仁王護國般若波羅蜜多經卷下
大興善寺三藏沙門不空 奉詔譯
爾時に世尊、波斯匿王等諸大國王に告げたまはく。諦聽諦聽、我れ汝等が爲に護國の法を説かん。一切の國土若し亂れんと欲る時。諸の災難あり。賊來りて破壞せん。汝等諸王應に當に此般若波羅蜜多を受持讀誦すべし。道場を嚴飾し、百の佛像、百の菩薩像、百の師子座を置き。百の法師を請じ、此經を解説せしめよ。諸の座の前に於いて種種の燈とともし、種種の香を燒き、諸の雜花を散じ、廣大に供養し、衣服臥具飮食湯藥房舍床座一切供事して、毎日二時に此經を講讀せよ。若しは王、大臣、比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷。聽受讀誦して法の如く修行せば災難即す。大王、諸の國土のなかに無量の鬼人あり。一一にまた無量の眷属あり。若しこの経を聞かば、汝が國土を護せん。若し國亂んと欲するときは鬼神先ず亂る。鬼神亂るが故に即ち萬人亂る。當に賊起りて百姓喪亡することあり。國王、大子、王子、百官と互相に是非し、天地變怪、日月衆星時を失ひ度を失ひ、大火大水及大風等。是の諸の難起らば皆應に此般若波羅蜜多を受持講すべし。若し是經に於いて受持讀誦せば。一切の所求、官位富饒、男女慧解、行來隨意なり。人天果報皆滿足を得。疾疫厄難即ち除愈を得。杻械枷鏁に其身を撿繋するも皆解脱を得。四重戒を破し、五逆罪を作り、及び諸の戒を毀る、無量の過咎、悉く得消滅することを得ん。
大王、往昔過去に釋提桓因あり。頂生王と爲り、四軍衆を領し、來りて天宮に上りて帝釋を滅さんと欲す。時に彼の天主、即ち過去諸佛の教法により、百の高座を敷き、百の法師を請じ、般若波羅蜜多經を講讀せしに、頂生即ち退き天衆安樂なりき。
大王昔天羅國王に、一太子有り、名ずけて斑足という。王位に登る時、外道師有り、名けて善施と為す。王の與め灌頂す。乃ち斑足をして千の王の頭をとりて、以って塚間の摩訶迦羅大黒天神を祀らば、自ら王位にのぼるべしとの教えをうけ、已に九百九十九王を得て、唯だ一王を少く
北行萬里、乃ち一王を得たり。名ずけて曰く普明という。其普明王、斑足に白して言さく。「願くは一日を聽しされよ。三寶を禮敬し、沙門を飯食せしめん」と。斑足聞已りて即便ち之を許す。其王乃ち過去諸佛の説教法に依りて、百の高座を敷き、百法の師を請じ、一日二時に般若波羅蜜多の八千億偈を講説す。時に彼の衆中第一の法師、普明王の為に偈を説いて言さく。
『劫火洞然 大千倶に壞る 須彌巨海
磨滅して無餘 梵釋天龍 諸有情等
尚皆な殄滅せん 何況此身 生老病死
憂悲苦惱 怨親逼迫 能く願と違う
愛欲結使 自ら瘡疣を作す 三界安きこと無し
國に何の樂みか有らん 有爲は不實なり 因縁より起る
盛衰電轉 暫有りて即ち無し 諸の界趣生は
業に隨って縁現す 影の如く響の如く 一切皆空なり
識は業に由って漂う 四大に乘じて起る 無明愛縛
我我所より生ず 識は業に隨って遷る 身即ち主無し
應に知べし、國土の 幻化なるも亦た然なり』と。
爾時に法師此偈説き已るれば、時に普明王、法を聞て悟解し、空三昧を證し。王の諸眷屬は法眼空(人空)を得たり。其王即便ち天羅國に到り、諸王衆中にて是の言をなす。『仁ら今は、就命の時到れり。悉く應に、過去諸佛所説の般若波羅蜜多の偈を誦持すべし』と。諸王聞已て亦た皆な悟解し。空三昧を得、各各誦持す。時に斑足王諸王に問て言く。『汝等今者皆何法を誦するや』。
爾時に普明即ち上の偈をもって斑足王に答う。王、是の法を聞きて亦空定を證し誦す。歡喜踊躍して諸王に告て言く。『我、外道邪師の爲に誤る。汝等の咎に非ず。汝各國に還り、當に法師を請じて般若波羅蜜多を解説すべし』。時に斑足王國を以って弟に付し、出家して道と爲り、無生法忍を得たり。
大王、過去に復た五千の國王あり、常に此經を誦して現生に報を獲たり。汝等十六の諸大國王。護國法を修せば應當に是の如く受持讀誦して此經を解説すべし。若し未來世、諸の國王等、護國護自身を欲するためには、亦應に是の如く此經を受持讀誦解説すべしと。是の法を説きたまうとき時、無量の人衆、不退轉を得、阿修羅等天上に生まれることを得る。無量無數の欲色の諸天は無生忍を得たり。(護國品第五終)
大興善寺三藏沙門不空 奉詔譯
爾時に世尊、波斯匿王等諸大國王に告げたまはく。諦聽諦聽、我れ汝等が爲に護國の法を説かん。一切の國土若し亂れんと欲る時。諸の災難あり。賊來りて破壞せん。汝等諸王應に當に此般若波羅蜜多を受持讀誦すべし。道場を嚴飾し、百の佛像、百の菩薩像、百の師子座を置き。百の法師を請じ、此經を解説せしめよ。諸の座の前に於いて種種の燈とともし、種種の香を燒き、諸の雜花を散じ、廣大に供養し、衣服臥具飮食湯藥房舍床座一切供事して、毎日二時に此經を講讀せよ。若しは王、大臣、比丘、比丘尼、優婆塞、優婆夷。聽受讀誦して法の如く修行せば災難即す。大王、諸の國土のなかに無量の鬼人あり。一一にまた無量の眷属あり。若しこの経を聞かば、汝が國土を護せん。若し國亂んと欲するときは鬼神先ず亂る。鬼神亂るが故に即ち萬人亂る。當に賊起りて百姓喪亡することあり。國王、大子、王子、百官と互相に是非し、天地變怪、日月衆星時を失ひ度を失ひ、大火大水及大風等。是の諸の難起らば皆應に此般若波羅蜜多を受持講すべし。若し是經に於いて受持讀誦せば。一切の所求、官位富饒、男女慧解、行來隨意なり。人天果報皆滿足を得。疾疫厄難即ち除愈を得。杻械枷鏁に其身を撿繋するも皆解脱を得。四重戒を破し、五逆罪を作り、及び諸の戒を毀る、無量の過咎、悉く得消滅することを得ん。
大王、往昔過去に釋提桓因あり。頂生王と爲り、四軍衆を領し、來りて天宮に上りて帝釋を滅さんと欲す。時に彼の天主、即ち過去諸佛の教法により、百の高座を敷き、百の法師を請じ、般若波羅蜜多經を講讀せしに、頂生即ち退き天衆安樂なりき。
大王昔天羅國王に、一太子有り、名ずけて斑足という。王位に登る時、外道師有り、名けて善施と為す。王の與め灌頂す。乃ち斑足をして千の王の頭をとりて、以って塚間の摩訶迦羅大黒天神を祀らば、自ら王位にのぼるべしとの教えをうけ、已に九百九十九王を得て、唯だ一王を少く
北行萬里、乃ち一王を得たり。名ずけて曰く普明という。其普明王、斑足に白して言さく。「願くは一日を聽しされよ。三寶を禮敬し、沙門を飯食せしめん」と。斑足聞已りて即便ち之を許す。其王乃ち過去諸佛の説教法に依りて、百の高座を敷き、百法の師を請じ、一日二時に般若波羅蜜多の八千億偈を講説す。時に彼の衆中第一の法師、普明王の為に偈を説いて言さく。
『劫火洞然 大千倶に壞る 須彌巨海
磨滅して無餘 梵釋天龍 諸有情等
尚皆な殄滅せん 何況此身 生老病死
憂悲苦惱 怨親逼迫 能く願と違う
愛欲結使 自ら瘡疣を作す 三界安きこと無し
國に何の樂みか有らん 有爲は不實なり 因縁より起る
盛衰電轉 暫有りて即ち無し 諸の界趣生は
業に隨って縁現す 影の如く響の如く 一切皆空なり
識は業に由って漂う 四大に乘じて起る 無明愛縛
我我所より生ず 識は業に隨って遷る 身即ち主無し
應に知べし、國土の 幻化なるも亦た然なり』と。
爾時に法師此偈説き已るれば、時に普明王、法を聞て悟解し、空三昧を證し。王の諸眷屬は法眼空(人空)を得たり。其王即便ち天羅國に到り、諸王衆中にて是の言をなす。『仁ら今は、就命の時到れり。悉く應に、過去諸佛所説の般若波羅蜜多の偈を誦持すべし』と。諸王聞已て亦た皆な悟解し。空三昧を得、各各誦持す。時に斑足王諸王に問て言く。『汝等今者皆何法を誦するや』。
爾時に普明即ち上の偈をもって斑足王に答う。王、是の法を聞きて亦空定を證し誦す。歡喜踊躍して諸王に告て言く。『我、外道邪師の爲に誤る。汝等の咎に非ず。汝各國に還り、當に法師を請じて般若波羅蜜多を解説すべし』。時に斑足王國を以って弟に付し、出家して道と爲り、無生法忍を得たり。
大王、過去に復た五千の國王あり、常に此經を誦して現生に報を獲たり。汝等十六の諸大國王。護國法を修せば應當に是の如く受持讀誦して此經を解説すべし。若し未來世、諸の國王等、護國護自身を欲するためには、亦應に是の如く此經を受持讀誦解説すべしと。是の法を説きたまうとき時、無量の人衆、不退轉を得、阿修羅等天上に生まれることを得る。無量無數の欲色の諸天は無生忍を得たり。(護國品第五終)