日々の恐怖 10月8日 洗面台と足
介護施設で働いている介護士のMさんの話です。
ある日の夜、Mさんが施設二階の廊下を歩いていると、廊下の途中に二つ並んでいる洗面台の下に足があった。
茶褐色の作業服の様なズボンと黒い長靴の左右膝から下あたりだけの存在が、洗面台の下に立っていた。
Mさんはぎょっとなり、慌てて通り過ぎて一階へと階段を下りた。
そのMさんを、足はしばらく追って来たという。
Mさんは一階の職員室へと飛び込み、ピシャリと扉を閉めた。
足は階下までは追ってこなかった。
蒼い顔をしているMさんに、部屋にいた看護師のSさんが、
「 どうしたの?」
と声をかけた。
「 あのね・・・・。」
変に思われるかと思いながらも、Mさんは追って来た足のことを話した。
するとSさんに、
「 ああ、あれ。
Mさんも見たんだ。」
と返事された。
思いがけない返事に、Mさんは、
「 え・・・。」
と驚いた。
それで、Sさんに聞いてみると、足だけの存在はいつも二階の洗面台の下の決まった場所に立っていて、時々後を追ってくるのだという。
しかし、どうやら追って来られるのは二階の廊下だけで、階下に来ることはできないらしい。
追って来られた者が階段を下りだすと、いつも二階の階段の下り口のところで止まり、しばらくじっとしているのだという。
そして、また洗面台の下に立っているらしい。
MさんはSさんから、
「 いつからあそこにいるのか知らないけど、他にも足を見たり変な足音を聞いた人はいるよ。
でも、害は無いから心配すること無いよ。」
と言われた。
足は今も、時々、後を追って来る。
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