日々の恐怖 10月30日 茶封筒(2)
もともとその家はバブル期にSさんという人が購入した家だった。
Sさんはどこかの中小企業の社長さんをしていたようだったが、不景気のあおりを受けて会社が傾き、ある日家族揃って失踪してしまった。
爺さんが言った。
「 督促状だの、特送が来てよぉ。
裁判所からのやつなんぞ持っていくと、奥さんが疲れたような、申し訳なさそうな顔をして、
“ またですか。”
って言うんだよ。
俺も長いことやってるけど、あの顔は忘れられねぇや。
こっちが悪いことをしてるような気分になる。」
その後、家は売りに出され、1年後には買い手がついた。
その家で奇妙なことが起こりだしたのは、ちょうどその頃だった。
爺さんが書留を持ってその家に行ったとき、呼び鈴を押すと階段を下りてくるくような音が聞こえた。
すぐに扉が開くと思いしばらく待ってみるが、一向に開く気配が無い。
また呼び鈴を押すと確かに物音はするのだが、返事がない。
シビレを切らした爺さんは不在通知をポストに投げ入れて帰ったところ、翌日再配達の依頼が来た。
「 昨日はお忙しかったようですね。
何度も呼んだんですが聞こえなかったみたいで。」
と嫌味たらしく言うと、
「 昨日は日中は出かけていた。
何度もご足労をかけて申し訳ない。」
と返ってきた。
「 あれ、昨日の昼間、誰かいたような物音がしたんですが?」
家の人は怪訝な顔をすると、
「 え?昨日は日中はずっと留守にしていましたよ?」
「 そうですか?
誰か2階から降りてくるような音と、あと中でばたばたと歩き回っているようでしたが。」
「 うち、主人と二人暮らしですし、ペットも飼っていませんの。」
気味が悪そうにそう告げると、パタンとドアを閉めてしまい、それからしばらくして表札が外された。
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