小松左京は現在読まれるべき作家だと思う。
たとえば短編『戦争はなかった』
同窓会に出た主人公が泥酔・転倒し、
目が覚めてみたら、まわりの人間がすべて「戦争なんてあったの?」と言い出す話だ。
まわりの人間の頭の中には、悲惨な「太平洋戦争」の記憶がない。
何となく2021年の現在の状況に似ているではないか。
一部保守界隈で言われている「歴史修正主義」。
「日本がおこなった戦争はアジアの民を解放するための戦争で間違った戦争ではなかった」
「日本がおこなった戦争が悪だというのは戦勝国に押しつけられた」
という歴史観だ。
あるいは
「従軍慰安婦」はいなかった。
「南京大虐殺」はなかった。
イスラエルは未だにナチの戦犯を追いかけている。
ドイツはナチのおこなったことを、毎年反省し、教科書で徹底的に教育する。
しかし、日本は……。
教科書を変えようとしているし、「水に流す」という言葉があるように簡単に忘れてしまう。
普通、原爆を2つも落とされたら、もっとアメリカに怒っていいはずなのにそれをしない。
毎年おこなわれる広島・長崎の原爆の式典をそろそろやめてもいいんじゃないという空気もある。
こうした日本人論や太平洋戦争をめぐる歴史観は今回のテーマから外れるので割愛するが、
小松左京が戦後、時間が経つにつれ、人々から戦争の記憶が薄れていることに問題意識をもったことは間違いない。
主人公は自分が置かれている状況について5つの仮説を立てる。
①自分は異なる世界の異なる歴史の中に飛び込んでしまった。
②戦争は本当はあったのだが、誰かが戦争の記録と記憶を消去してしまった。
③ 〃 、何らかの理由で、みんながそのことを隠し、記録を抹殺してしまった。
④戦争は本当になくて、自分の精神が異常を来し、戦争の妄想を抱くようになった。
⑤同窓会の泥酔と転倒以来、自分は悪夢を見続けている。
①と②はSF的ですね。異世界・記憶の改変。
③は歴史修正主義者や為政者がやりそう。
記録を破棄すれば、事実はいくらでも作り替えられる。
④と⑤は、精神病・精神分析の領域で、これもまた現代的なテーマである。
これら魅力的なテーマ・モチーフをたったひとつの短編に、惜しげもなくぶち込めてしまう所が小松左京の凄さなんだよなあ。
いずれにしても小松左京が
「人々から戦争の記憶が薄れていくこと」
に引っ掛かっていることは確かだ。
SFは未来を予言する。
最後は主人公の奥さんの言葉で締めましょう。
「二十何年も前に戦争があったかなかったか、なんてどうでもいいじゃないの。
戦争があってもなくても、今の生活の方はおんなじなんでしょ?
家を買う手金は打っちゃったし、昔の戦争がどうこういうことより子供たちのために、
現在のことと、これから先に事を少し考えてくれなくては、こまっちゃうわ」
かくして、歴史の記憶は薄れ、人間は同じ過ちを繰り返す。
たとえば短編『戦争はなかった』
同窓会に出た主人公が泥酔・転倒し、
目が覚めてみたら、まわりの人間がすべて「戦争なんてあったの?」と言い出す話だ。
まわりの人間の頭の中には、悲惨な「太平洋戦争」の記憶がない。
何となく2021年の現在の状況に似ているではないか。
一部保守界隈で言われている「歴史修正主義」。
「日本がおこなった戦争はアジアの民を解放するための戦争で間違った戦争ではなかった」
「日本がおこなった戦争が悪だというのは戦勝国に押しつけられた」
という歴史観だ。
あるいは
「従軍慰安婦」はいなかった。
「南京大虐殺」はなかった。
イスラエルは未だにナチの戦犯を追いかけている。
ドイツはナチのおこなったことを、毎年反省し、教科書で徹底的に教育する。
しかし、日本は……。
教科書を変えようとしているし、「水に流す」という言葉があるように簡単に忘れてしまう。
普通、原爆を2つも落とされたら、もっとアメリカに怒っていいはずなのにそれをしない。
毎年おこなわれる広島・長崎の原爆の式典をそろそろやめてもいいんじゃないという空気もある。
こうした日本人論や太平洋戦争をめぐる歴史観は今回のテーマから外れるので割愛するが、
小松左京が戦後、時間が経つにつれ、人々から戦争の記憶が薄れていることに問題意識をもったことは間違いない。
主人公は自分が置かれている状況について5つの仮説を立てる。
①自分は異なる世界の異なる歴史の中に飛び込んでしまった。
②戦争は本当はあったのだが、誰かが戦争の記録と記憶を消去してしまった。
③ 〃 、何らかの理由で、みんながそのことを隠し、記録を抹殺してしまった。
④戦争は本当になくて、自分の精神が異常を来し、戦争の妄想を抱くようになった。
⑤同窓会の泥酔と転倒以来、自分は悪夢を見続けている。
①と②はSF的ですね。異世界・記憶の改変。
③は歴史修正主義者や為政者がやりそう。
記録を破棄すれば、事実はいくらでも作り替えられる。
④と⑤は、精神病・精神分析の領域で、これもまた現代的なテーマである。
これら魅力的なテーマ・モチーフをたったひとつの短編に、惜しげもなくぶち込めてしまう所が小松左京の凄さなんだよなあ。
いずれにしても小松左京が
「人々から戦争の記憶が薄れていくこと」
に引っ掛かっていることは確かだ。
SFは未来を予言する。
最後は主人公の奥さんの言葉で締めましょう。
「二十何年も前に戦争があったかなかったか、なんてどうでもいいじゃないの。
戦争があってもなくても、今の生活の方はおんなじなんでしょ?
家を買う手金は打っちゃったし、昔の戦争がどうこういうことより子供たちのために、
現在のことと、これから先に事を少し考えてくれなくては、こまっちゃうわ」
かくして、歴史の記憶は薄れ、人間は同じ過ちを繰り返す。
教えていただき、ありがとうございます。
確か草刈正雄さんで映画化されましたよね。
まさに今を予言してる作品。
「日本沈没」なんかも、今の作品。
小松左京さんはSF作家ですが、結構社会派なんですよね。