今回もサンピエトロ大聖堂内部に注目しよう。
ドームを支える四面の壁の装飾として、聖遺物を納めるスペースと関連する聖人の像が造られた。
ベルニーニはそのうちの1つ聖ロンギヌス像を製作している。高さ2・4mという大きな像だ。
聖ロンギヌスとは、キリストが十字架に架けられたキリストのわき腹を刺した人物。彼はキリストを刺した後、十字架を見上げて「確かに彼は神の子だった」と叫んだといわれるが、像はその瞬間をドラマチックに表現している。 この場所には、その槍の穂が聖遺物として納められている。
また、堂内にはアレクサンドル七世の墓碑もある。これもベルニーニの作品。
墓碑の中心にアレクサンドル七世がいて、下に4人の女性像が配置されている。これは慈愛、真実、節制、正義という4つの言葉を擬人化したものだ。
アレクサンドル七世は晩年のベルニーニにとって最大の支援者となる重要人物だ。ベルニーニを重用したウルバヌス八世の死後教皇の地位に着いたイノケンティウス十世は、ベルニーニに代わってボッローミニを建築の中心に据え、ラテラーノ教会改築など法王庁の仕事を発注。ベルニーニにとっては冷遇の時代が到来してしまった。
それが、アレクサンドル七世の時代になると、再びベルニーニに脚光が当たる。ポポロ教会にある教皇自らの家の礼拝堂整備を依頼、さらに前回紹介したサンピエトロ大聖堂前広場の拡張や聖堂内の整備などが再びベルニーニに託され、復権の時代が到来する。
この大聖堂には、ミケランジェロの出世作であり最高傑作の1つでもある「ピエタ像」が入口近くに置かれて、聖堂見学と共にその偉大さを再認識することになる。
同時に、ベルニーニの才能と努力の成果を示す作品も大聖堂の各所にちりばめられていることに気付く。そのように、大聖堂は2人の偉大な天才の足跡を鮮明に残す場でもある。