『愛国商売』(古谷経衡・著/小学館文庫)では、自称・愛国保守の方々の生態が描かれる。
著者の古谷経衡さん自身がかつてこの業界にいたから、その描写はリアルだ。
たとえば、こんな描写。
二週間もすれば彼らが何を嫌い、何を好み、その知的水準がいかなるレベルであるかはおおむね見分けがついた。
彼らは自分たちが外部から「ネット右翼」と呼ばれることに対して極端な嫌悪感を示す一方、明らかに自分たちの主張が政治的右派や差別主義に偏っているにもかかわらず中立・中道を標榜していた。
また、そろいもそろって中国・韓国・北朝鮮と日本国内の大手左翼系メディアを蛇蝎(だかつ)のごとく憎悪し、とりわけ韓国と日本国内に住む在日コリアンを呪詛していることもわかった。
彼らが好きなのは「特亜三か国」や「パヨクメディア」を徹頭徹尾攻撃してくれる言論人や文化人の威勢のいい言論であった。
的確な説明である。
ネットで散見する愛国保守を名乗る人の言動はすべて上の表現に帰結する。
主人公の南部照一は「対米自立」を標榜する右派だが、自称・愛国保守の人々の言動がこれとは違うことに戸惑う。
照一はだんだんとこの右派・保守界隈の空気が、「対米自立・反米自主独立」路線とは大きく変質した、ネットの馬鹿を相手に商売する空間に過ぎないものであることを痛感し始めていた。
そう、彼らがやっているのは「愛国商売」なのだ。
その世界は、一般社会では相手にされない自分の承認欲求を満たしてくれる夢のような世界なのだ。
照一は講演会を開くほどの名士になり参加者からこんな質問を受ける。
「南部さんは大東亜戦争勃発の理由を、アメリカによる経済圧力と、最終的には帝国主義的国家の衝突という風にとらえているんですけど、インターネットではそうした考えよりも、コミンテルンの陰謀というのが正しいとなっていて、自分もそう思うんですけどね。
要するにコミンテルンがルーズベルトを操って日本に真珠湾攻撃をさせた。
これはシナ事変もそうです。
コミンテルンが蒋介石を操って日本が戦争をするように仕組んだ。
これが歴史の真実だと思うんです」
「コミンテルン陰謀論」である。
彼らはこれを信じている。
参加者はこんな質問もする。
「自分は日本を破壊しているのが、反日メディアの偏向報道であり、その原因は日本のテレビ局や新聞社の中に、中国人や朝鮮人などの反日工作員が入り込んでいるためだと確信しているのです。
南部先生は、この反日メディアによる偏向報道問題と、そこに入り込んでいる中国や韓国の工作員の存在について、いかがお考えでしょうか」
主人公の南部照一は逆にこう聞き返す。
「そういったテレビ局の工作員という人物に、実際に会ったことがあるんですね」
すると、
「会ったことはないですけど、疑わしいとされる人物は、ネットで調べればいくらでも出てきますよ」
これに対し照一。
「実際には会ったことも見たこともないけれどもネットに書いているからそう信じていると」
「そもそも、地上波テレビ局や大新聞が、一年に何人採用するか知っていますか」
「すごく少ないです。テレビ局や新聞社の新卒採用は、毎年数十名です。
系列を入れても百名はいないどころか、局によってはゼロもあり得る。そういう世界です」
こうして照一は過去の研究論文なども引用して論破していくのだが、質問者は最後にキレる。
「あなたさー、学者や研究者が書いてることだけ信じてるんじゃないですかね。
在日特権を研究しようにも、大学もテレビ局も、新聞もパヨクで朝鮮人が支配しているんだし、大方の出版社もパヨクなんだからその手の本なんて出せるわけないじゃないですか。
だからインターネットというものがあるんでしょう」
「お前が勉強不足なだけなんだよ!」
このやりとり、この作品で一番面白い部分なので、興味があれば読んでください。
この作品、ネトウヨさんをともかく突き放して見ている所が秀逸だ。
ここで描かれた自分の姿を見て、ネトウヨさんは何を思うのだろう?
同時に人間の認識能力って、こんなものなんですよね……。
簡単に陰謀論に囚われる。
自分の信じたいことだけを信じる。
実に頼りない。
自分のこととして戒めたい。
著者の古谷経衡さん自身がかつてこの業界にいたから、その描写はリアルだ。
たとえば、こんな描写。
二週間もすれば彼らが何を嫌い、何を好み、その知的水準がいかなるレベルであるかはおおむね見分けがついた。
彼らは自分たちが外部から「ネット右翼」と呼ばれることに対して極端な嫌悪感を示す一方、明らかに自分たちの主張が政治的右派や差別主義に偏っているにもかかわらず中立・中道を標榜していた。
また、そろいもそろって中国・韓国・北朝鮮と日本国内の大手左翼系メディアを蛇蝎(だかつ)のごとく憎悪し、とりわけ韓国と日本国内に住む在日コリアンを呪詛していることもわかった。
彼らが好きなのは「特亜三か国」や「パヨクメディア」を徹頭徹尾攻撃してくれる言論人や文化人の威勢のいい言論であった。
的確な説明である。
ネットで散見する愛国保守を名乗る人の言動はすべて上の表現に帰結する。
主人公の南部照一は「対米自立」を標榜する右派だが、自称・愛国保守の人々の言動がこれとは違うことに戸惑う。
照一はだんだんとこの右派・保守界隈の空気が、「対米自立・反米自主独立」路線とは大きく変質した、ネットの馬鹿を相手に商売する空間に過ぎないものであることを痛感し始めていた。
そう、彼らがやっているのは「愛国商売」なのだ。
その世界は、一般社会では相手にされない自分の承認欲求を満たしてくれる夢のような世界なのだ。
照一は講演会を開くほどの名士になり参加者からこんな質問を受ける。
「南部さんは大東亜戦争勃発の理由を、アメリカによる経済圧力と、最終的には帝国主義的国家の衝突という風にとらえているんですけど、インターネットではそうした考えよりも、コミンテルンの陰謀というのが正しいとなっていて、自分もそう思うんですけどね。
要するにコミンテルンがルーズベルトを操って日本に真珠湾攻撃をさせた。
これはシナ事変もそうです。
コミンテルンが蒋介石を操って日本が戦争をするように仕組んだ。
これが歴史の真実だと思うんです」
「コミンテルン陰謀論」である。
彼らはこれを信じている。
参加者はこんな質問もする。
「自分は日本を破壊しているのが、反日メディアの偏向報道であり、その原因は日本のテレビ局や新聞社の中に、中国人や朝鮮人などの反日工作員が入り込んでいるためだと確信しているのです。
南部先生は、この反日メディアによる偏向報道問題と、そこに入り込んでいる中国や韓国の工作員の存在について、いかがお考えでしょうか」
主人公の南部照一は逆にこう聞き返す。
「そういったテレビ局の工作員という人物に、実際に会ったことがあるんですね」
すると、
「会ったことはないですけど、疑わしいとされる人物は、ネットで調べればいくらでも出てきますよ」
これに対し照一。
「実際には会ったことも見たこともないけれどもネットに書いているからそう信じていると」
「そもそも、地上波テレビ局や大新聞が、一年に何人採用するか知っていますか」
「すごく少ないです。テレビ局や新聞社の新卒採用は、毎年数十名です。
系列を入れても百名はいないどころか、局によってはゼロもあり得る。そういう世界です」
こうして照一は過去の研究論文なども引用して論破していくのだが、質問者は最後にキレる。
「あなたさー、学者や研究者が書いてることだけ信じてるんじゃないですかね。
在日特権を研究しようにも、大学もテレビ局も、新聞もパヨクで朝鮮人が支配しているんだし、大方の出版社もパヨクなんだからその手の本なんて出せるわけないじゃないですか。
だからインターネットというものがあるんでしょう」
「お前が勉強不足なだけなんだよ!」
このやりとり、この作品で一番面白い部分なので、興味があれば読んでください。
この作品、ネトウヨさんをともかく突き放して見ている所が秀逸だ。
ここで描かれた自分の姿を見て、ネトウヨさんは何を思うのだろう?
同時に人間の認識能力って、こんなものなんですよね……。
簡単に陰謀論に囚われる。
自分の信じたいことだけを信じる。
実に頼りない。
自分のこととして戒めたい。
記事の作成お疲れ様です
此の方は一体何者かはっきりしませんね?
ま、ネトウヨの実態を暴いているようですが保守的な人なのか?
また風貌がやさぐれた感じですね。まあネトウヨは嫌韓嫌中で日本最高
なだけの思想ですからね。
いつもありがとうございます。
古谷経衡さんは「対米自立・反米自主独立」。
まっとうな右翼の方ですね。
筋が通っているので、僕は保守の論客として信頼しています。
過去の右派論客で言えば、西部邁さん、一水会の鈴木邦男さんの系譜でしょうか。
どちらかというと、サブカル系の人と理解しています。
世の中の「親米型ウヨクさん」を考えてみると、愛国的な人たちの虚構がすぐに分かるんですね。
もともと日本の社会は自然発生的なもので、合衆国は、司馬遼太郎が言ったように、人工的な政治体制なわけで、本当は水と油なんですね。
いろいろ参考にすることはあるにしても、社会体制全体をアメリカ式にしてしまうのは、かなり無理があるんです。
ところが「親米型ウヨクさん」は、そのあたりはお構いなしです。つまり「アメリカは反共なのでアメリカ万歳」になってしまうわけで、今では共産主義ではないはずのロシアまで「ロシアは共産主義だから、中国の共産主義と相性がいいんだ」などと言い出す始末です。
実際は、ロシアと中国は国境争いばかりで、仲はよくないんですけどね。
ただ、明治になって日本社会もあちこち人工的になっています。
神道にしても「村の鎮守の神様を拝む」素朴な信仰だったものが、明治になって国家神道として体系化や格付けがされたり、神社のリストラ「神社合祀」が行われたりしています。
なので、愛国的な人たちがいう「美しい伝統的日本」のどこまでが昔の日本らしさなのかも、考えないといけないんですけどね。
といった調子で多角的に見ると、安易に「正しい歴史認識」なんて、言えるはずがないんです。
そういう複雑な紆余曲折をまるっと含めたものが日本のはずなんですけど、愛国的な人たちにはなかなか分かってもらえません。
いつもありがとうございます。
古谷経衡さんはアニメに詳しいんですよね。
あとはラブホテル!
非リア充の代表でもあります。
アメリカは「人工的な政治体制」
面白い切り口ですね。
確かに歴史的な土台がなく、近代がそのままアメリカ大陸に上陸したって感じですからね。
一方、日本は土着的。
何となくイメージできます。
おそらく現在、僕たちが見ている近代的なものを剥ぎ取れば、氏神様とか土着的なものが出て来るんでしょうね。
愛国的な人たちがいう「美しい伝統的日本」というのは明治百年の価値観なんですよね。
明治以前は夫婦別姓は当たり前。
北条政子は源頼朝と結婚しても「北条政子」でした。
同性愛も「衆道」や「陰間茶屋」といった具合に寛容でした。
日本の伝統文化は明治で大きくひねくれたんですよね。
「共産主義」についても愛国的な人たちはどれだけ理解して語っているんでしょうね。
北朝鮮のような独裁政治体制をイメージしているのかもしれませんが、共産主義ってむしろ経済理論なんですよね。
明治以前に、本居宣長の国学系統もありましたが、アレは宣長という天才が、古事記や日本書紀を改めて解読して再評価したという学問的なものなので、あの時代に宣長が出てきたところで、庶民の土俗的な「村の鎮守の神様」への信仰が劇的に変わったわけではないんですよね。
だいたい万葉時代の「大君(おおきみ)の辺にこそ死なめ」という言葉も、同時代の庶民に膾炙していて、国民(くにたみ)のすべてが「おおきみ」を中心とした統一日本を意識していたかというと、とてもそうは思えません。
そういった「いろいろややこしい事情」を意識するだけでも、歴史の見方は違ってくるんですがねぇ…
すみません、直前の本居宣長のコメントですが、ピルグリムファーザーズや、アメリカの「純度の高いキリスト教信仰」について書こうと思って、タイトルを決めたものの、やはり国学について書こうと思って変更したもので、タイトルだけもとのままになってしまいました。
失礼しました。
>国民(くにたみ)のすべてが「おおきみ」を中心とした統一日本を意識していたかというと、とてもそうは思えません。
庶民が「国家」なるものを意識したのは、おそらく明治維新以降なのでしょうね。
そして、おっしゃるとおり、国家としてひとつになるために天皇は利用された。
「古事記」も「日本書紀」もそのために使われた。
「日本書紀」なんて、大陸から来た弥生人と日本土着の縄文人の戦いを描いたものと見ることもできますしね。
個人的には「縄文人」を掘り下げてみたいなと考えています。
「天皇」は今後どう利用されていくんでしょうね。
現在の天皇家の人々は利用されることを望んでいないと思うので、自称愛国者の主張は迷惑でしょうね。
>「古事記」も「日本書紀」もそのために使われた。
「個人の感想」ですが…
高天原とか天孫降臨といった「九州系」と、因幡の白ウサギとか天の沼矛といった「出雲系」は、物語としては別系統にみえます。
地域ごとの独立した伝承だったものが、日本はひとつの国という政治的な事情で、合成されている感じです(こういうこと言うと、愛国系の皆さんは怒るかもしれませんが)。
「九州系」と「出雲系」
神話のロマンですよね。
このあたり、星野之宣さんが「宗像教授」で描いていた気がするので、読み返してみます。
>神話のロマンですよね。
神話は別系統で、文化的にも社会的にも多分別なんですね。
ときどき思うのですが、明治維新の時、日本は連邦制国家を目指した方がうまくいったような気がします、イギリス(UK)だって、4つの国の連邦ですし。
ただ、あのときは時間的な余裕がなかったんでしょう。また、はるか昔の律令制国家の時代に中央集権的な国家像があったわけで、それをなぞりたくなった、という事情もあったんでしょう…
そもそも、飛鳥時代奈良時代にその当時の日本が手本にした唐の社会は、乱暴に言えば、日本の平安朝くらいの発達段階でした。
当時の中国社会では、豪族による土地の私有化(荘園化)が進んで、弊害も顕著になっていたため、唐は国家による土地の所有という改革を進めたわけですね。
実際の話、日本も時代が下って、平安時代中期くらいになってくると、荘園の弊害が出てきて、唐時代に似た状況になるわけですが、日本の政府が出した対策は「墾田永年私財法」で、ただの現状追認でした。問題解決のために何かを行おうとした様子は、残念ながらなかったわけです…
愛国右翼的な人たちで、中国と日本の荘園制の違いをキチンと直視する人って、ほとんどいません。日本スゴいだけです。
>星野之宣さんが「宗像教授」で描いていた気がするので、読み返してみます。
なるほど、星野さんなら書きそうですね…
機会があったら読んでみます。