家)のドラマに
「ファッション70S」と言うのがありますが
これも 発端は朝鮮戦争です
ラストがもやもやしてるのでオススメしません

同じ作者で もう1つ「グッキ」というのがありますが 
既にNHKで放送済みです
1人の女性のサクセスストーリーですが
あらゆる困難にもめげず 不屈の精神で成功を勝ち取るハッピーエンドです

不屈と言えば「開拓者たち」が
いよいよ地上波放送決定ですね (^-^)v

返信する
ありがとうございます。 (コウジ)
2012-03-15 20:26:27
megumiさん

>作者の登場人物への配慮が行き届いていて
捨てキャラがいなかったでしょう?

そうなんです。
ここが『ソウル1945』のすごい所ですよね。
状況に応じて、それぞれのキャラが的確に自己主張している。
以前も書きましたが、大河ドラマはかくあるべしという見本ですよね。

パク・チャンジュもいい味を出していました。
最後は彼にも救われてほしかったとも。
<アカ憎し>というとらわれを捨てて、子供の誕生をもっと喜んでほしかった。
出来れば、子供に名前をつけてほしかった。

あとはヘギョンのおじさん。
ああいうしぶとくて、ちょっとズルいキャラが好きです。
まあ、しぶとさという点では、『ソウル』のキャラは、みんなしぶといですが。

>男性なので 私のようにのめり込むようなことは無かったのではないでしょうか

いえ、すごくのめり込みました。
最初にのめり込んだのは、ウニョクのお姉さんの話です。
鉱山の事故で、すぐに亡くなってしまうわけですが、自分の食べ物を分けて、弟のウニョクに食べさせ、「あなたは頭がいいんだから、しっかり勉強するのよ」という健気さに感情移入しました。

素晴らしい作品をご紹介いただきありがとうございました。

返信する
良かった!!! (megumi)
2012-03-15 23:05:32
コウジさん

ウニョクの姉の悲劇は 
底辺の労働者階級ならではでしたよね
彼女に死が ウニョクの人生を決定づけてしまったのかもしれませんね
ドンギに関わらなければ 教育も受けら得なかったわけですがドンギの巻き添えで 故郷での職を棒に振って
共産主義を知ってしまいました

私は 正直過ぎるウニョクの母親も 
好きでしたよ
最初は 息子自慢が鼻につき
性格が下品だと思いましたが だんだんと好きになりました

ラストですが
ヘギョンが ウニョクの死を知らないままの宙ぶらりんも有りかと思います

ガンの告知にしてもそうですが
現実を突き付けられるよりも 
微かな希望に縋りたい想いもあるのではないでしょうか
彼はこの空の下のどこかで生きている
自分の命ある限り待っていよう
そんな生き方も ヘギョンには幸せに思えます

ヘギョンはドンウに対しては 
彼の誠意に ほだされた形での愛でしたが
ウンヒョクへの愛は 
互いの魂が呼び合うような真実の愛を感じました
思想のために 相思相愛のヘギョンを振り切って38度線を超えたときのウニョクの気持ちは
今もって分りません


お気に召していただいて 私も嬉しいです♪
このドラマを好きな人は
「ジャイアント」にもハマるらしいですが
私は 録画ディスクを抱え込んだままですよ

「ロードナンバーワン」も 
そのうちに ご覧になってくださいね
主演のソ・ジソプの「ごめん 愛してる」は
陳腐なメロドラマとも言えますが
サントラに「雪の華」(中島美嘉が歌ってヒットした曲)があって ドラマの雰囲気によくマッチしているので号泣してしまいす
車の運転をする友人は 思い出しては泣き過ぎて 運転不能に陥ったそうですよ
このドラマはオススメですが 
男性に向くかどうかは疑問です

返信する
1945 (コウジ)
2012-03-16 10:15:31
megumiさん

おっしゃるとおり、ウニョクの原点は<姉の死>でしょうね。
姉の死で社会の矛盾を感じ、虐げられた労働者のための思想である共産主義に向かってしまった。
彼がヘギョンを捨てて38度線を越えてしまったのも、姉の死を原点とするやむにやまれる思いがあったから。(作劇としては、無理矢理な感じもしましたが)

そして現在の北朝鮮をみればわかるとおり、理想と現実は違うんですよね。
ウニョクはその現実に裏切られてしまった。

ウニョクという人物は、思想・イデオロギーとは何か、ということを考えさせてくれる人物でした。
結論としては、そんなものは捨ててしまった方がいい?
闘わない方がいい?
でも放置していたら、虐げられた者はずっと虐げられたまま。
パク・チャンジュのように体制に寄り添ってのぼりつめていく生き方もありますが、それはすなわち弾圧する側にまわるということで、銃をとって闘うことになる。

思想・イデオロギー、あるいは人が歴史にいかに関わるかは、答えの出せない難しいテーマですね。
私のような軟弱な人間でも、1945に生きていて、仮に日本がソ連とアメリカの間で分割されようとしていたら、きっとウニョクのように分割阻止のために闘うと思いますし。

見応えのあるドラマでした。
返信する

コメントを投稿

テレビドラマ(海外)」カテゴリの最新記事