夕刻、リアルト橋に着いた。風が凪ぐと共に音も止む。
人々のさんざめき、物売りの声、時折過ぎるヴァポレットのエンジン音。
すべての音が、カナルグランデの水面に吸い込まれる。
ほのかに灯る明かりの、懐かしさ。
運河の向かいにある双子のビルに、明かりがついた。
そんな静寂を道連れに、リアルトの夕べが闇へと移ろう。
ゴンドラの舳先が、スローなワルツのリズムに合わせて上下し、
対岸のパラッツオは、いつしか少女の恥じらいのごとくに、ピンクに染まる。
今日も、一日が終わる。
何事もなく、いつものように働き、
いつものような、快い疲れと共に、今日を終えることの出来る幸せ。
さあ、帰ろう。
カナルグランデに浮かび上がるリアルト橋を渡って。
あとは、バーカリの一杯が待つだけだ。