日々の恐怖 10月29日 茶封筒(1)
郵便配達の仕事をしていた頃、ある日誰もいない空き家に一通の茶封筒が来てた。
大体引越してくるときには、不動産屋や水道、電気関係のハガキが来るから、前の住人のものだと思って、配達に使う原簿を確認して住んでいた人がいないかどうか調べてみた。
もともと住宅街の一角にある家だし、住人の出入りが激しいところではないので、それまで細かく見てなかったんだけど、いざ調べてみると、そのうちだけで4家族ぐらいが入転居を繰り返してる。
期間も2番目以降はどれも3ヶ月とか半年とかで引っ越している。
目当ての名前はすぐに見つかり、最初に住んでいた家族の世帯主だと分かった。
原簿を持って、班長に、
「 転居につき還付をしたいので押印をお願いします。」
と頼んだところ、脇からベテランの爺さんがヒョイと顔を出してきて、
「 ありゃ、こりゃあダメだよ、○○ちゃん。
ここ今は誰も住んでないけど、この名前で来たらとりあえず配達してくれないけ?」
「 えー?あそこポストにガムテープ貼ってありますよね?」
「 ああ、裏から回って取り出し口から押し込んでくればいいよ。
そういう決まりなんだ。」
それで、
「 そうなんですか?」
と班長に話を振ってみると、
「 いや、俺は知らないなぁ。
返さないとまずいんじゃないの?」
それで爺さんが、
「 △△君は異動してきたばかりだからなぁ。
前にこれ返したらさ、送り主が偉い剣幕で乗り込んできたんだよぉ。
すごかったぞぉ。
そこの机蹴っ飛ばして、
“ なんてことをしてくれたんだぁ!?”
って叫んでさぁ。」
「 どんだけっすか・・・?」
「 いや、本当だって。
その人がいうのには、
“ その家にはその人が住んでる。それを決まった時期に送ってあげないと大変なことになるんだ!”
って、もうすごいこと、すごいこと。
まぁあんな家だし、そういうもんなのかもしれねぇけどな。」
それで、その家のことを詳しく聞かせてくれといったところ、話が長くなるので仕事が終わってから酒でも飲みながら話そうということになった。
後処理を終えて、職場の先輩のご両親がやっている小料理屋に移動すると、ビールを一杯ひっかけてから、顔を真っ赤にしながらゆっくりと話してくれた。
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