日々の恐怖 10月7日 雨の日の女
Mさんから聞いた実話である。
Mさんはタクシー会社の社員をやっている。
タクシーを運転しているのではなくて、その上司と言うか、そんな感じらしい。
要するに事務所を離れないでデスクワークしていたりする訳だが、ある雨の日、真っ青になった運転手Aさんが事務所に飛び込んできた。
Aさんの様子があまりに尋常ではなかったので話を聞いてみると、
「 髪の長い女を客として乗せたのだが、目的地について振り返ったら女がいなかった。」
と言うことだった。
その目的地と言うのも、地元では有名な幽霊が出ると言うスポットのすぐ近くだ。
運転手Aさんはビビって、すぐさま事務所に駆け込んできたのだった。
時間は深夜に近づくころ、さすがにMさんも気味が悪くなったが、その場はなんとかなだめて運転手Aさんを帰したらしい。
後日分かったことだが、この話には目撃者がいた。
その雨の日、運転手Aさんが件の女を乗せたところを、他の運転手が多数目撃していた。
と言うのも、場所は駅のロータリーだったからだ。
もう予測できると思うが、運転手Aさんは、
“ 女を乗せ忘れて勝手に出発した。”
のだった。
それは、雨が降っていたために、女が目的地を言いながら傘を閉じるために一度背を向けたところ、運転手Aさんのタクシーがバタンとドアを閉めて走り去ったのだった。
あとにはポカンとした女だけが残っていたそうだ。
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