新イタリアの誘惑

ヨーロッパ・イタリアを中心とした芸術、風景。時々日本。

ミラノでボッティチェリの‟もう1つの傑作”に出会ったーーポルディ・ペッツォーリ美術館

2017-07-18 | イタリア・ミラノ

 今回のイタリア旅行は、最初に、以前と変化したヴェネツィアの様子だけを紹介した。ここからは実際に旅した日程に沿って各地をアップして行こう。

 利用した飛行機はカタール航空.JALのマイレージを利用したのだが,JALにはイタリアへの直行便がない。そこでパリやフランクフルトから別の航空会社に乗り換える必要が出てくる。
 だが、カタール航空はJALと同じワンワールド加盟会社なので、JALのマイレージをそのまま利用でき、同社の飛行機だけでイタリアまで行くことが出来るからだ。
 南回りのため時間はかかるが、羽田発が夜中なのでミラノ着は昼の12時ころと、時間を有効に使えるのも決め手の1つだった。



 イタリアの第1歩はミラノ・マルペンサ空港。直行バスでミラノ中央駅に行き、駅近くのホテルにチェックイン。

 駅前にはなぜか大きなリンゴのモニュメントがあった。ヨーロッパのテロ対策か、軍の兵士の姿もちらほら。

 早速市内散策へ.タバッキで地下鉄切符を2枚購入してドゥオモ駅を目指す。最初の目的地はポルディ・ペッツォーリ美術館だ。

 ちょっと迷ったが、美術館到着。この美術館の目玉ボライウオーロの肖像画のシルエットが玄関上に。

 ジャン・ポルディ・ペッツォーリは19世紀のミラノ貴族で美術収集家。個人の邸宅がそのまま美術館になっているだけに、館内に入ると一般の美術館とは趣を異にした、落ち着いた雰囲気が漂う。

 展示室に通じる階段からして優雅だ。

 24物部屋に分かれた展示室の空間にゆったりとコレクションが展示されていて、とても見やすい。

 ボライウオーロの「若い貴婦人の肖像」はすぐに見つかった。貴族の女性を活写した肖像画。作者はピエロ・ボッライウオーロ。1400年代からルネサンスにかけて当時のイタリアでは横顔の肖像画が流行したが、ピエロとアントニオのボッライウオーロ兄弟はそんな肖像画の第一人者だった。ピエロの代表作ともいえるこの作品は表情、髪型、宝飾品に至るまで繊細に描かれており、この美術館の宝になっている。

 だが、私の探していた絵は別のもの。



 ボッティチェリの「書物の聖母子」。ところが、どこを探しても見当たらない。係員に尋ねると「現在、ボストンに貸し出し中です」。
 2014年に東京に来た時に見て、絶対もう1度会いたいと思っていたのに、ガックリ。

 それでもボッティチェリのもう1つの傑作には出会えた。

 「死せるキリストへの哀悼」。キリストが磔刑となり十字架から降ろされた時の状況を描いた作品だ。この場面は「ピエタ」という呼び方でも知られている。(実は今回の旅行中、実に沢山の「ピエタ」に出会うことになる)

 中心にいる聖母マリアは完全に失神してしまった。その聖母を支える福音書記者ヨハネも目をつぶり、ほとんど気力が感じられない。

 キリストは手を組み、「神よなぜ私をお見捨てになるのですか?」とつぶやいた死の直前の表情が、まだ残っているようにも見える。

 そのキリストの足先を包み込んでほおずりしているのが、マグダラのマリア。

 一番上、キリストの苦難の象徴であるいばらの冠と十字架の釘を捧げ持つアリマタヤのヨセフだけが、眼を開き天を見つめる。
 
 この部分だけを切り取ると、5人の8本の手がそれぞれにもつれあって、不思議な曲線を描いていることに気づいた。

 すべてのものが、時でさえも停止したような、静寂の瞬間。この絵はサヴォナローラが処刑された2年後の1500年に描かれたもの。一般的にボッティチェリはサヴォナローラに感化された後の作品は輝きを失ったといわれるが、少なくともこの絵に関しては、明るさや清廉さに代わって限りない悲しみの永遠性を表現する作品に昇華したように思える。



 他に目についたものは聖母子像の数々。これはあまり表情を現さない中世的な固い構図の母子像。

 こちらも平面的だが、何か表情が出てきている。

 こうなるともう普通の母子といってもいいような自由な構図。見つめあう母子の愛情が伝わる様だ。


 構図的には伝統を踏まえた形だが、この母は顔立ちからして現代的。鑑賞者を見ているような幼子キリストの視線などはまさに新しい。

 優しさという点ではこの聖母が群を抜いていた。自宅に飾るならこの絵が一番落ち着くかも。

 美しいステンドグラスもあった。

 ちょっと駆け足気味の鑑賞だったが、こうした個人美術館の面白さを味わえる場所として格好のモデルではないかと思った。

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